放置された地球規模課題と届かぬ声 ‐G7タオルミーナ・サミットを間近で見てきたNGOの立場から

5月27日に閉幕したG7タオルミーナ・サミットを受けて、セーブ・ザ・チルドレンのようなNGOも市民社会の見地から働きかけを行ってきた。

5月27日に閉幕したG7タオルミーナ・サミット。先進主要7か国の首脳が集い、合意事項を発表するG7サミットは、これまで国際政治・経済をはじめ、途上国の開発や環境などの地球規模課題への国際的な取り組みを方向づけ、具体的な行動につなげる一定の役割を果たしてきた。

そのため、セーブ・ザ・チルドレンのようなNGOも、G7サミットのプロセスに注目し、議題や首脳宣言の内容に、より脆弱な立場に置かれた人々の声や視点が反映されるよう、市民社会の見地から働きかけを行ってきた。

様々なNGOが参加するNGOネットワークのメンバー。G7会場で「G7 よ、聞く耳を持て!」キャンペーンを展開しました。

今年は7ヵ国中4か国が「新人」首脳、英、独が総選挙を控え、米大統領の「米国第一主義」が交渉に色濃く反映する中、世界が喫緊で取り組むべき多くの課題は、わずか6ページ(昨年の伊勢志摩サミットでは32ページ)の首脳宣言の中で薄められてしまった。

格差、ジェンダー間の平等、人の移動、アフリカ、食料安全保障と栄養、気候変動・エネルギーといった項目が並んではいるが、「いくらの拠出をして、いつまでに何をするのか」といった具体的な記述は一切見られない。

今回、G7議長国イタリアが開催地をシチリア島に置いたのは、ここがアフリカからの難民・移民流入の玄関口であり、この深刻な課題へのG7の対応に焦点を当てる狙いがあった。

セーブ・ザ・チルドレンを含む多くのNGOも、紛争や迫害、極度の貧困を逃れてきた難民・移民の人権の尊重と保護を最優先とする包括的なビジョンの採択に向けて、イタリア政府をはじめ各国政府に強く働きかけてきた。

しかし結果は「移民の流れを抑え、国境を管理する国家主権」が人権や難民条約よりも優先され、またこの未曾有の「人の移動」を生み出している根本原因への対応も打ち出されることはなかった。

イタリア政府が重視した食料安全保障と栄養のテーマについても、一昨年のドイツのエルマウ・サミット、および昨年の伊勢志摩サミットで示された「2030年までに開発途上国における5億人を飢餓と栄養不良から救い出す」という約束を具体的な行動に移すことが期待されていたが、結果として資金拠出へのG7の合意はなく、前述の約束が空しく繰り返されたのみであった。

さらに、現在約3,000万人が危機的状況に陥っている南スーダン、ソマリア、イエメン、ナイジェリア北東部の食料危機に対しても、「早急に対応する」としながらも、具体的な資金拠出の表明は見られず、飢餓に苦しむ人々を置き去りにする結果となった。

子どもたちに大きな影響を与える地球規模課題に対し、

見ザル、聞かザル、言わザルのG7首脳と評価したNGO関係者たち

わずか2年前に、世界の国々は持続可能な開発目標(SDGs)に合意し、持続可能で公正な社会のために、変革を起こすことを誓った。

これは、世界の社会、経済、環境がバランスを崩し、「このままでは立ち行かない」という強い危機感を世界中の国々が共有したことが背景となっている。

世界は今、史上最大規模の食料危機、難民・移民の人の移動、紛争や災害多発、貧困と格差拡大に直面している。これらの課題は一か国で解決できるものではなく、協調した取り組みが不可欠である。

今回のG7の交渉を見ている限りでは、G7首脳たちは、これらの地球規模課題を放置しようとしているかのように見える。首脳が誰に変わろうとも、世界が直面している課題の深刻さと、その解決に向けたG7の責任の重さは変わらない。

課題への取り組みを放棄したことの代償は、まずは最も貧しい人々が支払うことになるが、中でも特に子どもや女性が弱い立場に置かれる。それはやがて、着実に、世界の持続不可能性、不安定性にますます拍車をかけることにもつながるだろう。

今回、シチリア島でNGOが訴えた「G7首脳よ、聞く耳を持て!」という声は、G7首脳には響かなかった。G7サミットの意義そのものも揺らぐ中、米国はサミット後に気候変動対策の国際枠組であるパリ協定からの離脱を表明した。

しかし落胆している時間はない。SDGsが目指す「誰一人取り残さない」世界の実現に向けて、国境の枠を超えた人々の連帯を強め、声の層をより厚くしていかねばならない。

G7タオルミーナサミットの会場にて、筆者。

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

アドボカシー・マネージャー 堀江由美子

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