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民泊に関する新法の枠組みと論点

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民泊特区に関して、平成28年10月25日、最低宿泊日数を「6泊7日以上」から「2泊3日以上」に短縮する閣議決定されました。これにより特区を利用した民泊サービスは、これまでよりも利用しやすいものになると考えられます。

一方、「民泊サービス」のあり方検討会(以下、「検討会」といいます。)は、平成28年6月20日、最終報告書として『「民泊サービス」の制度設計のあり方について』(以下、「最終報告書」といいます。)を取りまとめています。

この最終報告書は、民泊に関する新法のたたき台になると考えられます。そこで、この最終報告書で示された民泊に関する制度設計の枠組みと論点について解説します。

第1 民泊に関する制度設計の枠組み


1 基本的な視点

検討会では、以下の3点を検討に当たっての「基本的な視点」として掲げていました。この3つの視点は、今後の制度設計の中でも重要な視点になると考えられます。

<検討会で掲げられた3つの「基本的な視点」>
① 衛生管理面、テロ等悪用防止の観点から、宿泊者の把握を含む管理機能が確保され、安全性が確保されること。
② 地域住民とのトラブル防止、宿泊者とのトラブル防止に留意すべきこと。
③ 観光立国を推進するため、急増する訪日外国人観光客の宿泊需要や、空きキャパシティの有効活用等地域活性化などの要請に応えること。

2 現行制度の枠組みの中での対応

検討会では、本来必要な旅館業法の許可を得ていない違法な民泊が広がっている状況に対して、簡易宿所の枠組みを活用した旅館業法の許可取得促進のための提言を行い、関係省庁において、簡易宿所の客室延床面積の基準緩和などの対応策が実施されてきました。

しかし、東京都台東区では、旅館業法施行条例を改正し、簡易宿所として営業許可を取得するには、営業従事者の常駐、玄関帳場等の設置が求めるなどして、区内においてワンルームマンション等の小規模施設で民泊を行うことを困難にしました。

台東区は、国の規制緩和は、近隣の住民とのトラブル等を拡大させる恐れもあり、近隣住民の良好な生活環境の確保と宿泊者の安全確保が必要であると説明しています。このような状況をみると、現行制度の枠組みの中での対応は十分な効果があったとはいえないでしょう。

3 民泊制度の基本的な考え方

検討会は、「民泊の健全な普及、多様化する宿泊ニーズや逼迫する宿泊需給への対応、空き家の有効活用など」を制度目的としました。

制度の対象とする民泊の位置づけについては、「住宅を活用した宿泊サービスの提供と位置付け、住宅を1日単位で利用者に利用させるもので、「一定の要件」の範囲内で、有償かつ反復継続するものとする。」としました。

「一定の要件」を超えて実施されるものは、新たな制度枠組みの対象外であり、旅館業法に基づく営業許可が必要であるとしています。

4 「民泊サービス」の類型

民泊サービスは、家主居住型と家主不在型の2つの類型に分けられます。どちらの類型も届出制とする制度設計となっています。

最終報告書では、「家主居住型(ホームステイ)」とは、住宅提供者が、住宅内に居住しながら(原則として住民票があること)、当該住宅の一部を利用者に利用させるものをいう(この場合、住宅内に居住する住宅提供者による管理が可能)と規定されています。

一方、「家主不在型」の民泊(出張やバカンスによる住宅提供者の不在期間中の住宅の貸出しは家主不在型と位置付け)については、家主居住型に比べ、騒音、ゴミ出し等による近隣トラブルや施設悪用等の危険性が高まり、また、近隣住 民からの苦情の申入れ先も不明確であるとして、住宅提供者が管理者に管理を委託することを必要とし、適正な管理や安全面・衛生面を確保することが求められています。

家主居住型の場合には、原則として住民票があることを要件としています。このため、家主居住型では、一人の家主が複数の住宅で民泊サービスを展開することはできないことになります。複数の住宅で民泊サービスを行う場合には、家主不在型となります。家主不在型では、「民泊施設管理者」が必要とされています。

利用者名簿の作成・保存、衛生管理、行政当局(保健衛生、警察、税務)への情報提供などの義務は、家主居住型は家主が、家主不在型では民泊施設管理者が、それぞれ責任を負う仕組みです。

どちらの類型でも、集合住宅(区分所有建物)の場合には管理規約違反の不存在の確認、住宅提供者が所有者でなく賃借人の場合には賃貸借契約(又貸しを認めない旨の条項を含む)違反の不存在の確認が義務づけられています。

5 民泊施設管理者、仲介事業者への規制

最終報告書では、住宅の提供者だけではなく、施設の管理者及び仲介事業者を登録制として規制する方針が示されました。家主不在型の場合には、登録された民泊施設管理者への管理委託が必要とされています。

また、インターネットを活用して民泊サービスが実施されるという特徴があるため、仲介事業者についても登録制として情報提供等の義務を課す方針です。

(1)民泊施設管理者

民泊施設管理者は、登録制とし、法令違反行為を行った場合の業務停止、登録取消を可能とするとともに、不正行為への罰則を設けるとされています。

最終報告書では、管理者は、住宅提供者からの委託を受けて、利用者名簿の作成・備付け(本人確認・外国人利用者の場合は旅券の写しの保存等を含む。)、最低限の衛生管理措置、簡易宿所営業並みの宿泊者一人当たりの面積基準(3.3㎡以上)の遵守、利用者に対する注意事項の説明、住宅の見やすい場所への標識掲示(国内連絡先を含む。)、苦情への対応、当該住戸についての法令・契約・管理規約違反の不存在の確認等を行うとされています。

