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食の無形文化遺産っていったい何なんだ(後編)

2013年11月15日 18時33分 JST | 更新 2014年01月15日 19時12分 JST

10月22日に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録される見通し、という発表がされました。最終的な決定がされるのは今年の12月上旬ですが、登録はほぼ確実ということです。

しかしそもそも「和食が無形文化遺産」と言われても、どういうことだかイマイチわかりませんよね。しかし、日本と同様「キムチとキムジャン文化」が登録される見通しの韓国では、この認識があやふやであることによって、ユネスコから警告を受けるなどの問題も生じています。そこで、「食の無形文化遺産っていったい何なんだ(前編)」では「そもそも食の無形文化遺産とはいったい何なのか」ということについて解説しました。そして今回の後編では「無形文化遺産としての和食とはどのようなものなのか」を書いてみようと思います。

前編では、過去に登録されている4つの食の無形文化遺産を挙げ、食の機能が下記の5つに分類されることに着目して分析を行いました。

※食の機能:

「生理的機能(エネルギーや栄養素を摂取)」

「精神的機能(楽しむ、心理的満足)」

「社会的機能(交流)」

「文化的機能(行事や儀式など)」

「教育的機能(食卓における教育)」

そして無形文化遺産では、食の機能における社会的・文化的・教育的の3つの機能が重視されているという点について解説しました。つまり食の無形文化遺産は、味の良さや栄養的な特徴から離れ、その食が持つ社会的・文化的役割や、それらに関わる知識・技術などの要素、そしてそれらがどのように継承されているのか、によって評価・構成されています。それでは、和食には、どのような社会的・文化的要素が内包されているのでしょうか。

■「和食:日本人の伝統的な食文化」とは

今回無形文化遺産に申請された「和食:日本人の伝統的な食文化」の定義・詳細については、農林水産省のHPや申請書に詳しく記載されています。(農林水産省HP「日本食文化を、ユネスコ無形文化遺産に」)これらを整理すると以下の要点に分けられます。

(1)「自然の尊重」が基本的な精神である:日本は南北に長く四季が明確で、季節や地域ごとに様々な食材が得られます。また、気候は比較的穏やかで、海からも山野からも豊富な食材が手に入ります。このように多彩な食材に恵まれていることから、季節感を大事にし、素材の味わいを活かす料理や技術が発達しました。

(2)日本人の帰属意識を強めるものである:和食、すなわち他の日本人や祖先が味わってきた食事を共にすることで、日本の伝統や日本人としてのアイデンティティを再認識させる役割があります。

(3) 地域や家族の関わりを深める:家族で食卓を囲むことで家族の中を深めたり、行事食においては、地域の絆を強くする働きもあります。今では減りつつありますが、正月の餅つきや秋の収穫祭など、地域で協力して行事食の準備をすることで、地域における人のつながりを形成しています。

(4) 日本人の健康に貢献している:和食の、一汁三菜を基本とする食事スタイルは、バランスがよく健康的であると言われています。また豊富なうま味を持つ出汁や発酵調味料を活用することで、カロリー摂取の抑制や肥満防止に寄与しています。

これを食の5つの機能に分類してみましょう。(1)と(2)が文化的機能、(3)が社会的機能、(4)が生理的機能、となるでしょうか。中でも(1)の「自然の尊重」はこれらの要となるポイントと言えるでしょう。また、(4)に生理的機能が含まれる点も他にない特徴です。

■自然や地理的条件に基づいた日本の食文化

日本の文化は「自然の尊重」という精神に基づいたものであり、和食はそれを体現するものと言えます。

日本は温帯に属し、平均雨量が1800mm(世界平均が700mm程度)と大変恵まれた自然環境にあります。加えて四季がはっきりとして、海に囲まれ山々も多いことから、季節ごと地域ごとの多様性が日本の地理的な特色です。日本の文学や美術などを振り返ってみると、こうした多様な顔を持つ自然に寄り添い、感謝し、活かすというのが日本の文化の特徴のひとつと言えるのではないでしょうか。

