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小学生にも分かる原発再稼働問題

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TANAKA
時事通信社
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原子力規制委員会は、7月16日に鹿児島県の川内原発について「新規制基準を満たしている」と発表しました。マスコミはこれを「事実上の審査合格」と報道し、安倍総理も「日本の安全基準は世界一です。安全の確認された原発から、稼働すべき」と再稼働に前向きな姿勢を示しています。

しかし、同時に、田中原子力規制委員長は、「新規制基準を満たしたからとは安全とは言えない」「(安倍総理の)世界一の安全基準という言葉は政治的な発言」と発言し、多くの人達を混乱させています。

そこで、今回は、小学生の太郎君と先生の会話という設定で、解説してみたいと思います。

太郎:僕には田中委員長の言った「安全とは言えない」という言葉がすごく気になるんですが。
先生:当然だよ。原子力規制委員会の委員長が「安全とは言えない」と言う原発を本当に再稼働して良いのか、心配している人は日本中に沢山いるよ。
太郎:でも、テレビでは「事実上の審査合格」って言っているし。安全だから合格したんじゃないんですか?
先生:そこが難しいところだけど、人間がやることに100%安全なことなんてないんだ。自動車の運転が良い例だよ。どんなに慎重に運転をしていても、何かが突然道に飛び出して来るかもしれないし、他の車が衝突して来るかもしれない。日本で毎年4000人以上の人が交通事故で亡くなっているのは、自動車が100%安全ではないからだよ。
太郎:なんだか自動車に乗るのが怖くなります。
先生:死亡事故を減らしたいのならば、自動車は戦車のように頑丈に作る必用があるし、最高速度も20キロぐらいの抑える必用があるんだ。でも、そんなことをしたら自動車は高くて不便なものになってしまって、誰も乗らなくなってしまう。
太郎:自転車や電車の方が便利ですね。
先生:だから、自動車の安全基準は経済性と合理性を考慮して、少し甘く作ってあるんだ。
太郎:つまり、安全基準に合格したからといって、絶対安全とは言えないんですね。
先生:その通りだ。原発も同じで、安全性を高めれば高めるほど、原発は高くつくから、どこかで妥協しなければならないんだ。
太郎:だから、田中委員長は「安全とは言えない」って言ったんですね。
先生:そうだよ。高さ10メートルの防護壁を作っても、福島第一のようにそれを超える津波が来る可能性はゼロじゃない。地震の揺れも620ガルまで耐えるように作ってあるけれども、日本では2000ガルを超える揺れが観測されたことがあるんだ。
太郎:でも、日本の規制基準は世界一厳しいんでしょう?
先生:それは、田中委員長の発言通り、安倍総理の「政治的な発言」でしかないんだ。
太郎:総理大臣が嘘をついているってこと?
先生:「嘘」というほどひどいものじゃないよ。太郎君は「方便」っていう言葉を知ってるかな?
太郎:「嘘も方便」の方便ですか?
先生:そうだ。その方便だよ。
太郎:やっぱり「嘘」じゃないですか。
先生:ヨーロッパの規制基準は日本よりもずっと厳しいんだ。万が一の事故の際に溶けた核燃料を受け止めて封じ込めるためのコアキャッチャーという仕組みが必用だし、飛行機テロの防止のために、コンクリートも二重になっているんだ。
太郎:なぜ日本もヨーロッパ並みに厳しくしないんですか?
先生:コアキャッチャーにしろ、二重のコンクリートにしろ、いったん作ってしまった原発に後から付けるのはとても難しいし、無理に付けようとすると莫大なお金がかかるんだ。
太郎:でも、安全性を高めるためには必用なんでしょう。
先生:確かにそうだけど、あまり規制基準を厳しくすると、古い原発は経済的な理由で再稼働できなくなってしまうんだ。
太郎:古くて危ない原発なら、再稼働しない方が良いと僕は思います。
先生:そう考える人達も沢山いるけど、電力会社の人達はそれでは困るんだ。
太郎:新しい原発を作るにはお金がかかるからですね。
先生:それもそうだけど、古い原発を廃炉にすると、これまで資産として計上していた原発が、一気に負債に変わるので、経営破綻してしまうんだ。分かりやすく言えば、破産してしまうんだ。
太郎:破産は嫌ですね。
先生:だから古い原発を廃炉にするわけには行かないんだ。
太郎:でも、古い原発は危険なんですよね。
先生:そうだよ。でも、政府としても電力会社に破産されてしまっては困るから、規制基準をあまり厳しくは出来ないという事情があるんだ。
太郎:どうして電力会社に破産されたら困るんですか?
先生:電力会社は、これまで安全な投資先と見なされていたので、日本の銀行や保険会社が株も買っているし、融資もして来たんだ。電力会社が破産してしまうと、銀行や保険会社が莫大な被害を受けて、日本経済が大混乱してしまうんだ。
太郎:つまり、日本経済が大混乱しないように、規制基準を甘くして、必ずしも十分に安全とは言えない原発を再稼働する必用があるってことですか。
先生:良く分かったね。その通りだよ。その答えだけで、今学期の社会の成績は5を上げても良いぐらいだ。
太郎:じゃあ、なぜ安倍総理は、正直にそう言わずに「安全が確認された原発から再稼働させる」なんて言うんですか?これも方便ですか。
先生:そうだよ。もし安倍総理が「電力会社を破綻させて日本経済を混乱させるよりは、本当は世界一安全とは言えないけれども、福島第一での事故前よりはそこそこ安全性を高めた原発を、事故が起こらないように祈りながら騙し騙し使って行くのが日本経済にとって一番良い」なんて正直なことを言ったら、みんなが再稼働に猛反対するからね。
太郎:でも、それじゃあ日本国民を騙していることになるじゃあないですか。
先生:「嘘も方便」とはこんな時のためにある言葉なんだよ。君も大人になれば分かるよ。
太郎:先生、僕はそんな大人にはなりたくありません!

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