「女性活躍推進法」は女性を追いつめる両刃の剣? (朝生容子 キャリアカウンセラー )

「女性活躍推進法」は、はたして本当の意味で女性が活躍できる社会を作り出すことにつながるのだろうか。

1か月ほど前のNHK小野アナウンサーの「子供がいない我々は次世代の捨て石になる」発言や、「#保育園落ちたの私だ」という匿名のブログをきっかけとした一連の動きなど、今の日本で、女性が子供を産んで働く厳しさが話題になることが続いている。男女雇用機会均等法から30年余り、働く女性の環境は、当時と本質的には変わっていないように思える。

昨年成立した女性活躍推進法の施行も間近に迫り、一見、働く女性に追い風が吹いているように見える。しかし同法は、はたして本当の意味で女性が活躍できる社会を作り出すことにつながるのだろうか?均等法成立当時、女性が活躍できる社会が到来すると期待し、達成感以上に失望することが多かった均等法第一世代として、自らの経験をふまえて考えてみたい。

■企業人としてのキャリア拡充期と重なる出産適齢期

女性が働きながら子供を持つ難しさの原因の一つは、出産適齢期と企業人としてのキャリアの成長期とが重なってしまうということだ。平成25年度の厚生労働白書によると、女性の第一子平均出産年齢は30.4歳。大学卒を想定すると、入社7~8年目の仕事も覚え組織のメカニズムもわかってくる年代にあたる。担当職務の責任も増加し、後輩や部下の指導も任されることでマネジメント力の基礎を身につける時期でもある。

捨て石発言が話題になった小野アナウンサーは48歳。均等法第一世代にあたる。捨て石発言のあった番組では「20代、30代の頃はそれ(出産)どころではなかった」「50歳ぐらいになったら産めばよいのかと思っていた」と語っている。

「ためしてガッテン」や「鶴瓶の家族に乾杯」など、後に彼女のキャリアを代表する番組に抜擢されたのが入社して6年目。さらにその7年後には、年末の紅白の司会を担当することになる。20代の後半から30代、着々と実績をあげたその陰には、彼女自身の並々ならぬ努力があったことだろう。一方で、結婚や出産については、自身が語る通り、じっくり向き合う余裕がなかったろうと想像できる。

■データに見る仕事と子供の両立の難しさ

小野アナウンサーと同世代の総合職女性は、独身であったり子供を持たなかったりといった人が多い。平成16年度に内閣府男女共同参画局が行った調査結果を紹介しよう。昭和61年~平成2年に総合職として採用され、かつ、調査時に就業中の女性に対して行ったもので、均等法第一世代総合職女性が、結婚、出産に関してどんな意識をもち、どんな選択をしてきたかがうかがえる。

対象となった女性は91名。大卒とすると、調査当時齢は40歳~36歳のアラフォーにあたる。既婚者が46名(50.5%)、未婚者が38名(41.8%)。子供の有無については、子供がいないものが64名と、70.3%を占める。さらに「仕事を継続できた理由として最も重要だったこと」という問いに対する答えを見てみよう。既婚者は「夫の協力・理解」(32.6%)を第一位にあげ、次に「子供がいなかった」(17.4%)と回答している。未婚者は「独身であったこと」(50.5%)が突出している。

これらの数値から、仕事を続けるには、子供や結婚がマイナス要因となると考えていた均等法第一世代女性が多かったことがうかがえる。

さらに、「仕事を継続する上で最も大変だったこと」として、「ロールモデルの不在」が、既婚者の第2位、未婚者の第1位に挙げられており、参考とする女性の先輩がいないなか、総合職としての自らのキャリアを模索している様子もうかがえる。

■周囲の善意が与えるプレッシャー

私にも子供はいない。やはり「子供どころではない」と感じてきたからだが、私の場合は、上司からの言葉にも影響を受けた。27歳で結婚した際、上司から言われたのは「子供はもう少し先にしてくれ」というものだった。結婚に先立ち、初めて主査(係長相当)という役職についたばかりだった。だから上司の言葉は、まず役職の責任を果たすのが先だと命じられたと解釈した。

転職した際には、転職先の上司が、自分の妻が転職直後に妊娠して産休・育休をとったことをあげ「(会社員として)ありえないよね」と語ったのを聞いて、暗に私にもしばらくは子供を持つなと言っていると感じた。

