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上戸彩さんが産後3ヶ月で仕事に復帰した理由。(加藤梨里 ファイナンシャルプランナー)

2015年12月14日 20時53分 JST | 更新 2016年12月14日 19時12分 JST

先日、8月に出産した女優の上戸彩さんが、12月に生放送された番組への出演で仕事に復帰しました。産後3ヶ月程度での仕事復帰の発表に、ネット上では「子どもがかわいそう」、「子育てに専念すべき」といった批判的なコメントが相次いだと一部で報じられています。

■女性芸能人の復帰はたびたび批判の対象に

上戸さんに限らず、女性芸能人が出産後に批判を浴びる事例は少なくありません。今年の初めにモデルの山田優さんが産後2ヶ月で復帰した際には、そのファッションやコメント、仕事場に子どもを同伴したことなども批判の対象になりました。ほかにも産後の女性芸能人が表に出るたびに批判される例は多数あります。

ただ、芸能人が一般的に置かれている状況をFPの視点から考慮すると、彼らには「子どもが大きくなるまでは家庭に専念する」と悠長には言えない事情があります。

■芸能人には出産手当も育休手当もない

会社員や公務員の女性が出産をする場合、産前6週間、産後8週間は休業(産休)することができ、月給の2/3相当の手当が支給されます(出産手当金)。また、子どもが1歳の誕生日を迎えるまでは育児休業を取得し、休業前の賃金の50%~67%の育児休業給付金を受け取れます。

しかし、芸能人の多くは自営業で、一般的な会社員とは全く違います。一部の芸能人は芸能事務所と雇用契約を結び、法律上の従業員になる人もいますが、かなりレアなケースのようです。自営業となると、そもそも産休・育休に伴う手当はありません。

「芸能人なら手当なんてなくても生活に困らないはず」、「出産前にたっぷり稼いだんだから、育児中ぐらい収入がなくたって平気なはず」という意見もあるでしょう。確かに上戸さんのような売れっ子の女優さんなら、少々の休業や手当の有無が目先の生活に影響することはないでしょう。

ただ、それだけの稼ぎがあるからこそ、休業して収入が急に減るギャップは大きいものです。たとえ貯蓄がたくさんあったとしても、キャッシュフローの大きな変化は、長引くと大きなダメージになりかねません。芸能人の場合、休業が長くなると人気が下がり、復帰してもギャラが下がる、仕事がなくなるリスクもあります。

上戸さんの場合も、事務所の意向か本人の意向かはわかりませんが、できるだけ早く復帰して、収入減へのリスクヘッジをしているのかもしれません。

また、上戸さんへの批判には、夫で元EXILEのHIROさんが高収入であることを挙げて「旦那がお金持ちなんだから、働かなくてもやっていけるのに」というコメントもありました。確かにHIROさんは現在EXILEなどのプロデュースをする会社の社長で、直近の決算では27億円の黒字を計上しています。本人の収入もかなり高いと想像できますが、経営者なら、それを維持していく難しさも承知のはずです。今は経済的に余裕があっても、上戸さんが働かなくてもずっとやっていけると保証するかは、いささか疑問です。

■一度上がった生活レベルは落とせない

筆者はファイナンシャルプランナーとして一般個人の家計を数多く見てきましたが、各々の家庭の生活費は収入に連動しています。たとえば月収が30万円だから、結果として生活費が30万円前後になる、というように、まず収入があり、それに応じて生活費が決まってきます。

芸能人でもおそらくそれは同じです。売れるまでは貧乏生活でも、高収入を得るようになればそれに伴って生活レベルを上げる人が多いでしょう。しかし逆に、一度裕福な生活をしたら、下げるのは厳しいはずです。ひとたび家賃20万円の家に住んだら、次の更新時に家賃5万円の家に引っ越すのは心理的にハードルがあるのと同じです。

もちろん芸能人は収入に波があるのを覚悟のうえでこの世界に飛び込んできていると思いますが、だからこそ稼げるときに稼ぎ、これまで築いてきた生活を維持するための危機管理は一般人よりも重要です。

■芸能人は教育費がかかる?

芸能人の場合、子どもの教育費が高くなりやすいことも考えられます。様々なリスクを避けて、芸能人や有名人の子女が集まる私立学校に入れることがあるからです。

幼稚園から大学まですべて私立に通わせれば、教育費は平均でも2500万円はかかります。もちろん公立に通っている芸能人の子どももいるでしょうが、親が芸能人では普通に暮らしたくても暮らせないこともあります。一般人には想定されない費用がかかり、生活費が高くなることも考えられます。

芸能界での寿命はいつまで続くかわかりません。子どもが独立するまでの約20年間、絶えず収入を確保していける安定性は、一般人よりもきわめて低いのです。

■母親が子育てに専念すべきかどうかは、イエスでもノーでもない

子どもが小さいうちは母親が育てるべきといういわゆる「3歳児神話」は、芸能人だけでなく一般女性の間でもしばしば問題になります。

母親が働くべきか、働かざるべきかについて、絶対的な答えはありません。発達心理学が専門の大日向雅美恵泉女学園大学大学院教授は、3歳児神話について「答えはイエスでもあり、ノーでもある」と述べています。世界的にも「母親が子育てに専念すべきかどうか」というテーマは数多くの研究が行われていますが、その解に至る結果は得られていません。

ただ近年のトレンドとしては、母親が仕事をすることが子どもに悪影響を与えるわけではない、という結果が多く発表されています。たとえばカナダのトロント大学でMelissa Milkie氏らが行った研究では、親が子どもと過ごす時間の長さは、子どもの学力、行動、情緒の安定とは関係がないことが明らかになっています。

■多様性を受け容れる視点を、母親へも

しかし、たとえ将来に研究が進み、科学的根拠が出てきたとしても、子どもを産んだ女性がその後どんな子育てをして、どんなキャリアを積み、どんな生き方をしていくかは、最終的には当事者である母親や父親が決めることです。そして、その答えの裏には、環境的ないしは経済的な事情があるはずです。

働き方からパートナーシップまで、ライフスタイルのさまざまな面で多様化が進むにつれ、子どもを産んだ女性の考え方、社会との関わり方も多様になってきています。

「子どもを産んだ女性はこうあるべき」とは考えず、家庭によってさまざまな事情があることに配慮すれば、働く女性たちの見え方はずいぶん違ってくるはずです。

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