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メディアプラットフォーム「note」の作り方(後編)

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「本の未来」はどこにあるのでしょうか? サービス開始初日に1万人が登録、現在もクリエイターが次々に参加してさまざまな表現を始めている「note」。単行本のヒットメーカーから定額メディア「cakes」に続いて、この新しい個人向けメディアプラットフォームを作った加藤貞顕氏に、もと上司(ただし斜め上)の角川アスキー総研の遠藤諭が聞きました。

前編はこちら

■コンテンツがグループ化するとどうなるか?

―― 「cakes」をはじめたときに「note」の構想があったとすると、かなり計画的だと思うんだけど、それじゃ、今後はどう発展していくんですか?

加藤貞顕(以下、加藤) 今後の話をすると、コンテンツをグループ化する「マガジン」という機能をつけます。これはなかなか面白いので、遠藤さんとお話がしたかったんです。

―― グループ化で、オリジナルのコンテンツが単体で持っていた以上の魅力が生じるということですよね。雑誌の編集を仕事にしてきた身としては気になりますが、紙における編集というのは、Webではインタフェースで実現される気がします。つまり、システム的なことがとても重要ですよね。

 たとえば、Webというといかにも自由にできるように見えて、実際はかなりの制約がありました。毎回HTMLをコーディングしているわけにはいかないから、Webコンテンツというと何かとCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)と言われた時代があるじゃないですか。で、編集者のワークフローとか、サイトのどこに出すか、まさにコンテンツ管理という話になります。でもそれって組織だって予定されたコンテンツを作って予定された形でアップロードする前提ですよね。もっとダイナミックにやりたい場合にはCMSっていう言葉から離れないとだめだと思ってました。

加藤 これまでのCMSは、率直に言っていまいちなものでした。その反作用として、こういうことをやっている面はありますね。

―― コンテンツをグループ化して「マガジン」と呼ぶというのは、本からある意味シームレスに雑誌に行くようになるという感じですか?

加藤 その2つは、いずれ融合というのかな、グラデーションでつながると思います。遠藤さんの記事は相変わらず個人の記事としてバラバラにあるんですが、そのうちのいくつかが僕のマガジンにあったり、他のマガジンに入っていたりするというイメージです。

―― なるほど、コンテンツを入れる器はいろいろあって、重複していたり、同居していたりしていいわけですか?

加藤 もちろん有りです。他人のものは売れないですが、自分用に「Pen」と「non-no」と「BRUTUS」の家具特集をまとめちゃったりしても良いわけです。

―― なるほど。その「マガジン」が、そのまま紙の雑誌の代替ではないわけだけど、束になったコンテンツの魅力は大きいですよね。

 ただ、いま聞いたグループ化というアイデアを聞くと、逆にネットの柔軟性を削ぐというか、旗印を掲げて船出して世の中に何かを言っていくしくみがあったらいいとも思うんですよ。たとえば、雑誌なら“雑誌名”を付けるみたいなことが重要だったわけですよね。ネットって総じて柔軟になっていき、すべてがバラけていく性質があって、それらはもちろんほとんどの場合良い方向に働いているから、異論をとなえるつもりはないんですけれど。

加藤 それはありますね。雑誌はその意味では、判型とデザインでそういうことを表現しているんですよね。

―― デザインというと、デジタルではアイコンとかが重要となりますね。Appleはコーポレートフォントとかマークをジョブズがものすごく重要視してきたけど、あれってAppleにとって中世騎士団の盾に飾られた紋みたいなものですね。だからAppleの企業活動というのは、雑誌的な運動っぽいところがある。僕は「雑誌」という言葉を聞くと、そういうグループになって活動しているイメージを求めてしまいます。Webでもそういうことを気合でできそうだけど、うまくそれがシステムになるといいですねぇ。

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■お金をやりとりするとコミュニティになる

加藤 デザインは重要ですけれど、やってみてもうひとつ「あるかも」と思ったのが課金なんですよ。課金するとコミュニティが生まれるということが、実際にやってみてわかったんです。遠藤さんにもコンテンツを1つ売ってみてほしいんですけれど、売ったらわかるので(笑)。

―― コミケの魅力だって、実際に読者に売ることじゃないですか。

加藤 作っている自分がいて、買う読者がいると、小さなコミュニティができるんです。その構造をちょっと拡張したものが雑誌ですよね。大きな話をすると、グローバリゼーションとインターネットでみんな快適な生活が送れるようになって、概ね豊かになっているはずなんだけど、人の心っていうのはデカいシステムからは阻害されがちなんですよね。

 たぶん、人はコミュニティが小さければ小さいほど幸せなんですよ。恋人同士とか家族とか。なので、こういう現代社会に小さなコミュニティを提供する役割が、コンテンツにはあるんだろうなって思ってるんです。最近、ナタリーの唐木さんがnoteでコンテンツを売った際に、面白いことをおっしゃっていたんです。100円で売ったコンテンツからコミュニティが発生して、自分がそこの主(ぬし)になって、買った人がコミットして、仲間が生まれるんですよ。