私は彼らのことを糾弾しようとしているわけではない。彼らが私にかけた言葉は、私の今後のキャリアに配慮しての言葉だった。役職に就いたばかり、あるいは転職したばかりの実績がないうちに、もし長期の休みをとったら、その後、ブランク期間の遅れを取り戻すのは難しいと警告してくれたのだ。ましてや主査になった時は、年上の男性ばかりの職場であり、年若い女性を登用することに反対の声もあったと聞いている。ここで育休をとったら、せっかく自分を登用してくれた上司たちにも迷惑がかかる。子供どころではない、がんばらなければ...そんな風に感じていた。

■後輩への責任からの重圧

均等法第一世代が仕事の優先順位を高くしてきたのは、自らのキャリアのためだけではない。企業の基幹業務を担う女性のパイオニアとして、後輩たちへの責任を強く感じていたという理由もある。

昨年の3月に放映された「クローズアップ現代」で、均等法から30年後の第一世代のその後を取り上げていた(いまを生きる女性たち 次に続くあなたへ ~"均等法第一世代"からのメッセージ~)。そこで登場した総合職女性も「(女性も仕事を)続けられるよっていうことを、(次の世代に)知らせてあげる役割は私たちにはあるのかな」「続けられる、続けたらいいことがあるよというのは、私たちが持っているミッションかもしれない」と語っていた。

こうした思いは素晴らしいが、当事者の気負いにもつながる。私は「初の女性」「たった一人の女性」として配属されたことも多く、自分の評価が女性全体の評価とされてしまう気がしていた。自分が仕事に頑張らなければ、女性の後輩たちに申し訳がない...そんな思いから、なかなか子供を持つ決意が固まらなかった。

■必要なのは子育て後の女性活躍の「実例」

多くの会社で、いま「女性活躍推進法」で定められた、女性登用のための行動計画を練っていることだろう。その中で、パイオニアとして女性を任用する施策はないだろうか?たとえば、「初めて女性をあるポジションに任用すること」や「初めて女性だけの商品開発プロジェクトを発足させる」といったことだ。

「男性並みに」働くことが是とされる企業文化が変わらないままでは、女性のパイオニア的な役割を担った人たちは、成果を出すために「男性」並に働くことを選ばざるを得なくなるのではないか。つまり、パイオニアとしての責任感から、結婚や出産を先送りすることがまた起こりうるのではないかと懸念しているのは考えすぎだろうか。

そんな事態を回避するために何が必要なのか?

1つは「活躍する女性のパイオニア」としての重圧を必要以上に感じさせないよう、上司の言動に関する教育など、環境整備を行うことだ。「男性並み」に働くことを前提にしていることを示唆するような上司の言動は慎まなければならない。

さらに、重要なのは「子育て後に活躍している女性」の存在だ。女性たちが不安なのは、出産・育児によって、仕事上のキャリアが「途切れて」しまうと考えているからだ。そしてその原因は、子育ての時期を乗り越えてビジネスの第一線で活躍している先輩女性の実例があまりにも少ないことによる。

そこで、子育て等でいったんビジネスの第一線を離れた女性を、再び企業で「活躍」できるような場を積極的に設けることを提案したい。私がキャリアの相談を受けた方の中には、子育てがひと段落したので、もう一度、思いっきり仕事をしたいとおっしゃる方も少なくない。退職する前に、活躍されていた方も多く、その力をビジネスで活かしていないのはもったいない話だ。

やる気ある女性を発掘し任用すれば、若い女性たちにとってはブランクの後にも再チャレンジの可能性を感じることができる。また若いうちにチャレンジングな経験をしておくことで、短期的にはブランクやペースダウンが生じたとしても、長い目で見れば再び力を発揮する機会もあると考えられれば、難度の高い新たな挑戦にも挑みやすくなるだろう。

均等法第一世代と異なるのは、企業社会での経験豊富な女性達が圧倒的に増えていることだ。均等法から30年の最大の成果は、そうした女性が蓄積されてきたことだと思う。彼女たちを、これからの活躍が期待される若い女性達のロールモデルとし、多様で柔軟なキャリアの在り方を示すことは、過度なプレッシャーを緩和することになる。

もちろん、再登用にあたっては、今のビジネス環境にキャッチアップできるかの精査や、ブランクやマミートラックで生じた経験不足を補う教育などの措置は必要だろう。しかし、彼女たちが活躍することで、若い世代の女性たちの活躍も促されるとしたら、それは必要な投資である。

女性活躍推進の数値目標の選択項目には、実際に「再チャレンジ」の項目も設けられている。ぜひ選択し、行動計画の中に盛り込むことを検討いただきたい。

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朝生容子 キャリアカウンセラー・産業カウンセラー

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