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その「和モダン」はもう古い 日本の空港は変わった!

2015年05月22日 15時53分 JST | 更新 2016年05月21日 18時12分 JST

最初に降り立つ場所だから。国の第一印象は「空港」から!

私は、空港という場所が好きです。なぜなら空港に降り立った瞬間に、その国の「らしさ」や「表情」を感じ、その国を今から堪能するぞ!という異様な高揚感に包まれる場所だからです。昨年末にカタール航空を利用した際、ドーハ・ハマド空港に降り立ちました。近未来的なデザインと中東を感じるきらびやかな豪華さに度肝を抜かれました。ドーハの印象って、サッカー日本代表の「ドーハの悲劇」以来なかったのですが、中東を代表する国なのだと認識し、あらためて空港はその国の玄関なのだと実感しました。

例えば、韓国の金浦国際空港に降り立てばキムチの匂いがするし、アメリカ・シアトルのシアトル・タコマ国際空港ではコーヒーの香りがする。空港とは、その国の第一印象を「五感」で決定づける場所。改めて考えてみれば、なんて大切な空間なのかと。

では、日本は? 日本の空港のイメージは?

正直に言ってしまうと、その印象は薄く、ほとんど無色に近い。残念ながらこの国の玄関としてワクワクさせてくれる要素は見つけづらいのでは......と、そう思っていました。つい最近までは。

それが、今は違うのです。希望を感じているその理由は、今年4月にオープンしたばかりの成田空港の第3ターミナル。LCC(ローコストキャリア)専用として始まったその場所は、これまでの日本の空港とは一線を画します。デザインを担当したクリエイティブラボ「PARTY」代表取締役(CEO)、クリエイティブディレクターの伊藤直樹さんにお話を伺ってみました。

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そのデザインの秘密は、「静」と「動」の絶妙なバランス

実は、伊藤さんは2011年より2年にわたり経済産業省「クールジャパン官民有識者会議」のメンバーでした。会議では当時から「空港そのもので日本をプレゼンテーションしたい」と、空港のあり方の議論を重ねていたといいます。

しかし、既存の空港を全く新しく作り変えるのは言うまでもなく困難なこと。半ばあきらめていた伊藤さんの元に舞い込んだのが、この成田空港第3ターミナルの話だったとのこと。

既存の空港では当たり前の「動く歩道」も「内照式のサイン看板」も一切設置せず、徹底的にローコストを目指した空港。そのデザインのポイントは、「動」と「静」という正反対の要素の、絶妙なる融合です。

まず、「動的デザイン」の要となるのはターミナルに敷設された陸上用のトラックです。「トラックの反発する地面は、足首や膝への負担を軽減してくれる。そして何より、体が飛び跳ねるような感覚で、歩く行為が楽しくなるのです」結果、動く歩道の設置コストも削減できる。コスト削減策として、これ以上にワクワクさせてくれるアイディアがあるでしょうか。

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さらにそのスカイブルーは、「ウユニ塩湖のごとく空が写り込んだかのようなイメージ」と伊藤さん。開放感あふれる「ブルースカイトラック」に、白い線がシュッと引かれると、先へ先へと続く動線が生まれ、あたかも滑走路とシームレスに繋がっているかのような感覚になる。それは、トラックを飛び跳ねるように歩く体感とともに「旅立ちの高揚感」をもたらしてくれるのです。

そしてさらにもう一つ、このトラックの白い線の内に入ると、人は前へ前へと進みたくなる。結果として、特定の場所に人が滞留することを防いでくれるのです。夢に満ちたストーリー性と機能性の両面を満たす、本当に素晴らしいデザインですね。

ヒントは京都から。キーワードは「日本的ミニマリズム

そして次は、「静的デザイン」。ここでのヒントは京都の街です。ここ3年ほど京都を度々訪れていたという伊藤さんは、京都の土地から大きなヒントを得たのだとか。「まずは縦横の道が碁盤の目状に整った街の姿。そして建物の高さ制限や色制限の徹底ぶり。世界遺産を目指す京都の街は本気です。そうやって観光都市としての姿を保持しているわけです」

伊藤さん曰く、それはまさに『人を迎え入れる場の美意識』。

「その考え方を取り入れた場所が、例えばフードコート。各店舗の前に『うどん』や『ラーメン』というサインがあるのですが、そのデザインを白一色で統一して視覚的イメージを整えている。ある意味それらは京都の老舗を彷彿とさせる『のれん』のような役割を果たしています」

さらに今回、空港全体で採用したベンチや机などの設備はすべて良品計画によるオリジナル。「待ち時間の長い空港で旅する人たちに快適さを届けたい」との思いで作られた家具はエアポートシリーズとして実店舗でも販売し、空港とリンクさせるといいます。「外国に『今の日本』をプレゼンテーションするとき、選ぶべきなのは決して、よくある『和モダン柄』ではないわけです。むしろMUJIやユニクロに通じる日本的なミニマリズム。だから、今回もデザインらしいデザインは徹底的に排除しています。MUJIのソファベンチ450台がズラッと並んだサテライトのゲートは壮観ですよ」

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いよいよ次は地方へ。成田をヒントに知恵を出し合おう

思えば日本は、「モノ」のデザインは得意なのです。例えば車、そしてニッチなところではトイレのウォッシュレットなどもそうでしょう。「おもてなし」と「技術」を掛け合わせた、まさに前回の記事で紹介した「ウォームテック」です。

ですが、建物はどうでしょうか。実際、外国人観光客の多くが観光に訪れる「日本の建築」は寺社仏閣など何世紀も前の古き建物。現存する明治・大正の近代建築など、個別に見れば素敵な建物がいくつもありますが、それらは「日本的な建築デザイン」とはまた異なる話なのかもしれません。

でも、私たちはこの成田空港第3ターミナルで、ついに新たな道筋を見つけたのかもしれません。京都に見るミニマルな美しさ「静的デザイン」と、現代的な機能美を備えた「動的デザイン」が融合した空間。ここに新たなジャパンプレゼンテーションの可能性を感じています。

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昨今の円安の影響もあり、2020年の東京オリンピックに向け外国人観光客は増える一方。そうなったとき、次に必要となるのは中心である東京から、それぞれに個性豊かな「地方」へと誘う導線のプロデュースでしょう。幸いにもLCCの多くは鹿児島や宮崎など様々な地方へ就航しており、すでに道は繋がっているのです。

だからこそ考えたいのは、地方の交通機関、インフラのあり方でしょう。例えば設置するサインや案内板の一つをとっても、考える余地は大いにありそうです。ポイントは、機能性もストーリー性も満たす「日本的デザイン」の取り入れ方。キーワードは「静」と「動」。功を奏すれば、日本全体を盛り上げることにつながるのでは?この成田空港第3ターミナルが、大きなヒントになりそうです。