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マクドナルドのフランチャイズ化でブランド価値は下がったのか? (中泉拓也 関東学院大学 経済学部教授)

2015年07月07日 23時42分 JST | 更新 2016年07月06日 18時12分 JST
YOSHIKAZU TSUNO via Getty Images
McDonald's Japan president Sarah Casanova speaks before press as she announces the new business strategy and the new menu at a restaurant in Tokyo on May 21, 2015. McDonald's Japan unveiled a revamped business strategy and a new menu on May 21 as it looks to put a damaging contamination scandal behind it. AFP PHOTO / Yoshikazu TSUNO (Photo credit should read YOSHIKAZU TSUNO/AFP/Getty Images)

既に1年以上経ってしまいましたが、昨年、マクドナルドのフランチャイズ化の話を投稿しました。「マクドナルド業績悪化に見られるフランチャイズ化の功罪 中泉拓也

実はこれがきっかけで、年初に朝日新聞の取材を受けたのですが、その時は、フランチャイズ化よりも、東京版のマックと大阪版のマクドのほうで盛り上がってしまい、私の名前も紙面からは無くなって、web版にかろうじて残っている程度です。

「マクドナルドのヘビーユーザーで企業経済学が専門の関東学院大経済学部の中泉拓也教授は「妖怪ウォッチを使った昨年後半のようなキャンペーンで、まずは家族連れを取り戻すべきだ。長期的にはお年寄り対策も課題」と話す。(マクドナルド、日米中で不振 売上高12年ぶりマイナス)」

朝日新聞の記事の取材では、専門から離れて、ヘビーユーザとしてのコメントの方がピックアップされましたが、ファミリー層をターゲットすることのメリット、高齢化をビジネスの商機とできれば更に望ましいといったことも指摘しました。それに対して、前回の投稿ではフランチャイズ化のメリットとデメリットを挙げた上で、必ずしもデメリットだけではなく、実際にフランチャイズ化がマクドナルドの業績向上に貢献した時期があることを売上のデータをグラフ化して指摘しました。

更に、一般的に直営店をフランチャイズ化すると、フランチャイズを経営したい経営者に店舗を売却し、資産をスリム化できることがメリットとして挙げられます。しかし、企業や組織の経済学からは、企業の意思決定、組織内の情報分布等によって、フランチャイズ化か直営化が企業の意思決定や業務の効率化に大きな影響を与える可能性があることを指摘しました。

特にフランチャイズ化すると、現場の意思決定が迅速になり、フランチャイズ毎に顧客にきめ細かいサービスがしやすくなる反面、本社の命令が徹底されにくくなるなどの問題点も生じます。今回はこのようなフランチャイズ化の功罪の中で、特に最近の業績悪化に直接かかわっている点について述べたいと思います。

※本稿の参考文献は文末にまとめました。

■フランチャイズ化の功罪

フランチャイズ化とは、店長等に店舗を売却し、店長が店舗のオーナーとなると同時に、本社とロイヤリティ契約を結んで店舗経営を行っていくものです。当然のことながら、店舗の運営がより現場に任されることになります。これを権限移譲と言います。

現場に権限や裁量を委ねるべきか、本社がより強い権限を持つべきかは、当然ケースバイケースです。その決定に特に重要な要因は、経営に重要な情報が組織のどのようなレイヤーに分散されているか、またそれを利用した意思決定を誰が行うべきかがと言った点です。これについては、伊藤秀史著の「ひたすら読むエコノミクス*1」第9章を参照してください。

加えて、著者が専門の所有権アプローチによると、現場の技量が重要な場合は、現場に所有権を委ねるほうが望ましいとされ、フランチャイズ化の促進が支持されます。例えば、ハンバーガーを本社の工場で加工して現場で電子レンジで温めればいい場合、温める時間や温度まで本社が決めればよく、店舗での加工は重要ではありません。そういった場合、直営店で、本社の権限や命令が浸透するほうがいいでしょう。

それに対して、店舗で加工する部分が多い場合、店舗の技量を高めることが望ましいでしょう。前社長の原田泳幸氏が店舗の加工部分を増やしたメイドフォーユーのシステムを導入し、それと並行してフランチャイズ化を進めたのは、むしろ理論的には望ましいというのが前投稿の重要な指摘の一つです。更に、権限を移譲した場合、店舗での裁量を拡大する方向が望ましく、店舗独自の顧客に合わせたサービスの提供や価格の設定を行うことが期待されます。

