学習能力の発達を調節する遺伝子発見

学習能力の発達を調節する遺伝子とタンパク質を、国立遺伝学研究所の岩里琢治教授と岩田亮平研究員、理化学研究所脳科学総合研究センターの糸原重美(しげよし)シニアチームリーダー、大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授らが見つけ、8月21日付の米科学誌セルリポーツに発表した。

学習能力の発達を調節する遺伝子とタンパク質を、国立遺伝学研究所の岩里琢治教授と岩田亮平研究員、理化学研究所脳科学総合研究センターの糸原重美(しげよし)シニアチームリーダー、大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授らが見つけ、8月21日付の米科学誌セルリポーツに発表した。

研究チームは「αキメリン」というタンパク質が脳の機能にどのような影響を与えているかを調べた。このタンパク質は、「左右の手足をそろえて歩く」というユニークな突然変異マウスで、原因としてその欠損が見つかり、脳の高次機能との関連に興味が持たれていた。

αキメリンには1型と2型がある。それらのタンパク質の遺伝子をさまざまに改変したマウスを作り、行動実験を実施した。両方の型のαキメリンがまったく働かないマウスは夜も昼も、正常マウスの20倍も活発に活動し、生後2カ月のおとなになってからの学習能力が高いことがわかった。

次に、α1型だけを働かなくしたマウスや、おとなになってから両方の型のキメリンを欠いたマウスの学習は正常だった。成長期から全身のα2キメリンを働かなくしたマウスで、活動量が上昇し、学習能力が高まっていた。海馬を含む脳の一部に限ってα2キメリンを働かなくさせると、歩行や活動量は普通のまま、学習能力だけが向上していた。この結果、おとなになってからの学習能力の向上には、成長期のα2キメリンの抑制が鍵であることが実証された。

一方、大阪大の橋本亮太准教授は健康な人々を対象にαキメリン遺伝子のタイプ(多型:SNPs)と人格、能力の関係を調べた。α2キメリン遺伝子のすぐ近くにある塩基配列が特定の型の人では、性格や気質に一定の傾向が見られ、計算能力が高いことが明らかになり、マウスの実験と符合した。

一連の研究をまとめて、研究グループは「α2キメリンが脳の神経回路づくりの微妙な調節にかかわっており、成長期のその働きがおとなになってからの学習機能に影響する。ヒトでは脳機能の個人差に関与しているのではないか。学習能力は高ければよいというものでなく、適度なことが生存には有利かもしれない。この成果は、ヒトの学習障害や発達障害、精神疾患の仕組み解明の新しい手がかりになる可能性がある」とみている。

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