利用者名簿の作成、特に本人確認を行うことや当該住戸について「管理規格違反の不存在」の確認が明記された点は、注目されます。

(2)仲介事業者

最終報告書では、家主居住型、家主不在型ともに、民泊の仲介事業者を登録制としています。

消費者の取引の安全を図る観点による取引条件の説明、当該物件提供が民泊であることをホームページ上に表示、行政当局(保健衛生、警察、税務)への情報提供が義務事項とされています。また、届出がない民泊、年間提供日数上限など「一定の要件」を超えた民泊を取り扱うことは禁止するとされています。

法令違反行為を行った場合の業務停止、登録取消を可能とするとともに、法令違反行為に対する罰則を設けるべきであるとしています。

第2 今後の論点


1 「一定の要件」の具体化

今後のもっとも大きな論点は、「一定の要件」を具体的にどのようなものにするかということです。

(1)営業日数(年間提供日数)

「一定の要件」の中で、まず問題となるのは、営業日数(年間提供日数)上限です。

平成28年5月19日に規制改革会議で出された「規制改革に関する第4次答申」では、民泊を既存の「ホテル・旅館」とは異なる「住宅」として扱い得るようなものとすべきであり、年間提供日数上限による制限を設けることを基本として、半年未満(180 日以下)の範囲内で適切な日数を設定すると記載されました。

これに対して、検討会では、例えば30泊(60日)以内の制限を設けるべきとの意見がある一方で、賃貸物件の場合、営業日数が1年間のうち半年だとビジネスとして成り立たないため、日数制限には反対との意見があります。

海外の例では、イギリスが年90泊以内、オランダ(アムステルダム)が年60泊以内と紹介されています。今後、営業日数(年間提供日数)上限を設けるか否か、設けるとして何日とするのかが主な論点の一つになると思われます。

(2)宿泊人数

検討会では、「宿泊人数が増えれば公衆衛生上のリスクは高まるので、1日当たりの宿泊人数の制限は必要」、「1日当たりの宿泊人数(例えば4人以内)の制限を設けるべき」、「ニーズを考慮して、4人より増やすべき」などの意見が出ています。オランダ(アムステルダム)が同時宿泊者4人以内、ドイツ(ベルリン)が同時宿泊者8人以内という海外の例も紹介されています。

(3)住居専用地域での民泊実施の可否

旅館・ホテルは、用途地域の関係で立地に制限があります。これに対して、民泊サービスの実施は、「住宅」として扱い得るような「一定の要件」が設定されることとなれば住居専用地域でも可能であるとされています。2つの会議とも同じ文言を使っていますが、第一種低層住居専用地域等すべての住居専用地域で可能とするかどうかは言及されていません。

また、「地域の実情に応じて条例等により実施できないこととすることも可能」としていますが、どの程度まで条例に委ねられるのかもまだわかりません。

地域住民の生活に密着した問題であり、住居専用地域で民泊を認めるかどうかは今後の重要な論点となります。

※参考:用途地域(国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/crd/city/plan/03_mati/04/

(4)建築基準法・消防法等の関連法令の取扱い

現在、旅館・ホテルと共同住宅では、建築基準法や消防法における取扱いが大きく異なります。民泊サービスの提供者は、安全性の確保や近隣住民のトラブル防止のため適正な管理、一般的な衛生水準を確保するとされていますが、関連法令の基準が共同住宅のままで良いのか、それとも民泊サービスを提供する場合には一定程度厳格な基準とするのかも問題となります。

旅館・ホテル側からは、均衡がとれるように旅館・ホテルの規制緩和を求める意見もあり、今後の議論が注目されます(第11回検討会 資料4参照)。

(5)共同住宅の一棟貸し、面積規模等に関する意見

検討会では、「マンションの一棟貸しやその大半を民泊として使用するような形態の民泊は、既存のホテル・旅館営業と何ら変わることはないため排除すべきである」、「面積規模などが一定以下のものに対象を限定すべき」、「新たにマンションを建てて、民泊に転用するのは認めるべきではない」などの意見が出されています。「一定の要件」の中に、これらの意見を反映するかどうかも、今後の民泊の実施形態を左右する大きな要素になると考えられます。

2 地方自治体の裁量をどの程度認めるのか

旅館業法では、政令で施設の構造設備の基準は地方自治体の条例で定めるとされています。民泊に関する施設の構造設備について条例で定めることができるようにするかどうかが注目されます。

また、住居専用地域について、検討会及び第4次答申は、「地域の実情に応じて条例等により実施できないこととすることも可能」としていますが、条例でどのように規制できるようにするかも重要な論点となります。

3 国家戦略特区事業との関係

国家戦略特別区域法は、一定の要件を満たした民泊サービスについて、旅館業法の適用除外とする旨定めています。これを受けて、大田区などが民泊条例を制定し、認定を受けた施設が民泊サービスの提供を始めています。

同法に基づく民泊サービスには、滞在日数要件(施設を使用させる期間が7日から10日までの範囲内において施設の所在地を管轄する都道府県等の条例で定める期間以上)があり、これが同制度の利用を妨げているとの指摘がなされていました。

しかし、平成28年10月25日、「国家戦略特別区域法施行令の一部を改正する政令」が閣議決定され、滞在日数要件の下限が3日に短縮されることになりました(同月28日公布、同月31日施行予定)。これによって、同法制度がより利用しやすいものになったといえます。

今後、同法に基づく民泊サービスと新たな枠組みの下での民泊サービスとの関係がどのように整理されていくのか注目されます。

(平成28年10月25日 「弁護士大城聡 コラム」より転載)

以上