しかしながら、フランチャイズ化はむしろ店舗の独自性や独立性を伸ばす効果があるので、全体としての調和がとれなくなる懸念があります。特にブランド価値の維持、清潔感の維持などはどうでしょうか。また、危機管理やそのための社員教育についてはどうでしょうか。実は、こういった点はフランチャイズ化したほうが問題が拡大する懸念が生じます。近年の業績悪化は、このようなフランチャイズ化の問題のほうが出てしまったのではないでしょうか。本稿では、この点に焦点を当てたいと思います。

■マクドナルドにおけるブランド価値の重要性

マクドナルドといった企業イメージやブランド価値は一般消費者を顧客とする場合、その企業にとって生命線ともいえる極めて重要なものとなります。マクドナルドを頻繁に利用する著者にとっても、清潔感はブランドイメージに非常に重要な要素です。

【第64回】マクドナルドが失った「キラキラ感」の現在地」で示されているように、米国のキラキラ感と結びついて売上を伸ばしていた時期を考えてみてください。このようなキラキラ感がブランドイメージと結びつき、それが企業収益に大きく貢献してきたことも想像に難くないでしょう。コンシューマー相手の企業にとって、ブランド価値の維持は企業の生命線ともなります。

逆に、ブランドイメージを毀損することは、企業にとって大きな打撃となります。現代のコンシューマーブランドにとって、ブランドイメージを高めるための対策を多く行うことがますます重要になってきています。清潔感の維持も日本ではそういったキラキラ感につながる非常に重要な要素で、これがマクドナルドの売上に大きく貢献してきたと考えられます。逆に、以下の投稿で指摘されているように、仮に24時間化を行ったとしても、それで清潔感が失われるなら、本末転倒ではないでしょうか。「【マック、失われた清潔感 なぜピカピカだった店舗がボロボロに?

昨年チキンナゲットに中国の食品会社が使用期限の切れた鶏肉を使っていた問題から、最近の異物混入まで、そういった清潔感やキラキラ感というブランドイメージの毀損させたことは間違いないでしょう。さらに、そういったイメージの毀損の影響を最小限に食い止め、回復させるような危機管理対策も不可欠です。ところが、実際にはそれが不十分だったと感じる読者の皆さんも多かったのではないでしょうか。

実はフランチャイズ化は、そもそも、危機管理の不徹底につながるだけでなく、ブランドイメージの向上自体のインセンティブを削ぎ、向上どころかそれにあぐらをかき、改良を怠るという方向に働きかねないのです。以下ではそれをブランド価値の維持の外部化として説明しましょう。

■フランチャイズ化で、ブランド価値の向上が他人事になる?

フランチャイズ化は店舗の経営を店長に移譲するものです。そのため、店長にとって、マクドナルド全体の収益よりも、店舗の収益の方が重要になります。すると、ブランド価値は店舗経営にとっても重要ですが、ブランドイメージの向上にいくら努力しても、全社的な収益の向上につながっても、自身の店舗の収益の向上には部分的にしかつながりません。

オーナーの店長にとって、個々の店舗の業績向上のほうが重要になるため、会社にとってのブランド価値の維持は二の次になってもおかしくはありません。更に、高いロイヤリティーを要求された場合、価値を毀損してでも元を取ろうとするのではないでしょうか。

こういった傾向は異物の混入が起こったような危機管理が必要な場合に特に顕著になることが考えられます。店舗としては、仮に異物混入が起きたとしても、それが臨機応変に対処出来れば、いちいち報告して事を荒立てるより、その場で済まして、丸く収めた方がいいと思うのも不自然ではありません。

しかし、インターネットとスマホが普及した現在では、それがすぐにネットで広まり、ネットでの炎上につながってしまうわけです。そういった炎上は、本社やブランド維持の観点からは大問題です。本社への報告を徹底させ、情報開示に努めなければなりません。更に対策を講じて逐次状況を公開することも必要でしょう。全社的なブランド価値の維持のためには、異物混入の対策はその場で済ませるだけのことでは済まなくなります。

