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ならば、特定秘密保護法に賛成する新聞の見解も読んでみよう

2013年12月08日 23時03分 JST | 更新 2014年02月07日 19時12分 JST

■「家にゴキブリがたくさん出た話」が教えてくれること

「日本はスパイ天国」「現行法だけでは国際的に相手にしてもらえない」と事情通を気取っている方々にお尋ねしたいのは、もしも貴方が言うように、天国のようにスパイがいて(?)、諸外国から相手にすらされないような状況に陥っているという深刻な現状把握にあるならば、どうして法律の強化だけで一掃できると断言することができるのだろうか。天国のようにスパイがいるならば、新たなる法律などものともしないスパイも出てくるだろう。さて、これに絡めるように、あるエピソードを一つ。

まだ実家暮らしだった頃、そんなにキレイではないマンションの我が家にやたらとゴキブリが出るようになった。母親は強力な殺虫スプレーを購入し、いつでも来い、というような心づもりで、そのスプレーをテーブルに置いていた。醤油・塩・殺虫スプレー・爪楊枝という並びは当然ながら家族から非難を浴びた。兄がとても建設的なことを言った。「てゆうか、この家にゴキブリがいるってことがまず問題でしょ。それを殺すために強力なスプレーを買うってことは、この家にゴキブリがいるのはしょうがないってこと?」。その通りだった。家にゴキブリがいる、ならば、どこにいてどのように住みついているのかを探るのが問題解決に繋がる方法だ。強力な殺虫スプレーを買いました、ではなく、ゴキブリの住処と繁殖の仕組みが分かれば、わざわざ殺虫スプレーを買わずとも「すでに家にあったスプレー」で十分に始末できるはずなのだった。さて今回、国家公務員法と自衛隊法の罰則強化だけでは追いつかないと、新たに「強力な殺虫スプレー」を手に入れたわけだが、そもそもそのゴキブリ天国......じゃなかったスパイ天国と称される「家」の作り・管理に問題があるとはなぜ考えないのか。

この続きはたとえ話。「あそこの家、沢山ゴキブリが出るのよね、玄関からスルスルって出てくるのを見ちゃったのよ」と、マンションの住民同士が噂をしている。その噂を聞きつけたアパートのオーナーがわが家をノックする。「あのう、この部屋から沢山ゴキブリが出ているって苦情が来ましてね......」。母は答える、「失礼しました、ご迷惑をおかけしてしまって。これからいつだって皆さんと仲良く過ごしていかなくてはいけませんのに」「そうですよね。それで......」「ええ、ですので、出てきたゴキブリをすぐに殺せるよう、強力な殺虫スプレーを買いましたっ!」「(絶句し、声には出さずに)いや、私が聞きたいのはなぜお宅の部屋からはゴキブリが発生してしまうか、なのだけれども......」。

■「普通の国民」という、排他的な言葉遣い

産經新聞は6日の特集記事「秘密保護法 なぜ必要?」の中で、賛成論者として初代内閣安全保障室長・佐々淳行氏のコメントを掲載している。「私が警察庁や防衛庁に勤めていたころ、外国の情報機関から『日本に話すと2、3日後に新聞に出てしまう』と言われたことが何度もあった。官僚や政治家がマスコミに漏らしてしまうからだ」。うん、だから、繰り返すけれど、その漏らす「家」が問題なのであって、殺虫スプレーの保有の有無は根本的な解決にならない。いいや、殺虫スプレーにはこんな効果が見込めるんだった。ゴキブリかもと思った瞬間にスプレーを噴射できてしまう速効性。よく見たら実は黒い布切れだったり、すみっこに溜まった大きなホコリだったとしても、その瞬間にはそんな可能性に思いめぐらせてはいけない。だってゴキブリみたいだったんだもん、と開き直ることで済まされてしまう。

成立翌日7日の読売新聞社説は、「日本にもようやく米英など他の先進国並みの機密保全体制が整った」と切り出し、国民の疑念については「普通の国民が対象となることはない」と書いた。一見、「普通の言葉遣い」に思えるけども、実はこれほど排他的な言葉遣いはない。この法律の根にある狙いを露わにしているとも言える。要するにこの法律は「普通の国民」か、そうでないかの判断を時の政府に委ねることになった、ということなのだから。

特定機密を取り扱う民間人は「適正評価」を受けることになる。「スパイやテロとの関係」「犯罪・懲戒歴」から「精神疾患」「飲酒の節度」「借金など経済状況」、そして、親・兄弟姉妹・配偶者などの「国籍(旧国籍含む)」まで調査されることになる。「普通の国民」かどうかは、ここまで洗われないと認定されることがない。産經新聞も7日の社説でやっぱりこう書いた。「公務員や防衛秘密に触れる会社員らを審査する『適正評価』の仕組みを導入する。プライバシーを盾にした批判もあるが、一般の国民が審査されるわけではない」。「普通の国民」や「一般の国民」は、「国民」とイコールではない。プライバシーを盾になんかしてないで、丸裸になって審査を受けなければならなくなった。素っ裸になれないのはやましいものを隠しているからだ、と長年暮らしてきた国で「入国審査」を受け直させられるような事態になってしまった。

■「広報機関」に報道機能を求めるこちらが間違っているのか

6日の読売新聞政治欄に載った政治部次長・松永宏朗氏の「民主主義 誰が『破壊』?」の記事は、日本新聞協会の声明「政府や行政機関の運用次第で、憲法が保障する取材・報道の自由が制約されかねない」を率先して内々から破り捨てる論調だった。衆院・参院とも約3分の2の「国民の代表者」たちが賛成しているのだから、これ以上の議論・引き延ばしなどせず成立させるべきだ、とした。そしてこう続けた。

