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東京への人口一極集中の必然とメリットを理解すべき時が来ている

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■ 進む東京への人口の一極集中


総務省発表による今年1月1日時点の人口動態調査によると日本の人口は7年続けて減少し、特に今年は、前年から27万1834人減り、調査を始めた1968年以降で最大の減少数だった。 一方で、東京を中心とする首都圏の人口は前年比11万人近く増加しており、特に東京はそのうち8.6万人を占め、初の1,300万人台を目前にしている。

しかも、東京圏の人口の増加ペースはこの数年上がってきている。関西圏、名古屋圏ではともに減少傾向が続いているというから、東京一極集中に拍車がかかっているということになる。日経新聞では、この理由について、『都市部に人が集まる傾向は年々強まっている。働く場や商業施設が多く、住みやすい環境を求めて人が集まってくるためだ』と述べている。

東京圏への人口集中加速 13年、9万6000人流入  :日本経済新聞

■ 理由がうまく説明できない?


だが、一方で若者たちに東京離れの傾向が出はじめていることは、繰り返しメディアでも取り上げられてきた。若者の○○離れ 今度は地方高校生の東京離れがはじまる? - エキサイトニュース

『景気が悪い状態が長く続き、親世代が子世代を東京など遠くの大学へ出せなくなったことや、若者たちが知らない場所で暮らすことに対し恐怖心を感じていることなどが理由』だという。若者は東京離れの傾向があるのに、どうして都市部に人が集まる傾向は強まっているのか。東京が『住みやすい環境』だからなのか。

だが、本年2月には、『保育園落ちた日本死ね』というブログの投稿記事が非常に話題になったが、東京都内だけでも7,800人(平成27年4月現在)に上る待機児童がおり、解消はほど遠いと言わざるをえない。この結果、神奈川県や千葉県など都市部周辺では25~44歳の女性の労働力率が相対的に低いという。人口が集中すればするほど、待機児童問題は悪化していくから、都心に住む女性にとっては働きづらい環境のはずだ。

しかも、今急速に進行しているのは、高齢化だ。高齢者のための介護施設の不足は今でも非常に深刻だが、今後はその度合いが極端に上がっていくことは確実だ。待機児童問題と同様、人口が集中すればするほど、状況は悪化することは火を見るより明らかだ。

そもそも東京に一極集中すれば、不動産コストは上昇するから、個人の住宅もさることながら、企業のコストも上昇することになる。その一方でインターネット等の通信インフラの質は格段にあがり、コストも下がっているのだから、経済合理性を勘案すれば、もっと拡散が進んでもよさそうなものだ。だが、実際にはそうなっていない。東京圏ではなく東京、東京の中でも中心部に人口が集中する傾向が見られる。

2013年のデータだが、東京都心5区(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)に居住する人口は都区部全体の10.7%を占めるが、都区部の2013年の総転入超過数に占める都心5区の比率は23.3%。その後も都心集中傾向には拍車がかかっているという。

どうも一極集中の理由がうまく説明できているようには思えない。従来の仮説や分析ツール、あるいは先入観は修正を余儀なくされているように思えてくる。

変わる都市集中の理由


世界に目を転じると、都市への人口集中の傾向は世界中のトレンドといえそうだ。ただし、その原動力は従来型の製造業やサービス産業ではない。社会学者のリチャード・フロリダは著書『クリエイティブ・クラスの世紀』で、新たな経済の支配階級であるクリエイティブ・クラスが主導する経済発展はメガ地域(都市)に集中し、世界のどこであれその都市は相似形になっていくと述べる。

経済学者のエンリコ・モレッティは、著書『年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学』で、『イノベーション産業の乗数効果』という概念を提示して、伝統的な製造業とIT等のイノベーション産業を対比させ、イノベーション産業が現代の米国経済成長を担っている様子を詳細な調査資料によって描いてみせる。

イノベーション産業従事者は互いに近接した場所に住むことで相互に学び、ビジネスチャンスも拡大していくことを実感しており、シアトルやサンノゼのような特定の都市に移り住む傾向がある。

しかも、伝統産業の場合は仕事を海外にアウトソースして地域の雇用がなくなるだけだが、イノベーション産業の場合は自分たちも製造等を海外にアウトソースするものの、国内雇用も増加し、しかもイノベーション産業従事者以外の仕事で比較してもこのような都市居住者の方が高収入となっていることを詳細なデータで示している。

東京でも見られる同様の現象


問題は東京にも、ここで語られているような『クリエイティブ・クラス』がいて『イノベーション産業』が経済成長をリードしているのか、ということになるが、日本のITベンチャーやネット系の先進企業は渋谷や六本木等に集中する傾向があることは従来から指摘されていた。

しかも、職住接近のライフスタイルも特にソフトウエアエンジニアの間では進んで来ている。ライターの速水健郎氏は、著書『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』で、興味深い事例を紹介している。

