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「産まずイノシシ」と「産んだイノシシ」

2015年04月01日 15時11分 JST | 更新 2015年05月31日 18時12分 JST

狩猟を始めたばかりのころ、ベテラン猟師から「産まずイノシシ」の美味しさについて熱く語られたことがあった。

「産まずイノシシ」とは、12月から2月にかけて獲れた未経産(一度も子どもを産んだことがない)のメスイノシシのことで、柔らかい赤身に上質な脂がのったその肉は、キロ10,000円以上で取引されることもあるという。

メスイノシシは通常、初産を二歳の春に経験し、それから毎年出産を繰り返す。

そのため「産まずイノシシ」と呼ばれるのは、初産を控えたメスイノシシのみで、ベテラン猟師であっても、ワンシーズンに一頭お目にかかればいいというほど、貴重な存在なのだ。

猟師は、獲れたメスイノシシの乳頭の大きさやかたちで、授乳の経験(=出産の経験)があるかどうかを判断し「産まずイノシシ」を見分ける。

三年前、先輩猟師に「産まずイノシシ」を初めて食べさせてもらったとき「美味しい」という感動よりも先に「そろそろ産みそうイノシシ」や「いっぱい産んだイノシシ」の味を想像し、ウズウズする私がいた。

島根県邑智郡美郷町では、繁殖しすぎるイノシシを淘汰するため、一年を通じて野生イノシシを捕獲しており、春夏秋冬、季節によって変わりゆくイノシシ肉の味わいを楽しむことができる。

捕獲されるイノシシの中には、お腹を大きくした妊娠中のメスイノシシもいれば、身体中に発情期独特の匂いをまとわせたオスイノシシもいる。

もちろん、最高級とされる「産まずイノシシ」と比べれば、出産を経験したメスイノシシの肉質は固く感じられるかもしれない。

しかし、実際に食べてみると、若すぎるイノシシにはない芳醇な肉の香りや歯ごたえなど、くせになる美味しさがある。

また、発情期独特の匂いは、実はスパイスとの相性がとてもよく、マトンよりも親しみやすく、牛よりもエスニックな雰囲気が味わえる料理になる。

私たち日本人は、野菜を、果物を、家畜を、自分好みに改良することに注力してきた。その文化や技術は、私たち消費者の食生活を支え、発展させてきた素晴らしいものだ。

そこに加え、食材のありのままの味を受け入れ、寄り添う機会を設けることで、今まで見過ごしてきた新たな楽しみが、発見できるかもしれない。

イノシシの生活環境や年齢を想像しながら味わう食事はとても贅沢だし、それぞれの味わいに「発情しているから」「〜を食べる季節だから」「〜だから」と、説明がつくのも、面白い。

私が、島根県美郷町に移住し、イノシシ事業に携わって一年が経過した。

「〜だから」の味を活かしつつ、料理としても美味しい。そんなイノシシの加工品を開発することを、二年目の目標として掲げたいと思う。

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■ イノシシ肉のご購入は NPO法人 伝統肉協会のネットショップページからどうぞ。

(2015年3月31日「senalog」より転載)