にもかかわらず個々のフランチャイズにとってはマクドナルド全体のブランド価値の維持よりも、個々の店舗の収益の向上が第一になり、ブランド価値の維持が、ややもすれば他人事になってしまいます。経済学では、こういった状況を外部不経済と言います。自社のことを優先するあまり、全社的なブランドが外部の問題として考えられてしまい、全社的にはマイナスとなる(不経済)と考えていただければと思います。

以上、危機管理は店舗内の処理と全社的なブランド維持という観点とは全く異なります。フランチャイズ化すると外部不経済の問題から、危機管理へのきめ細かな処理が不十分になると指摘できるのです。

■フランチャイズ化で実は重要な本部のスタッフの強化

当然、フランチャイズ化の下でも外部不経済の問題を軽減する方法はたくさんあります。特に一般的な方法として、フランチャイズ契約や社内研修をそれに見合うように改善することが挙げられます。

フランチャイズ化の下で、全社的なブランド維持のため、しっかりとした危機管理を行おうとすると、フランチャイズ契約で、危機管理の項目をしっかり描く、社員教育を充実するといった、従来よりも更に徹底した対応が必要となるでしょう。特にフランチャイズ契約をどのようにするかが最大の課題で、コンサルティングを仕事にしている方はここに最大の注意を払うのではないでしょうか。

最近どういう点がフランチャイズ化に重要かという研究も増えていて、 Lafontaine, F. and Margaret E. Slade [2013]*2 なども参考になりそうです。また、経済学の理論家の関心をまとめている論文としては、Sengul M, Javier Gimeno and Jay Dial [2012]*3,等を参照してください。

更にここでは、フランチャイズ化すればするほど、逆説的に本部の能力は重要になりうる点も指摘されます。例えば、フランチャイズ化で本社の命令が効きにくくなっている場合、24時間化と店舗の清潔感の維持といった厳しい要求には対応しにくくなることが懸念されます。そのため、営業店舗にピンポイントで、適切なアドバイスや指導をいかに行えるかが、フランチャイズ化には重要になります。

実際にトヨタも含め、日本企業は下請けに大きく依存しています。しかし、それらの下請けがトヨタブランドの維持に努めていないかというとむしろ逆の印象を強く受けます。それらの下請けも含め、一体となって、トヨタブランドの価値が高められているのではないでしょうか。これについては以下の記事が参考になります。

自動車と日本半導体の差が開いた決定的な理由 -エレクトロニクス産業にも必要な「主査」制度- (湯之上 隆) Japan Business Press, 2015.5.28(木)

この記事では、トヨタの主査のように、全体を見渡せ、すべての事項に責任をもつようなタレントが半導体産業には存在せず、結果として、トップの座を台湾や他の諸国に譲らざるを得なかったと指摘しています。そして、

結局、トヨタと日本半導体産業を分かつものは、1つの製品において「すべての事項」に責任をもつタレントの存在の有無に帰着すると言える。日本半導体は(電機も)、トヨタ生産方式よりも、トヨタの主査制度を深く学ぶべきである。
と締めくくっています。

こういったすべての事項に責任を持てる担当者が本部にしっかりと配置されることは、下受け会社への部品の生産やコスト削減要求でも非常に重要になってきます。これはフランチャイズ化にも当てはまります。適切な命令やアドバイスをピンポイントでできる本部のスタッフはフランチャイズ化におけるブランド維持の向上には不可欠です。実はフランチャイズ化は本部の能力の向上も重要な要素になります。

経済学では、このようなマネジメントの重要性については、指摘しつつも、十分な分析ができてこなかったのが実情です。しかし、実際にこういった担当者のマネジメント能力が企業の競争力に大きく影響することは広く認知されていることでしょう。

実は、マネジメントの能力といっても、それを適切かつ客観的に評価することは難しく、指標を開発することも容易ではありません。また、経営者へのアンケートでも本当の意味でのマネジメントの効果を聞くことは難しく、これまで十分な研究ができていませんでした。

近年、スタンフォード大学のニコラス、ブルーム(Nicholas Bloom)とロンドンスクールオブエコノミックスのジョン、バン、リーネン(John Van Reenen)らが中心となって、Management Practiceを測る指標を開発し、その指標に基づいたインタビュー調査を行うことで、こういったマネジメントの効果について定量化することに成功しました*4。彼らの研究をベースにした研究も増えて