トランスジェンダーの娘に、ふたりの校長先生が言った「衝撃的」な言葉

娘のニコルは、13歳の時から女の子として学校に通っています
ニコル・タルボット
JEANNE TALBOT
ニコル・タルボット

私の娘ニコルは、16歳のトランジェンダーの女の子。(彼女が)本当の自分として生き始めてから3年、これまでに2人の校長先生から、衝撃的なことを言われた。それは「想像もしていなかったほどに肯定的な言葉だった」からだ。

ニコルは、男の子として生まれた。だから最初は男の子だと思って育てた。私にとって、子育てのほとんどは心配ばかりだった。

ニコルは幼い時から、自分が本当は女の子だと言い出したら聞かなかった。むしろ成長するにつれてその気持ちは強くなった。ニコルが小さい頃から「自分は女の子」と思っていたことに私が気づくまで、12年かかった。それは一時的なものでも、成長の過程でも、大きくなったら消えるものでもなかった。

思い込みを捨てた後、私はトランスジェンダーについて学んだ。専門家やお医者さんと会い、同じトランスジェンダーの子どもを持つ親たちと話をした。我が子を娘として受け入れることはできたが、これからのことを考えると、恐怖心は消えなかった。

ニコルが社会でも女の子としての生活を始めたのは、7年生(日本の中学1年生に当たる)の途中からだった。

女の子として周りに受け入れられたい、新しい人生のページを開きたいと願う娘に対し、学校はそれを"正しい"方法でやりたいと考えた。ニコルは学校初のトランスジェンダーの生徒だったが、最後ではないと学校側はわかっていたからだ。

ニコルとしての学校生活を始める日にちが決められ、学校側はスタッフや教員のトレーニング、校則を変えるための準備などを始めた。学校をニコルだけでなく、全ての生徒がを受け入れられ、安全な場所にするために。

しかし、ニコルはその日まで待てなかった。自宅では女の子として生きていた彼女は、学校で男の子として振る舞うことに耐えられなかったのだ。

私は学校に電話をして「明日から、女の子として登校します」と伝えた。

ジャンヌとニコル
JEANNE TALBOT
ジャンヌとニコル

その日の朝は、期待と不安でいっぱいだった。とにかく良い状況になって欲しいと願いながら、最悪の自体に備えた。子ども達はニコルを理解して受け入れてくれるだろうか?友達から嫌がらせをされないだろうか?先生や学校はかばってくれるだろうか?

でも、私が心配していたようなことは、どれも起きなかった。校長先生は生徒たちに、娘の名前はニコルであると説明し、わかりやすく話をしてくれた。

「トランスジェンダーを知っている人はいる?」

「みんなは、自分の名前で呼んでもらえなかったら、どう感じますか?」

「もし、わざとニコルを別の名前で読んだら、校長先生や先生達は何て言うでしょう?そしてみんなは、どんな気持ちになる?」

一番前に座っていた女の子がおずおずと手を挙げた。「それはいじめのようなものだと思います」。校長先生は頷いた。「そうですね。いじめです。この学校の生徒は誰一人いじめはしませんよね?」

ニコルが学校に到着した時には、校長先生は明るい空気を作ってくれていた。そしてニコルはそれ以後、どこでもどんな時でも、ニコルとして生きるようになった。学校の管理者や先生達から助けてもらっているのだろうかと心配しなくてもよくなった。

その数カ月後、校長先生がニコルに言ったことに私は言葉を失った。

「ニコル、あなたは私の最高の先生です」

最高の先生!校長先生はニコルから、自分に嘘をつかずに生きること、勇気を持つこと、忍耐力を持つこと、つらい時で正しく生きることを、学んだと言ってくれたのだ。

JEANNE TALBOT

ニコルは2016年に中学校を卒業した。そこでまた、私は不安に襲われた。高校に進学したらどうなるだろう。生徒や両親、先生達は何と言うだろう?学校に対応をお願いするなど、親としてやるべきことはやっていたし、悲観的ではなかったけれど、周りが理解してくれるかどうかわからなかった。

しかしここでも、私の心配は不要だった。高校でも、娘はニコルとしてのびのびと生きた。良い成績をおさめ、友達を作り、ダンスを楽しみ、学校内や学校外のイベントに参加し、ミュージカル俳優になるという夢に向かって進んだ。

つい最近、高校の校長先生が口にした言葉に、私はまたしても衝撃を受けた。「ニコルがトランスジェンダーであるという事実は、彼女について一番とるに足らないことです」と、校長先生は言ったのだ。

シンプルだけど強力なメッセージが含まれている言葉だ。トランスジェンダーは、普通の人だ。家族を持ち、友人を持ち、趣味があり、才能にあふれ、何より夢に向かって生きる人たち。私たちと何も変わらない。

娘は、一番良い人生を生きていると思う。完璧ではないけれど、素晴らしい出来事で溢れている。

先月、画期的な出来事が起きた。NHL(ナショナルホッケーリーグ)ボストン・ブルーインズの試合で、国家を歌ったのだ。NHLの「ホッケーはみんなのスポーツ」キャンペーンの一環であり、ニコルは1万9000人のファンとTVで観戦していた何百万人もの前で歌声を披露して、拍手喝采を浴びた。

また「ジェンダー・クール・プロジェクト」に参加する5人のティーンエイジャーの一人として、トーク番組「メーガン・ケリー・トゥデイ」にも出演した。これは、トランスジェンダーについての語り方を「彼らは何か」から「彼らはどんな人か」に変えるプロジェクトだ。

(左から)ニコル・タルボット、メーガン・ケリー、ジャンヌ・タルボット
JEANNE TALBOT
(左から)ニコル・タルボット、メーガン・ケリー、ジャンヌ・タルボット

トランプ政権は、LGBTQの人たちに対して厳しい姿勢をとっているが、マサチューセッツ州はニコルの味方だ。

マサチューセッツ州議会は2016年、トランスジェンダーの人たちを差別から守るために、州の無差別法令を改正した。その際、私も裁判所でニコルのストーリーを語り、それはメディアを通して州全体に広がった。法令は選挙で撤廃される可能性もある。しかし過去に後戻りしないように、私たちはできる限りのことをするつもりだ。

学校、コミュニティ、家族、それに会ったことのない大勢の人たちが、私たちをサポートしてくれている。私たちは幸運だと思う。だから、一緒に歩く人たちやこれから歩く人のために、道を作りたい。

ストーリーには、世界を変える力がある。ニコルは彼女のストーリーを、ある願いと共に語る。それは、"トランスジェンダー"が、その他たくさんの事実と同じように、自分を説明する単なる形容詞になって欲しいという願いだ。

16歳の私の娘は、他の16歳の子ども達と何一つ変わらない。ブロードウェーの舞台に立つという夢を持つ高校生。間も無く運転免許を取得する予定だ。SNSをやりすぎ、宿題をしないこともある。彼女はそんな、10代の女の子だ。トランスジェンダーということは、彼女について語る上で、最もとるに足らない事実なのだ。

ジャンヌ・タルボット:16歳のトランスジェンダーの娘、ニコルを育てるシングルマザー。マサチューセッツ州やアメリカ全土で、トランスジェンダー擁護活動に積極的に取り組む。ハイテク企業で、マーケティングの仕事に携わる。

ハフポストUS版の記事を翻訳しました。

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