 これはさきほどの遠藤さんの話につながるんですけれども、あるブランドとか思想にまつわるコミュニティが、100円とかいう小さいコンテンツ単位でできるということは、結構すごいことなんじゃないかと思ってるんです。

―― Webの流動性とは違う、僕が言ったロゴなのかマークなのかが生み出すようなものが、課金でも生まれるんじゃないかってことですね。

加藤 そうです、そうです。それがコンテンツ単位でも生まれるし、1つ上の個人ページの階層でも生まれるし、そういう再帰的な、コミュニティの再生産みたいなものがここで生まれるんじゃないかといま考えています。

―― 僕は本って、それをめぐって寄せては返す波のようなものがあると思っていて、たとえば、誰かが本を書くとする。いまだったら誰かがブログを書いたということでも近いものはあるんですが。それに対して、2ちゃんねるで炎上したり、Facebookでリンクを貼ったり“いいね!”したりとかって、ある固定されたコンテンツに対してザーッと波が寄せるような感じです。昔の紙の本の場合なら、書評だったり、評判だったりするわけですけれど、それを見守っていた別の誰かが、その本に対するみんなの感想や、解釈やそれまでに自分が持っていたものを再構成して、また新しい本を書く。

 だから、本っていうのは1冊では終わっていなくて、グーテンベルクの聖書からというとかっこ良すぎるんだけれども、全部つながってるんですよ。で、それは寄せては返す周期性によってつながっている。僕は、ネットが出てきて以降の、情報をどんどん出して広がっていけばいいという傾向に違和感があって、あえていえば、本の価値って出版されてコンテンツが固定化されるところにあると思うんです。まったくネット時代的じゃないんですが、逆にいまパッケージ力を上げることはできないかとも思うんですよ。それによって、生産的な周期運動が生ずる。中身の質も上がり、新しいものも生まれる。今後も、そうやって“知”とか“表現”というのは培われていくものなんじゃないかと。

加藤 たぶん似たような話をしていると思うんですが。

―― すごく同じみたいだけれど、ちょっとだけ違う気もしますね。

加藤 たとえば、誰かが何かを書きますよね。それを誰かが受けて、反駁し、また何かを書きますよね。これはコミュニケーションと言えばコミュニケーションなのかなと。それがもうちょっと小さい粒度で、速く起こるのかなと思っているんです。

―― ネットではあらゆるものが高周波化しますからね。

加藤 ただ、それがフラットに行ってしまうことには、僕も抵抗があります。

―― メディアの役割って「ノイズ」を起こすことになってくんじゃないですかね? すべてが最適化されたら人間は要らなくなるといった人がいましたけれど、すべてが均一になったら何もエントロピー的に起こらなくなる。世界が均一になることに対して、あえて「こうだろ」と新しいインサイトを提示するのがメディアの役割です。それが、いままでの本や雑誌では書き手や編集者が感覚でやってきたけれども、noteみたいなシステムの役割というのは、そういうことをサポートすることになっていくんじゃないですかね?

加藤 すごくそう思います。僕が、noteでやろうとしていることって、コンテンツ側がテクノロジーを武器にして、インターネットにやられっぱなしだったところに反撃するってことだと思うんですよ。

―― でも、ネットが来ても意外と平気だったものもありますよね。

加藤 といいますと?

―― それは映画ですよ。映画はどうすごいかっていうと、映画って権利に関しても包括契約していて、タイトルからエンドロールまでパッケージ感がすごい強固なわけですよ。もちろん、映画も実は崩れるかもしれないですけどね。映画が、他のメディアよりはネットにやられないかもしれないように見えるのは、“資本と強固なパッケージの核力”みたいなものがあるからですね。

加藤 映画は、確かにすごいですよね。

■本の未来を考えたら本のはじまりが見えてきた

―― 1年半ほど前なんですけれど、「Sherpaa」っていうオライリーのVC部門などが投資した会社の記事を読んだんですよ。Sherpaaは訪問医の会社で、有名なニューヨークの病院に勤めてたお医者さんが起こしました。Googleカレンダーで診療を申し込んで、申し込むときに患部をスマホで写真に撮る。で、支払いはPayPalでもオッケーみたいなことでした。これがニュースになるのは、医療の世界がこういうものを受け入れてこなかった業界だからですよね。外側から見れば、とても当たり前なことをやっているだけなのに。だから出版社の場合も、いま当たり前にやれることは何かを考えることが重要ですね。noteは、そういうところがよく出来ていると思います。で、ここからはどうなっていくんですか?