和食も、この文化・気質に基づいたものであると定義されています。季節の移り変わりにあわせて、旬の食材を食べ、季節を思わせる盛りつけや飾りをあしらいます。例えば、春には桜や菜の花をイメージした彩りを用いたり、新筍と新若布を使った若竹煮は「春先の出会いもの」として喜ばれたりします。

また、海や山による様々な地形や緯度による気候の違いといった地理的条件に歴史的な背景が加わり、地域ごとに様々な郷土料理が存在します。例えば先日の「ごちそうさん」にも出てきた「がわがわ」は、静岡県御前崎市周辺の郷土料理。鰹や鯵などの夏にとれる魚を新鮮なうちにたたき、薬味と一緒に、冷たいみそ汁に入れてつくります。これはもともと、この辺りの漁師さんが、夏の暑い時期に船の上で作って食べていたもの。海が近い漁師町らしい郷土料理です。一方、海が遠い京都では、かつては新鮮な海の幸なんて手に入りませんでしたから、若狭でとれた鯖を塩漬けにして運んでいました。輸送に使われた道が「鯖街道」と呼ばれるほど。京都で最も代表的なお寿司といえば、この鯖でつくった「鯖寿司」です。海から離れた土地ならではの努力と工夫が詰まった郷土料理です。

(2)の和食が日本人としてのアイデンティティを強めるというのも、和食自体が、日本の文化をよく表したものであるからではないでしょうか。また、(3)で社会的機能として挙げたように、行事食の支度や食卓を通じて人と人の関わりが深まるというのもまた、和食が日本の文化を共に作り上げ、継承していく場として機能しているからかもしれません。

■出汁や発酵調味料を活用するうま味文化

もう1点特徴的なのが健康への貢献が挙げられていることです。これは他の食の無形文化遺産にはあまり見られない要素です。しかし、この健康的な食事スタイルもまた、日本の歴史や地理に影響を受けて発展した文化的なものであり、それが結果的に長寿や肥満防止など健康面にも結びついています。

和食を健康的な食事として特徴づけているのは、動物性油脂を使わず、味噌や醤油などの発酵調味料や出汁のうま味によって満足感を与えているという点です。発酵調味料や出汁のうま味を活用することは、もともとアジア全体で一般的なことでした。しかし肉食文化圏の拡大とともに肉食や油脂の使用が広がり、徐々に存在感が薄れていきました。一方日本では、仏教の影響により6世紀頃から肉食が禁止され、そこから明治に至るまでの長い間、肉食は一般的ではありませんでした。島国であったことから、外国からの侵略を受けにくかったというのがひとつの要因でしょう。鎌倉時代の「元寇」により元に侵略されていたら、今の和食はなかったかもしれません。肉食の禁止は実際には、時代ごとに厳しくなったりゆるくなったり、鶏や猪などの例外が認められたりもしましたが、それでも、肉食を忌避する風潮は明治の文明開化まで続きました。なんと1000年以上!そのため、肉のうま味や動物性油脂によって得られる満足感を補うため、出汁や発酵調味料を重視した食文化が発達したと考えられます。

現在多くの国で問題となっている肥満や生活習慣病の多くは動物性油脂の摂り過ぎによる部分が大きいとされています。一方うま味が、動物性油脂によって得られる満足感を補い、カロリー摂取の抑制に効果があるという点について、研究が進められています。日本人のみならず、世界的にも今後重要な食の知恵として和食を活用していくことができるかもしれません。

さて、今回は和食全般に関して説明をさせていただきましたが、和食の中でも特にお正月料理に、これらの特徴がよく表れています。食の無形文化遺産としてのお正月料理についても、今後詳しくお話していきたいと思います。また、和食の健康への寄与についても、一度まとめてみたいと思います。(一応「科学する」料理研究家/ライターですので・・・)

どうぞお楽しみに。