戦場に暮らす優しい人々−シリアでの生活を、同国からの留学生に聞く

「シリアの人たちにとっての爆弾は、日本人にとっての地震みたいなもの。その時は怖いし逃げ惑うけれど、落ち着いたあとはいつも通りに生活するわ」

北にトルコ、南にヨルダン、西にレバノン、南東にイラクと国境を接する国、シリア。海と山、 砂漠と小さな島を持つ同国の名は、近頃ニュースでよく耳にするようになった。

シリアというと、 皆さんはどんなイメージを持つだろう。紛争、難民、IS……あまり良いイメージの言葉は浮かんでこないかもしれない。しかし、ほんとうにそれだけなのだろうか?

シリアからの留学生 Meriamさんに、同国の気候や食文化、そこに暮らす人々やかれらの生活のあり方について話してもらった。

(Meriamさんによる撮影)

【シリアの気候】

ひとくちにシリアといっても都市部なのか、海辺なのか、山岳地帯なのか、砂漠地帯なのかによっ てその気候はさまざまだ。Meriamさんが暮らしていた首都ダマスカスは、緯度が東京と大体同じであるために季節や気候は東京によく似ている。

夏は40度近くまで気温が上がることもあるが、 湿気がなく乾燥しているので日陰にいれば比較的過ごしやすい。雨は多くなく、水は貴重だ。「東京の6月はジメジメしていて疲れてしまう。シリアには梅雨がないから」とため息をつく。

【シリアの宗教】

国民の90%はイスラーム教徒だが、キリスト教徒はもちろん、無宗教の人もいる。また、イスラーム教徒のなかでも信仰の度合いは人それぞれで、とくに若者の間では宗教をそれほど大切なものと捉えていない人も多い。

女性が肌を覆い隠すためのヒジャブは着用が義務付けられているわけではなく、だいたい中学生になる頃、着けるか着けないかを家族や友人たちと相談しながら自分で決めるという。着用しないと決める人もいるため、肌を露出することは基本的に問題にはならない。ショートパンツなどはあまり一般的ではないが、外国人が着ているぶんにはとくべつ問題視もされないそうだ。

日本では女性の多くがトレンドに気を遣い、おしゃれを楽しむ傾向にあるが、それはシリアにおいても同じこと。ヒジャブを着用すると決めた女性にとって、その巻き方は一大おしゃれポイントだ。素材や色、柄、巻き方の形に至るまでその種類はじつにさまざまで、女性たちは毎朝時間をか けて髪をセットし、入念に選んだヒジャブを着用する。

プラスチックの芯のようなものを入れてまるで帽子のように形を変えてみたり、瞳の色とあわせた色を選んでみたり、洋服とのバランスを考えてコーディネートしてみたり……。流行りの色や形もあるため、ファッション誌のチェックは欠かせない。

【シリアの学校生活】

学校は、日本の公立校と同じように週休2日制。ただし休みになるのは金曜日と土曜日だ。金曜日の朝にはお祈りをし、家族でそろって朝ごはんを食べる。日本では「花金」などと呼ばれ、もっぱら金曜日が好かれ日曜日が嫌われる傾向にあるのに対し、シリアでは木曜日がもてはやされる。 木曜の夜は友人たちと街にくりだし、遅くまで飲んだり食べたり喋ったりとめいっぱい楽しむのだ。

また、日本では一般的な部活やサークルといったものは基本的に存在しない。学費は高校までは無料、国立なら大学もきわめて安い。Meriamさんが通っていたダマスカス大学は年間わずか1,000円ほどだったという。 そのぶん国立は生徒数が多いため、競争も激しい。大学院まで進んだり、奨学金を獲得できたりするのはほんの一握りの優秀な生徒だけだという。

【シリアの食事】

1日のなかで最も豪華なのは昼食だ。朝と夜は基本的にお米は食べず、パンやチーズなどで軽くすませる。主食は米だが、白米はあまり好まれない。たいていは具と一緒に炒めてピラフにするか、 麺をいれて炒めるかのどちらかだ。

「白米は日本でいうところのおかゆみたいな存在。病人食というイメージが強いかな」。Meriamさんのイチオシはラクダ肉のケパブ。脂が少ないラクダの肉を羊の脂と一緒に調理することで、独特のうまみが引き出されるのだ。

果物や野菜は種類が豊富で、また値段も非常に安い。あまりに安いので、一般家庭でも基本的にはキロ単位で買う。スイカが12キロで100円以下だったこともあったという。キロ単位で買うことがふつうであるため、たとえばリンゴを1つだけ買うとなるとお店の人に笑われる。「1個くらいだったらタダで持って行っていいよ、あげるよ」なんて言われることもあるそうだ。

【シリアのひとびと】

国の情勢はいまだ不安定で、先行きは不透明。度重なる砲撃により街は破壊され、経済も深刻なダメージを受けている。Meriamさんが通っていた大学に爆弾が落ちてきたこともあるという。

「でも、もう5年も続いているから。シリアの人たちにとっての爆弾は、日本人にとっての地震みたいなもの。その時は怖いし逃げ惑うけれど、落ち着いたあとはいつも通りに生活するわ」

2014年、ダマスカス郊外に大きな遊園地が建設された。

2015年夏、シリア難民は400万人を超えた。

爆撃が落ち着けば、ひとびとはパーティーに出かけるし、クラブで踊り明かすこともある。

かつて観光地として栄えた古都アレッポは、数年におよぶ爆撃で変わり果てた。

シリアはいま、戦場だ。しかし同時に、生活の場でもある。毎日は営まれる。そこにはたしかに、ひとびとの暮らしがある。

シリアのひとびとはよく笑う。比較的戦火の及んでいない首都ダマスカスでも、いまは電気を24時間使いづづけることはできない。停電の間はろうそくを持ち出して、その明かりでトランプゲームをする。輪になってシーシャを吸い、歌い、笑う。

シリアのひとびとはびっくりするほど優しい。道で泣きだしてしまうようなことがあれば、あっという 間に10人以上が集まってきて「どうしたの?」「何があったの?」と心配の声をかける。

レストランで一人で食事をしようものなら「なぜひとりなの?」「悲しいことがあったのね、かわいそうに。お代はいらないわ」とすぐさま慰めてくれる。道に迷って途方に暮れている人がいれば、「うちに寄っていきなさいよ」とお茶を出してくれる。知らない人でも泊めてくれることさえあるという。

シリアがすき? と尋ねてみる。

「大好き。何もないけど、何もないのにあたたかいの。いつも楽しいの」

私たちにできることはなんだろうか。

記事出典:「意外なあの国!シリア編」− "外大生しか知らない、を世界に" 現役東京外国語大生が運営するwebメディアWonderful Wander第7号より

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