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怒鳴り声に足が震えた〜会場にいた私たちが直面した複雑すぎる世界について〜

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2016年10月4日。 日本に暮らすコンゴ出身の友人たちを誘い、コンゴ民主共和国から来日されたムクウェゲ医師の講演会に行きました。ムクウェゲ氏はコンゴ民主共和国の医師です。

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デニ・ムクウェゲ医師講演会:コンゴ東部における性暴力と紛争鉱物(リンク)
http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/news/events/events_z0116_00036.html

コンゴで性暴力に会った女性たちを救い続けているムクウェゲ医師。

講演の内容は聞くに堪えない部分も多く、非常に衝撃的でした。

医師の最後の言葉「お互いを助け合って生きているからこそ、相手と共に豊かになりましょう。幸せをシェアしてゆきましょう。こういった意識が高い文明こそが、優れた文明なのです。」という言葉が、心に刻まれました。

当日の内容は、望月優大さんが書かれたブログにとても丁寧にわかりやすくまとめられています。ご本人の了解をいただき、ここにリンクを紹介させていただきます。

http://hirokimochizuki.hatenablog.com/entry/denis.mukwege

今日私は、それ以上に脳裏から離れない、当日会場で起こったある出来事について書きたいと思います。

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ムクウェゲ医師が話し始めて数分が経った時、ひとりのアフリカ系の男性の参加者がステージに突然上がりました。

大きく印刷した写真を持っていて、最初はスタッフの方なのかなと思いました。

ムクウェゲ医師が講演しているすぐ横で、写真をめくり続けました。

写真を見せながら、彼は会場に向かって何かを言っていました。


あれ??これは何かのパフォーマンスなのだろうか。

いったい誰なのか、なにをしているのか、皆が分からず、会場は不思議な空気に包まれました。

しばらく経って、スタッフが止めに入り、やめるように彼を説得し始めました。

それでもやめない彼に対して、会場に来ていたコンゴ人たちが皆立ち上りステージへ。

隣に座っていた友人のコンゴ人も、その人のことは直接知らないとのことでしたがとうとう説得しに席を立ちました。

ああ、たぶん彼もコンゴ人なのだろう。それしかわかりませんでした。

コンゴの言葉がたくさん飛び交いました。

私たち日本人には、なにを言っているか全くわからず、会場は混乱します。


突然、ひとりの日本人の参加者が叫びました。

「おめぇの話を聞きに来てるんじゃねぇんだよ、帰れ!!!」

会場はさらに冷え切りました。大声のとてもキツい言葉に、すぐ近くに座っていた私の足は震えました。

心臓が鳴るのが聞こえました。

最終的に彼は両腕を掴まれ、会場から引っ張り出されてゆきました。

「ニホンノミナサン...ニホンノ...コンゴハ...」というところしか私には聞きとれず、彼は引っ張り出されて行きました。

静まり返る会場。まだ何か叫んでいる彼の声が、ホールの外から聞こえていました。


すぐに司会の方が謝罪し、そのあとに丁寧に、こんなことを話されました。

「これまで、コンゴ民主共和国でなにが起こっているか、日本で注目されることはありませんでした。そんな中で、今回、ムクウェゲ医師がいらっしゃって、日本のテレビや皆さんの注目を集めているというのはコンゴの皆さんにとっては非常に貴重な機会で、自分の主張をしたいという方がいたのだと思います。(中略)そういった事情があってのことだということを、どうかご理解頂ければありがたく思います。」

しばらくして、その彼をなだめるためにステージに向かい、彼と一緒に会場を出た私の友人のコンゴ人が戻ってきました。

友人の目は赤く、涙がたまっていました。

「あの人の家族は皆、軍に殺されたんだ。いま、コンゴの軍はコンゴ人じゃない。あまりにもひどい政府のやり方に、コンゴ人は軍隊になりたくない人も多くなってる。近隣の国とかウガンダなどから、高い給料を払って軍隊を雇うんだ。そして、僕らの家族がたくさん殺されている。でもそれは報道されない。彼はそれを日本人に知ってもらいたかったんだ。今回の彼のやり方は間違っていた。とても残念だ。でも...彼の心には、それだけのことがあったんだ......」

私が彼の立場だったら、いったいどうしたでしょう。

別に彼の行為を褒めているわけではありません。

冷静に考えれば、別の方法もあったことでしょう。

しかし、私には少なくとも、あれほどの勇気はなかったと思います。


ムクウェゲ医師はステージに上がり話し始めた彼に向かって「あなたへの時間は後でとってあげますから、今はやめなさいね」とおっしゃっていたそうです。

社会は、そして世界は、シンプルではないことが身に染みて感じられました。

あの空気感が、いつまでも忘れられません。

そんな国からやってきた人たちがすぐそばにいることも、もう一度実感しました。

そして、怒鳴った日本人がいたことも。

あのとき、会場でなにが起こっているか、きっと誰にもわかりませんでした。

彼が誰で、何を言っているのかもわかりませんでした。

そんな中で、あの言葉を浴びせた人がいたことに、私はショックを受けました。

知らないで批判すること、嫌うこと、怒ることはあまりにも簡単です。

そして、今こう書いている私も真実すべては知らないでしょう。

少なくとも、私はコンゴ人の友人がいなかったら、このことを全く知らずに通り過ぎていました。

外国から日本にやってきている友人たちの存在は私にとっては、教科書よりもずっと生きた教科書です。彼らがいるから身近になる世界があります。

自分とは異なる人と暮らすこと・過ごすこと、これが日常にもたらすのは摩擦よりも相互理解の方が多いと思っています。


彼が引っ張り出されて行ったあと、ムクウェゲ医師からもこんな言葉がありました。

「彼の行動に対して、申し訳ありません。しかし、コンゴの人にこれだけの深いフラストレーションを与えているこの状況を理解して頂きたい。」

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ムクウェゲ医師についてのドキュメンタリー作品「女を修理する男」(難民映画祭HP)より

"異文化理解"や"多文化共生"などという言葉は、簡単に使える、しかし本当はとても難しい単語です。

私たちはいろいろな軸が交差する中を生きています。

このシンプルじゃない社会の中で、私たちは何にどう向き合ってゆけるのでしょう。

本当の意味で頭を使って考えているか。想像力を働かせているか。

これはコンゴだけの話ではありません。


この出来事は、心の中にしまっておくべきだったのかもしれませんが、知ってほしかったからここに書きました。

今回の企画してくださったスタッフのみなさん、本当にありがとうございました。

ムクウェゲ医師の言葉は、あの場にいた私たちの心に深く刻まれました。

ノーベル賞候補の彼はノーベル賞以上の心を持った素晴らしい方でした。