憲法論、土佐清水市など

「国の独立」を真剣に考えてこなかったツケはとても大きいように思います。

石破 茂 です。

「わが軍」発言について前回私なりの見解を記しましたところ、いくつかのコメントを頂戴致しました。

現行の日本国憲法起草者たちは、憲法第9条第1項で

「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する。」

とすることにより、法的に日本が戦争を出来ないことを定め、さらに同第2項で

「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない。」

とすることによって、能力的にも日本が戦争を出来ないことを定めた、というのが憲法学会の通説となっており、我々もそのように教わってきました。

これは恐らく国連憲章によって禁ぜられた「戦争」(侵略戦争)のみならず、自衛権の行使をも否定する趣旨であり、憲法前文の

「...日本国民は平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」

と整合させることにより、

「世界の諸国民は皆良い人々なのであり、これを信じて生きていこう。国家固有の権利である自衛権を持ってはいるが、これを使うことは憲法で出来ないこととするし、その能力を持たないことも憲法で定めるのだ」

という「崇高な」理想を高らかに宣言したものと思われます。

昭和21年6月29日の制憲議会において共産党の野坂参三議員(!)が「戦争には自衛戦争と侵略戦争があり、憲法で侵略戦争は禁止しても自衛戦争は認めるべきではないか」と問うたのに対して、時の吉田茂首相が「そのような考え方自体が有害である」とこれを一蹴したのは有名なやり取りです。もちろん憲法の制定そのものはこの後のことですが、当時はまさしくそういう雰囲気だったのでしょう。

しかし、日本はこの時まだ連合国の占領下にあって独立国ではなかったのですから、「国家の独立」という概念も「国家の独立を守るための『軍隊』」という存在も、そもそも考える余地すら無かったはずです。

このような考え方は昭和27年4月28日に講和条約が発効し、主権を回復するまでの間にのみ成り立ちえたものであり、主権を回復して独立した後は速やかに憲法を改める必要があるとして、昭和30年の保守合同により自民党は結党されました。この結党の原点を自民党員たる者は決して忘れてはなりません。

芦田均氏によるいわゆる「芦田修正」(憲法第9条第2項冒頭に「前項の目的を達するため」との文言を挿入することにより、「国際紛争を解決する手段〈=侵略戦争のこと〉」としては戦力も持たないし交戦権も認めないが、侵略戦争ではない自衛権の行使は法的にも能力的にも可能、とする)の立場をとれば、現行憲法でも自衛隊の存在や個別的・集団的自衛権を行使可能とする説明も比較的容易なのですが、政府はその立場に立たず、「自衛権は国家固有の権利であるから自衛隊の存在は合憲」との立場をとっており、司法も統治行為論(高度に政治的な要素を持つ事案は司法の法律判断になじまない、とする)によって明確な判断を避けているため、どうしても論理的には今一つすっきりしない感をお持ちの方々が多い、というのが現実です。

...と、ここまで少しずつ書いてきて、どれだけわかって頂けるのか正直言ってあまり自信がありません。

今週の参議院予算委員会でも、福島みずほ議員などが「日本を戦争できる国にするのか!」と発言していましたが、そもそも戦争そのものが国連憲章によって(自衛権の行使や軍事制裁を除いて)違法化されているのであり、この議論は全く成り立ちません。

自衛隊を軍と呼称するしない以前に、「国民の生命・財産と公共の秩序」を守る「警察」とはその性格が全く異なる、「国家の独立」を守るための組織であることは間違いのない事実であり、それを国際一般においては「軍」と言っている、という話なのです。

私とほとんど同世代の福島議員は東大法学部卒の弁護士なのですが、東大に限らず、日本の大学でリアリズムに基づく安全保障論と連動した形での憲法学を全く教えてこなかったことの弊害が如実に表れているのだと思わざるを得ません。

「性急な議論は禁物だ、時間をかけて慎重に審議すべきだ」というのは確かにその通りですが、20年以上前から集団的自衛権を議論することの必要性を訴えても、「難しくてわからない」「今そんな議論は必要ない」などと言ってほとんど誰も関心を示してはくれませんでした。

「国の独立」を真剣に考えてこなかったツケはとても大きいように思います。

さる日曜日は高知県土佐清水市まで行って参りました。

JRも高速道路も無い、東京から時間的に最も遠い市、というのをつくづくと実感するとともに、そこで独自の地方創生に向けた取り組みが行われていることに深い感銘を受けた次第です。

今週、東京駅八重洲口に移住に関する全国の情報を提供する施設、「移住・交流情報ガーデン」もオープンし、「移住ナビ」も近く稼働、市町村へのビッグデータの提供もまもなく始まるなど、体制は着実に整いつつあります。

週末は4日土曜日が統一地方選挙の応援で愛知県名古屋市、奈良県河合町・上牧町で演説。

5日日曜日は新報道2001(フジテレビ系列・午前7時半)に出演した後、兵庫県姫路市での地方創生講演会に出席の予定です。

今日の東京は朝から強風の一日、早くも桜が散り始め、結局今年もお花見らしいお花見はできませんでした。この季節にお花見をする機会があと何回残っているのかな、と思うと焦燥感にも似た気持ちが致します。

皆様お元気でお過ごしくださいませ。

(2015年4月3日「石破茂オフィシャルブログ」より転載)

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