インターネット広告代理店業である(株)サイバーエージェントは、オフィスから2駅以内に住む社員に3万円の補助を出すという制度(2駅ルール)を2005年ごろに導入した結果、社内コミュニケーションの活発化等予想外にメリットは大きく、この成功を見て、多くのITベンチャーが制度として導入していったという。情報技術を扱い、遠隔地で仕事ができるような環境にある会社ほど都心にオフィスを構え、従業員は会社の近くに住むという一種の逆転現象がこの日本でも確かに起きている。

さらに速水氏は、経済学者のエドワード・グレイザーの説を引用して、情報テクノロジーの発達が、むしろ人と人の間の直接的なコンタクトの需要を生んでいると述べる。すなわち、FacebookやTwitterを通じたコミュニケーションは、実際に人と人とが対面して会う時間、人間関係の重要性を高めており、そこで深まった関係性が、リアルな現実の場で以前よりも強化/補完されるという。

そう言われてみると、この数年自分でもこれを内々に実感していたことに思い至る。情報テクノロジーの進化は、一方で必ずしもオフィスに行かずとも、自宅で勤務できる可能性を切り開いた。だが、その一方でFacebookやTwitterを通じてひっきりなしに飛び込んでくる、旬な話題や、新しい考え方は、その発信者に真意を確かめたり、発信者本人ではなくとも、識者と直接議論してみたいという誘惑を喚起する。

そのためにあらためて情報テクノロジーを利用することはもちろんやるにしても、実際に人に会ったり、その友人達が合流して一緒に議論を深めたりということが新たな価値を生み出し、皆の見識を深めることにつながることは、誰よりも私自身が感じていたことだった。

政策として織り込まれるのは難しいが・・


エンリコ・モレッティの主張が正しいとすれば、日本でもクリエイティブ・クラスを増やし、活動を活発にし、人口が集中する都市の環境を(分散することではなく)改善していくことが、付加価値の高い『イノベーション産業』において日本の競争力を強くし、さらには雇用を生んでいくことにつながる。

逆に言えば、これができなければ、日本には『イノベーション産業』は育たず、海外のどこかの都市に負けていくことを意味する。まさに、近未来は国家間の競争ではなく、都市間の競争になるであろうことをリチャード・フロリダも予見している。

だが、ちょうど今東京都知事の選挙戦が始まっているが、このような観点での都市育成のビジョンを持っている候補は見当たらない。(いるのかもしれないが、少なくとも伝わってこない。)企業単位で見ても、集積や近接性の重要性は必ずしも正しく理解されていないように思えてならない。単純に地価等のコストの安さだけでオフィスの立地を決めて、しかも集中より分散が良いと考えている経営者が多いように見える。

このような、経営者のマインドの後進性は明らかに日本企業全体の競争力を削いでいる。日本で従来型の企業から『イノベーション産業』への脱皮がうまくいっていないのも、ここにも原因の一端があることは間違いない。

もちろん、これは東京に若年層を吸い取られている地方から見れば、聞きたくもない議論かもしれない。『クリエイティブ・クラス』などという階級の役割を重要と認めることは、同時に、現在でも急速に進む所得格差を所与として受け入れていくことも意味している。『一億総中流』幻想から抜け切れていない多くの日本人にとっては、嫌悪感さえ感じてしまうかもしれない。特に選挙等で票に結びつけることは難しく、誤解されて票を失ってしまう恐れもあるだろう。

しかしながら、人口減少社会が進行する現実を受け入れれば、地方は地方で集積を進めて、魅力的な地方都市を形成していくこと、それによってイノベーション人材を引きつけるように努めることは避けられないはずだろう。そのために必要なことを貪欲に学ぶ必要もあるはずだ。

重要な教訓


速水氏は、著書で、未来学者のアルビン・トフラー未来予測について、ほとんどすべてのことを驚くべき正確さでいい当てているのに、トフラーは『通信テクノロジーが進化すれば誰も都市には住まなくなる』といっていてこの点に限っては外していると述べている。確かに、イノベーション産業における人の集積や近接性の重要性については、トフラーほどの未来学者でも見抜けていなかったといえそうだ。

だが、これは非常に重要な教訓を残してくれていると考えるべきだ。人間行動はコストや生産性、物的な合理性によって突き動かされることは今までもこれからも変わらない。だが、時に、それを度外視してでも、世界を動かしてしまう、『社会的』『倫理的』『思想的』『感情的』『歴史的』な要素を忘れてはならないということだ。

先日の英国のEU離脱問題にしても、グローバルな経済合理性より国家主権が勝利した典型的な事例になったわけだが、技術が進化し、地域や国家が解体されていくと近未来こそ、人間的な要素がより強く全面に押し出されてくると考えて準備しておくべきだと思う。

(2016年7月19日「風観羽 情報空間を羽のように舞い本質を観る」より転載)