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「政治は自分のことを分かってくれない」と思ったら―ハフポストブログレビュー

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参議院選挙が終わり、都知事選の投開票日が近づいてきています。インターネット上では、選挙や政治に関する様々な言葉が飛び交いました。今回のハフポストブログレビューは、2016年7月2週を振り返ります。

自分の意見を曲げたくない


ジャーナリスト・評論家で恵泉女学園大学教授の武田徹さんは「『支持政党なし』善戦をもたらした"徹底的に孤立した個人"」<1>において、今回の参院選で、既存の政治へのアンチテーゼとして誕生した政党「支持政党なし」が64万7071票(比例区)獲得したことを挙げ、次のように論じました。

「(「支持政党なし」に投票した人は)小異は議論を積み上げてゆけば合意に至ると信じる熟議民主主義の信奉者でもない。束ねられることを嫌い、公共の利益実現のためであれ自分を曲げることを好まない、いわば徹底的に孤立した個人主義者だ。」

インターネットによって、私たちは「自分の好きなことにしか関心を持たず、他者と学び合わず孤立して生きること」(武田さん)が可能になりました。そんな「孤立した個人」の意見を、政治がすくい取ることは事実上不可能なのではないでしょうか。

政治家は様々な有権者の声を聞きますが、すべての人の要望を100%政策に反映することはできず、妥協や交渉を重ねて意見を「まとめ」ます。政党を作って群れ、政党のルールにも従います。「支持政党なし」に投票した人にとって、そうした行為は、一人一人の「思い」を、ねじ曲げているようにみえるのかもしれません。

ワインを飲みながら語ってみる


大学生の田嶋嶺子さんは「『投票率が低いのは、政治に興味が持てないから』? 田原総一朗さんと議論した20歳の考察 #YoungVoice」<2>で、ジャーナリストの田原総一朗さんに若者の低投票率について聞かれ、「(政治に)興味が持てないから...」と答えて後悔した体験を書きました。

ニュースをよく読み、本当は政治に関心があるのに、ひねくれた答えをしてしまった自分。高校時代のある先輩が、「お金を払って大学で勉強しているので、もっと自覚を持て」という趣旨のことを言って、怒ったそうです。その後も田嶋さんと先輩の(いい意味での)ゴチャゴチャとしたやり取りが紹介されています。

田嶋さんは「私ひとりの意見なんてとても小さな力しかないけれど、こうやって誰かが反応を加えてくれることで2倍の厚みのある空間になる」として、先輩とのやり取りを、ポジティブに捉えています。

政治家に意見をまとめられて、民意が「集約」されることは、どこか気持ち悪い。政治をめぐる話題は、「賛成」や「反対」を表明しないといけないプレッシャーがあります。でも、田嶋さんのように、ゴチャゴチャした雑談、自分の迷いと向き合うことから始めるべきなのでしょう。「集約」しようとするからつまらないのです。

ワインの杯を重ねつつ、エロス(愛)について、縦横無尽に語り続けるプラトン『饗宴』(岩波文庫)の愉快さを思い出しました。

舛添氏叩きはマスメディア主導だったのか


計量経済学の専門家、田中辰雄さんが「舛添騒動で得たものと失ったもの」<3>で面白い指摘をしています。辞職した東京都の舛添要一・前知事について、東京都在住の2400人をサンプルにアンケートしたところ、「ネットのヘビーユーザは相対的には舛添氏に対して容認的」であり、「テレビ・新聞というマスメディアの利用時間が長い人ほど舛添氏を辞任させるべきだったという人が増える」という傾向がみえるというのです。

政治資金をめぐる舛添氏の問題は、批判されるべきことです。一方、舛添氏がやったことに違和感があっても、「辞めさせて選挙をするコストの方が高く付くのではないか」などの意見はTwitterやFacebookで見られました。

単純な賛否に収まりきらない複雑な声を誰もが発信できるようになった現代。「炎上」を恐れることなくこうした意見がうまく表明され、ゆっくりと吟味できる社会を私たちは作らないといけないと思います。

そうしたことは、最大公約数的なコンテンツを作るテレビや新聞などのマスメディアは苦手。複雑さと多様さをうまく表現できるネットメディアとして踏ん張りたいところです。

空気を読まないで、一緒になる


多様な意見がどんどん出てくるのは素晴らしいですが、生きていく上で、あるいは社会を回すために、時には賛否が分かれる物事を決断し、前に進まないといけない。

個人の自由と集団の論理をどう両立させるか。シカゴ大教授で、経済産業研究所客員研究員の山口一男さんは「ダイバーシティ推進―お茶の水女子大学講演での質疑応答を顧みて」<4>で、「Conformity(同調)」と「Cooperation(協力)」の違いを説明します。

前者は「空気を読んで、無理に人に合わせること」。一方後者は、他者の知識や意見との違いを認め合い、共通のゴールに向けて共同作業をすることを指します。日本の学校や会社では、前者が多いのではないでしょうか。

新しい「ものさし」


最後にご紹介したいのは、朝日新聞社デジタル本部の林智彦さんが書かれた「電子雑誌元年がやってきた(後編)--「紙雑誌は死んだ」から「だから何?」の時代へ」。雑誌の紙の部数だけでなく、デジタルで記事が読まれている数値を見ていくと、出版社の勢力図が違ってみえます。

紙の部数という「古い指標」だけしか見ないので、伝統メディアの人達は暗い顔をしているのでしょうね。

多様な意見を大切にし、発想を転換するためには、物事の価値を決める指標をたくさん持つことが必須。そして、「歴史を動かすのは、軽薄な予言ではなく、具体的な事実でありお金であり、実際にビジネスを動かす実務家でしょう」(林さん)。

政治は自分を分かってくれない。そんな風に感じるのは、私たち自身が複雑で多様だからです。そして隣の彼も彼女も、時代遅れの上司も。みんなの意見に押しつぶされず、染まらず、社会で過ごすにはどうすればいいのか。毎日を生きて、自分なりの「具体的な事実」を積み重ねるしかありません。

2016年7月2週の5本

  1. 1.「『支持政党なし』善戦をもたらした"徹底的に孤立した個人"」(武田徹 /ハフィントンポスト日本版)
  2. 2.「『投票率が低いのは、政治に興味が持てないから』? 田原総一朗さんと議論した20歳の考察 #YoungVoice」(田嶋嶺子 /ハフィントンポスト日本版)
  3. 3.「舛添騒動で得たものと失ったもの」(田中辰雄/シノドス)
  4. 4.「ダイバーシティ推進―お茶の水女子大学講演での質疑応答を顧みて」(山口一男/ハフィントンポスト日本版)
  5. 5.「電子雑誌元年がやってきた(後編)--「紙雑誌は死んだ」から「だから何?」の時代へ」(林智彦/CNET Japan)