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在日コリアンの生きる道

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在日を「殺せ!」。これまで在日コリアンは、陰に陽に、大小さまざまな嫌がらせを受けてきた。しかし、これほど先鋭的に一部日本人の憎悪の対象となるのは、異例の事態だろう。ただ、僕としては、日本の排外主義の高まりを、在日の来歴を批判的に振り返るチャンスとしても捉えてみたい(くわしくは、拙稿「在日であることの意味」『中央公論』2014年5月号を参照)。その上で在日の生きる道を模索すべきだと思う。

まず取りあげるべきは、今日の日本の排外主義的言説と、伝統的な在日コミュニティの規範には、皮肉にもシンクロする部分がありうるという点である。たとえば、いわゆる通称名の使用について。在特会は、在日が通称名を隠れみのにして悪質な犯罪に手を染めてきたと糾弾する。

実は、在日コミュニティもまた本名へのこだわりが強く、通称名を一段下と見なしてきた。本名を堂々と名のり、ウリマル(朝鮮半島の言語)を操ってこそ「本当の自分」だとの規範が掲げられてきたのである。

しかし、理不尽にも「殺せ!」と言われる世の中なのだから、通称名という、逃げる/隠れるための手段は担保されるべきだろう。この社会に生きるのは、強い在日だけではない。また、「本当の自分」を追い求めたところで、いまの自分以外にそんなものはない。「ここはどこ? わたしは誰? 冗談ではない。俺はここにいる」(中上健一『アメリカ・アメリカ』)。

さらに、ウリマルを使えたとしても、半島のコリアンのごとく流ちょうとはいかないし、もはや今日向かうべきはウリマルよりかは英語だろう。ことさらウリマルに固執するいわれは、もはやない。

これとは別に、在日のもう一つのウリマル、すなわち日本語の磨き上げをもって、日本語文化のすそ野を広げる営みもある。こちらのほうが、ウリマル習得よりよほどやりがいがあるのではないか。これまで、コリアン・ジャパニーズは「『帰化』した在日」を意味してきたが、「在日の織りなす日本語」を意味するようになってもよいと思う。

以上からもわかるとおり、従来在日は、半島の民族との絆をもって自らの核を形成してきた。けれど、これにあわせて在日が政治熱を高めるとすれば、危うい。下手したらヘイトクライムの標的となる。

たとえば日本の一部メディアは、ベトナム戦争に関わる韓国の「逆」歴史問題をあげつらうようになっている。在日が半島の政治へ関与を深めれば、戦後の韓国政治に参加してこなかったのに、同戦争中の韓国軍による「蛮行」の責任まで背負うこととなる。日本人からのいわれなき非難もよけきれない。

また、いま日本での地方参政権獲得を説いたところで、利益に対してリスクの方が過大となるのは目に見えている。このため、声高の政治的提言や権利獲得運動は、さしあたりは控えたい。これ以上、在日が自ら火の粉を抱えこむわけにはいかない。

おまえは、日本人と「同化」してひっそり暮らせと説いているのか? ここまで読んでそう感じる読者もいるだろう。ここで僕が示しておきたいのは、在日は、日本への「帰化」を当面控えるほうがよいということである。

「帰化」するにあたっては、ある程度この国のナショナリズムを引き受けることが求められる。しかし、「殺せ!」と言われた人間が、それを引き受けきれるとはどうしても思えない。そして、戦後いくつもの権利を自ら血を流しつつ獲得してきた在日の矜持として、ここだけは踏みとどまっておきたいと僕は思う。

とすれば、在日が、半島の政治からも、日本への「帰化」からも離れて生きる道はどこにあるのか? 在日論をリードしてきた一人、辛淑玉は、マイノリティ全般へのヘイトスピーチに対抗する団体「のりこえねっと」を設立した。ここにヒントがある。在日は、この国のさまざまなマイノリティを視野に入れることで、生きぬく道を探れるのではないか。

在日は「他のマイノリティから嫌われていることを知らない」(『週刊新社会』2014年5月20日)と辛淑玉は言うが、これは彼女一流のアジテーションだと思う。たしかに、在日コリアンは、古参のマイノリティと自認しながら独善的活動に安住するだけだったかもしれないが、嫌われているとは言いすぎだろう。

むしろ必要なのは、戦後の在日の記憶や経験を、マイノリティ一般に対して「開く」態度ではないか。このとき注意すべきは、日本人とひとくくりにして捉えないことである。一枚岩ではない日本人の中のさまざまなマイノリティをも視野に入れ、連携する術をじっくり模索してみる。「殺せ!」の気まぐれなかけ声は、もはやいつ、誰に向いてもおかしくはないのだから。

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