ベンゼンの炭素-炭素結合を室温で切断

非常に安定なベンゼンの「炭素-炭素結合」を室温で切断することに、理化学研究所先進機能触媒研究グループの侯召民(コウ・ショウミン)グループディレクターと島隆則(しま たかのり)上級研究員、胡少偉(フー・シャオウェイ)特別研究員が成功した。従来困難とされていた、ベンゼン環(芳香族化合物)の炭素-炭素結合の切断による新しい物質変換に道を開く成果として注目される。8月28日付の英科学誌ネイチャーに発表した。

非常に安定なベンゼンの「炭素-炭素結合」を室温で切断することに、理化学研究所先進機能触媒研究グループの侯召民(コウ・ショウミン)グループディレクターと島隆則(しま たかのり)上級研究員、胡少偉(フー・シャオウェイ)特別研究員が成功した。従来困難とされていた、ベンゼン環(芳香族化合物)の炭素-炭素結合の切断による新しい物質変換に道を開く成果として注目される。8月28日付の英科学誌ネイチャーに発表した。

ベンゼン環を含んだ芳香族化合物(6個の炭素原子が環状に連なった6員環)は石油やバイオマスなどの天然資源に豊富に含まれている。これらの芳香族化合物の炭素-炭素結合の切断は、石油などの天然資源からガソリンや基礎化学品などを作る際に出発点となる重要な反応だが、ベンゼン環は非常に安定で、その炭素-炭素結合を切るにはゼオライトなどの固体酸触媒を使って500℃程度の高温で行う必要があり、エネルギーの消費も多い。室温でベンゼン環の炭素-炭素結合を切る反応は長年試みられながら、成功していなかった。

研究グループは2013年、3つのチタン原子(Ti)と7つのヒドリド原子(H-)からなる高活性の新しいチタンヒドリド化合物を開発した。この化合物とベンゼンを不活性ガスのアルゴンの中に置いたところ、数日後に室温でベンゼンの炭素骨格が縮小して異なる物質(5員環)に変わっていた。次いで100℃程度に加熱すると、5員環の炭素-炭素結合の切断が再び起きていた。一連の反応を詳しく調べた。まずベンゼン環が3つのチタン金属上に結合し、その後これら3つのチタン金属が互いに協力し合って炭素-炭素結合を切断していることがわかった。

このように分子レベルでベンゼン環が切断される様子を解明したのは初めてという。また、ベンゼンの水素原子の1つをメチル基で置換した構造を持つトルエンでも、同様の6員環の炭素-炭素結合の切断ができた。この成果は、工業的な芳香族化合物の分解の仕組み解明や、温和な条件で反応が進行する新しい触媒の開発などの手がかりになると期待されている。

侯召民グループディレクターは「3つのチタン原子と7つのヒドリド原子からなる多核金属ヒドリド化合物を開発したのが研究の突破口になった。まだ触媒反応ではないが、今回の発見をヒントに、新しい触媒をぜひ開発したい。ほかの芳香族化合物の炭素-炭素結合を切断することも期待でき、石油化学産業に大きな影響を与えるポテンシャルがある」と話している。

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理化学研究所 プレスリリース

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