築地再生への道~市場問題PT報告書を読み解く③

豊洲市場への移転策と築地改修案があるが、いずれの場合も10年後の近未来、更にその先を考慮して持続性を考えなければならない。

市場問題PT報告書(※1)では、今の築地市場と豊洲新市場を比較するのではなく、それぞれの将来像を丁寧に検討しています。

豊洲新市場の将来像をみると、それは最新のITと物流センターであり、「築地ブランド」が生かされる可能性がほとんどないことがわかります。

一方、改修した新しい築地市場の将来像をみると、「築地」という立地によって、「築地ブランド」が生かされ、食の技とにぎわいの築地が「再生」する可能性が示されています。

1 豊洲新市場と新しい築地市場―2つの将来像を比較

市場問題PT報告書では、「現在の築地市場の施設が抱えている課題を解決するための方策として、豊洲市場への移転策と、築地改修案があるが、いずれの場合も、10年後の近未来、更にその先を考慮して、持続性を考えなければならない。

現在のトレンドでは、10年後は、市場取扱高は更に 10%減少し、仲卸業者は300程度になる。築地の現状と豊洲市場への移転策の比較(BeforeとAfterの比較)ではなく、豊洲市場移転策と築地改修案の比較(After案である豊洲市場案と築地改修案の比較)をすることが適切である。」(同報告書44ページ)としています。

2 豊洲新市場の将来像―IT+物流センター

豊洲新市場では、閉鎖型・全館空調の建物で生鮮食料品が入荷し、搬出されます。搬入・搬出の自動車はITによって制御され、効率的な物流が確保される姿を描いています。生鮮食料品の取引もITで行われ、モノの流れと金の流れの分離が加速されることが想定されています。

豊洲新市場では、取扱量・取扱金額の増を目指しており、市場外の流通ルートが得意としている生産者と買受人との間の直接取引が ITを通じて行われ、運送会社と物流センター(生鮮食料品を保管するための冷蔵庫)が主要なアクターとなります。

そこには、築地市場の価値である「築地ブランド」の中心にいる仲卸の姿はありません。

市場問題PT報告書は、豊洲新市場の将来像を突き詰めていくと、ITと物流センターの結合だとしています。豊洲新市場の将来像の中は、にぎわいも仲卸による食の技もありません。

豊洲市場の将来の姿は、かつて人が入り乱れて株の取引を行っていた兜町から、ITで取引される証券取引所への変化を思い起こさせる。そこには、競りを行い、買受人に商品を届ける仲買の姿はない。

豊洲市場が目指す市場を突き詰めていくと、卸売市場の競争相手の特徴を取り入れたITと物流センターの結合である。モノとカネの流れが分離した豊洲市場の究極の姿は、もはや卸売市場法に言う卸売市場ではない。

市場問題PT報告書45ページ)

3 新しい築地市場の将来像―仲卸を中心とした「にぎわい」のある市場

新築地市場の特徴は、仲卸を中心としたモノとカネが結合した市場であり、築地の立地と伝統を最大限活かした機能的で、観光資源にもなる「にぎわい」のある市場である。

市場問題PT報告書46ページ)

市場問題PT報告書は、改修した新しい築地市場は、仲卸を中心としたモノとカネが結合した市場であり、築地の立地と伝統を最大限活かした機能的で、観光資源にもなる「にぎわい」のある市場だという将来像を描いています(同報告書46~47ページ)。

まず、築地市場の魅力は「仲卸」にあるとします。仲卸の「目利きの技」は、仲卸業者が1人で身につけるものではなく、築地市場を利用する料理人、寿司屋、魚屋などの買受人との相互作用によって育まれるものです。

銀座や赤坂などに近い築地という抜群の立地は、築地市場の大きな強みだとしています。

また、市場問題PT報告書は、築地の場外は築地市場と関連のある食の店が多く、一体となって「築地」を形成している点を重視しています。

公共交通機関が整備され、銀座からも徒歩圏であるという抜群の立地のため、多くの観光客が訪れる「東京の観光スポット」だとしています。

取扱量の減少の中で、経済的に自立するには、従来の市場機能以外の関連機能としてレストランや食の技を提供するなどの特徴を備えることが必要だと指摘しています。経済的自立をめざしていくと、卸売市場法の枠を飛び出ていくことになるとています。

市場問題PT報告書では、「衛生管理機能」の早急の対応が必要とした上で、「築地市場は、東京都中央卸売市場の他市場や、他の消費地型卸売市場との比較(ポジショニング)によれば、水産物の取引に圧倒的な優位性がある。

また、銀座・赤坂等と背景とした『築地ブランド』が確立されている。この強さの基盤には、『卸売業者と多様な仲卸業者とのネットワーク』がある」(同報告書47ページ)としています。

その強みを生かす経営を行うために、新しい築地市場では、次のような経営戦略をとることを提唱しています。

戦前から築き上げられたブランド力を活かし、中央卸売市場を軸に、「食のテーマパーク」としての事業化を図るなどのコンセプト転換が必要となる。卸売市場法の中では、総合的な事業展開が難しくなるため、「公的不動産(PRE)」の活用による事業の多角化を図り、経営の安定性と成長力を高める。このため、将来的には、卸売市場法の改正も視野に入れて、検討する。

市場問題PT報告書47ページ)

4 豊洲新市場と新しい築地市場とでは、めざす市場のあり方が異なる

1.豊洲市場開場は、「今のままの築地市場」が豊洲に移転することではない。その将来像は IT+物流センターの機能強化である。

2.築地市場の改修も、現在の築地市場の継続ではない。「築地ブランド」を維持しながら、伝統と革新が融合し、経営的に自立した食のテーマパークとして再生する。

3.豊洲市場と築地市場とでは、めざす市場のあり方が異なる。

市場問題PT報告書44ページ)

市場問題PT報告書は、現在の市場機能を、市場を通過するモノ(「市場外取引」+「他市場などへの転送」)という機能、モノとカネが一体となって動く「市場内取引」という機能の2つに分けて考えています。

そして、この2つの機能は分化して発展し、いずれも卸売市場法の枠に収まらない可能性があると指摘します。

豊洲新市場は、現在の市場の機能のうち、「市場外取引」+「他市場などへの転送」に特化する。他方、新しい築地市場は、「市場内取引」と市場外と一体となった食のテーマパークとして、自立経営をするという将来像を描いています。

そして、「将来的には、豊洲市場と新築地市場は、それぞれ質が異なる機能を果たすものであり、築地か豊洲かではなく、中央卸売市場の将来をどう見極めるかの選択・判断である」(同報告書48ページ)としています。

将来的には、豊洲市場と新築地市場は、それぞれ質が異なる機能を果たすものであり、築地か豊洲かではなく、中央卸売市場の将来をどう見極めるかの選択・判断である。

市場問題PT報告書48ページ)

(続く)

<「弁護士大城聡のコラム」より転載>

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