「にもかかわらず、この法案について『民主主義の崩壊』などと批判を浴びせる人たちがいる。立場の違いがあるとしても、『国民の代表者』たちの多数の声を無視して、3分の1以下の少数者の言うとおりにせよ、というのは『憲法の規定を無視せよ』というに等しい」。

確認しておくが、これは政治家のコメントではない、大手新聞社の文章である。問いたい、なぜ「3分の1以下の少数者の言うとおりにせよ」という認識に至るのか。そちらが規定する少数者側は、「こちらの話も聞け」「少しは耳を傾けろ」と言い続けてきただけだ。それを「言うとおりにしろ」とまとめる感覚はどこからくるのか。「デモ=テロ」の石破茂幹事長と全く同じ思考回路ではないか。

さかのぼること10日ほど前、読売新聞新社屋の完成パーティーに安倍首相を招き入れた時のエピソード。「首相は読売新聞グループ本社の渡辺恒雄会長・主筆の部屋を同社関係者に尋ねた際に『それは秘密』と言われたことを紹介し、『読売新聞の特定秘密なんだと(思った)』と述べ」たそうだ(朝日新聞デジタル)。「広報機関」に報道機能を求めるこちらが間違っているのかもしれない。

■なぜか頻出する「酒に酔って情報をばらす防衛産業や官僚の男」

法案成立の最終局面を迎えた6日、そして成立後の7日、朝日新聞に載った秘密保護法の危うさを警鐘するイラスト付きの具体例が、むしろ国民の危機感を散らかせてしまうお門違いの出来で空しかった。

6日の記事「規制の鎖 あなたにも」では<想定されるケース>としてこんな事例が紹介された。A子が同窓会で再会したB男は防衛産業で働いている。酒に酔い饒舌になりながら「実はミサイルを研究していてね......」(そのイラストでは北朝鮮の位置からミサイルが発射されている)と漏らし、その話を聞いたA子がその旨をブログに書き込んだ。そうすると、A子は「教唆」、B男は「漏洩」にあたる、という。翌日の産經新聞「産經抄」でキッチリ拾われ、「大げさなつくり話は、読者を鼻白ませるだけである」と小馬鹿にされているが、その通りだ。

朝日新聞は成立後7日朝刊でも同じような事案を載せた。居酒屋のカウンターで隣り合う防衛官僚とジャーナリスト。ほろ酔いの二人、「例の案件、教えてくださいよ」とジャーナリストが防衛官僚の肩をぽんぽん叩いている。防衛官僚は「22条『知る権利』に配慮か......」と意を決して話し始める。しかし実はこのジャーナリストは最近国際結婚したばかり、その妻はX国の公的機関にも勤めたことのある女性だと分かる。後日「話聞かせて!」と捜査当局がやってくる......というストーリーだ。

どちらもイラストで解説している記事だから、斜め読みの読者の目にも多く止まったことだろう。その読者は総じて「あ、この法律は自分には関係ないんだな」と思ったに違いない。いくらでも秘密の範囲を拡張できる危うさをしぶとく訴えるべき時分に、なぜか「酒に酔うと情報をばらしてしまう防衛産業や官僚の男」を頻出させてこの事例に懸念を代表させる。今回、マスコミは、「知る権利」を訴える際に、「国民が」という主語を一休みさせて「ひとまずはマスコミが」という主語にスライドさせた。このことが「私には関係ない」という国民を増幅させた気がしてならないが、このイラストはその象徴とも言えるかもしれない。

■マンションの住民はこれでようやくマンションのオーナーに顔向けできる

冒頭のゴキブリの話に戻る。強力な殺虫スプレーには即効性がある。ゴキブリに、仲間への仕打ちを見て怖じ気づく習性があるか知らないが、その「強力ジェット」の存在は確かに抑止力になるのだろう。ゴキブリとその家の主人には、殺虫スプレーの所持によって生まれる関係があるのかもしれない。しかし、その家で「ただただ暮らしている」人にとってはどうか。所構わず撒かれた殺虫スプレーは、家の空気を確実に濁らせる。別に大丈夫だよ、体に影響なんてないよ、と主人は言うだろう。しかし、あちこちに撒かれることで空気が知らぬ間に濁っていく。そして、あれがゴキブリか、あっちもゴキブリかと、落ち着かない空気が家の中を支配する。家の主人だけが、これでようやくマンションのオーナーに顔向けできる、と安堵することができる。

タイミング良く7日の産經新聞に掲載された安倍首相のインタビューはこう締めくくられていた。「どこかは言えませんが、ある国の情報機関のトップはNSCができて秘密保護の法律ができることによって、日本への情報提供はよりスムーズにいくとはっきり言っていましたね」。7日・読売の社説にはこうある。「米国はじめ各国からの重要な情報を入手し、連携を強めなければならない」。そして、「米国務省のハーフ副報道官は6日の記者会見で、日本の特定秘密保護法の成立について『機密情報の保護に関する政策や措置、手続き強化の前進を歓迎する』と述べた」という(日経新聞Web)。

同じ家で暮らすファミリーよりもマンションのオーナーのご機嫌取りを優先したのだ。殺虫スプレーが充満する部屋の中で息苦しさを覚えつつも、引き続き、家の主人へ物申していかなければならない。「民主国家では今世紀最悪」(朝日新聞デジタル)とのアメリカ人有識者の言葉が重くのしかかる。