加藤 さっき言った「マガジン」という新機能が大きいですね。

―― コンテンツをグループ化する。

加藤 ええ、今後はこれをタレントさんとか、ミュージシャンだったりとか、作家さんだったりとか、もちろん出版社の雑誌も一緒に使っていただけたらなって思っています。シンプルな仕組みなんですけど、かなり汎用性があるかなと。

―― なるほど、いまだとまとめとかキュレーション的な欲求ということなんでしょうけど、出版社の雑誌もそこで使えるようなものだとすると、無料のオンライン教育、Khan AcademyとかCourseraとかどのように見ているんですか?

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Khan Academy

加藤 ああ、Khan Academyは、凄いですよね。ぼく、アメリカでKhanさんの講演を見たことがあるんですけど、あれは感動しました。

―― 「未来の本」というならそっちの方向になりますよね。だって本のはじまりって、教会にあった聖書とかを、昔は手書きなので教会に置いたままだったので見に行かなきゃいけなかったけど、印刷機が発明されたことで教会から本が飛び出して、デリバリーされたものじゃないですか。いわば「学ぶ」ところから始まっている話だから、出版の話とKhan Academyみたいな教育の話しは関係するんじゃないですか?

加藤 おっしゃるとおりで、すごく関係していますね。でも、noteをまとめる仕組みを使えば、いろんな人が自分の学校を開くことも可能です。言っていて気づきましたけど、学校もできるようにもなるんだな、これ。

―― 学校って何かというと、本質はカリキュラムというコンテンツです。

加藤 そうですね。ああ、なるほど、これはコンテンツの粒度の話なんだな。つまり、コンテンツとして粒が大きいものが大学だったりするわけじゃないですか。小さいのが本で。

―― しかも、それを体得したっていう保証までしてくれますから。頭に入ったのはただの情報みたいなあやふやなものなのに、それを目に見える形の価値に置き換えている。これは、まさに強力なパッケージというべきものでしょう。

加藤 たしかに、学位ってそういうものですよね。あいまいなものを修士とか博士といった具合に、保証してくれる。noteに話を戻すと、現時点では、個人のものをバラバラで売るだけなので「自分がいちばんできること」をみんな売り始めています。でもその延長で寺子屋だったり、塾だったり、大学が生まれていることを思うと、それは大いにありえますね。

―― 教えるとか、知るとか、伝えるとかというとてもベーシックなテーマに入っていくって凄くいですね。教育っていう話がでたところで、noteはどういうところまで広げていく感じなんですかね?

加藤 僕は、日本国内で3,000万人くらい、世界で何億人くらいに使ってもらえるものにしたいと思っていますよ。最初は、出版というところから考えはじめたんだけれど、途中で「あ、これはみんな一緒だな」って思って。映像とか写真とか音楽とかも付けたのは、そういう理由からです。

【加藤さんの登壇するセミナーを開催します】

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個人向けメディアプラットフォーム「note」から見る出版の未来
加藤貞顕さん、そしてゲストに橘川幸夫さんをお迎えして、「note」について、出版の未来について語っていただくセミナーを開催します。ぜひご参加ください。

講師:  加藤貞顕(株式会社ピースオブケイク 代表取締役CEO)
ゲスト: 橘川幸夫(デジタルメディア研究所 所長/阿佐ヶ谷アニメストリート商店会長)
日時:  2014年5月20日(火)
     受付開始 18:00/開演 18:30/終了予定 20:30
会場:  角川本社ビル 2階ホール
     東京都千代田区富士見2-13-3
参加費: 5,000円
主催:  株式会社角川アスキー総合研究所
詳細・お申し込み:http://peatix.com/event/36169/

加藤貞顕(かとうさだあき)
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1973年新潟県生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』など話題作を多数手がける。2011年12月に株式会社ピースオブケイクを設立。2012年9月、デジタルコンテンツ配信プラットフォーム「cakes(ケイクス)」を立ち上げた。 2014年4月、個人向けメディアプラットフォーム「note(ノート)」をリリース。

遠藤諭(えんどうさとし)
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1956年長岡市生まれ。株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。プログラマを経験後、1985年アスキー入社。1991年より『月刊アスキー』編集長、株式会社アスキー取締役などを経て2013年2月より現職。雑誌編集のかたわらミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』、野口悠紀雄氏と協力して「超」整理手帳などをプロデュース。アスキー入社前には“おたく”という言葉を生んだ『東京おとなクラブ』を創刊してコミケで売っていた。

■関連サイト
メディアプラットフォーム「note」の作り方(前編)
「cakes(ケイクス)」
「note(ノート)」

※本原稿は2014年5月17日ASCII.JP掲載の「ピースオブケイクCEO加藤貞顕さんに聞いてみた/メディアプラットフォーム「note」の作り方(後編)」と同じ内容のものを掲載しています。

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