「国民や世界から尊敬される大統領としてのトランプ」を演じようとするのではないかと思います。
President-elect Donald Trump, flanked by his wife Melania and Senate Majority Leader Mitch McConnell of Ky., gives a thumbs-up while walking on Capitol Hill in Washington, Thursday, Nov. 10, 2016, after their meeting. (AP Photo/Molly Riley)
President-elect Donald Trump, flanked by his wife Melania and Senate Majority Leader Mitch McConnell of Ky., gives a thumbs-up while walking on Capitol Hill in Washington, Thursday, Nov. 10, 2016, after their meeting. (AP Photo/Molly Riley)
ASSOCIATED PRESS

石破 茂 です。

大方の予想を覆す形でドナルド・トランプ氏が次期合衆国大統領に就任することとなりました。

昨年の今頃、ドナルド・トランプ候補の勝利を予測した人はほとんど皆無に近かったと思います。私も勿論その一人で、何を言っても所詮、後講釈になってしまいますが、トランプ候補が、ファーストレディ、上院議員、国務長官などを務め、比類ない知名度と経歴を持つヒラリー・クリントン候補に勝利するために、従来の大統領像を壊す、ポリティカル・コレクトネスなどほとんど無視した候補者像を演出してきたのかも知れない、とふと思ったことでした。

合衆国内の資産格差は、上位1%が保有する金融資産が下位90%の総量よりも多く、その差が近年急速に拡大しつつある、という日本では考えられないもので、所得もまた同様の傾向にあります。トランプ支持層と言われた白人非エリート層のみならず、クリントン支持と言われたマイノリティや女性層にまで浸透した背景には、それがあるものと思われます。政界中枢も、ウォール街も、大手メディアも皆で今の状況を作り出したのではないか、その象徴的な存在としてヒラリー・クリントンが位置付けられたのでしょう。トランプ氏自身も大富豪なのですが、今の米国の格差社会を作るのに加担はしてこなかったので、広く受け入れられたのかも知れません。格差拡大は日本も他人事ではありません。

10月初旬に、来日中だったトランプ氏の軍事顧問的な存在であるマイケル・フリン元DIA長官(退役陸軍中将)と長時間意見交換する機会を得たのですが、運用や情報に極めて精通し、米軍内で信望の厚い、なおかつ民主党員である同氏が、職を辞してまでトランプ氏の顧問になるからには、トランプ氏に有能な人材を集める吸引力が備わっているのかも知れません。来年1月の政権発足後に数か月をかけて編成されるスタッフや上下両院で過半数を占めた共和党議員がトランプ新大統領を良い意味でコントロールできるかどうかがカギとなります。なお、マイケル・フリン氏は新国防長官にもその名前が挙がっています。

当選が確実となった後最初の演説に登壇する際、バックに流れた音楽は、映画「エア・フォース・ワン」(1997年、主演はハリソン・フォード)のテーマ曲でした。ソ連復活を目指すテロ集団に乗っ取られた大統領専用機エア・フォース・ワンを大統領が奪い返すという実に面白い映画でしたが、ラスト近くで、大統領に向かってアフリカ系女性スタッフが「大統領、貴方は私たちの誇りです」と言う場面がとても印象的でした。

当選スピーチの内容も、「イスラム教徒の入国は認めない!メキシコとの国境に壁を築く!同盟国には応分の負担をさせる!国民との約束は必ず果たす!」とでもいうのかと思いきや、極めて紳士的かつ穏当なものでした。いままで「当選するための候補者としてのトランプ」を演じてきたドナルド・トランプ氏が、今度は「国民や世界から尊敬される大統領としてのトランプ」を演じようとするのではないかと思います。

いずれにせよ、我が国は、政治経験も軍隊経験も全くない初めての大統領と向き合うことになります。米国から言われたからもっと負担を増やすとか、今でも十分に負担しているのでもうこれ以上は払えない、などという態度で臨むのではなく、アジア・太平洋の安全保障環境と米軍の展開能力や自衛隊の能力を正確に把握した上で、日米同盟そのものをより発展的に見直すということまでを視野に入れて能動的に当たるべきです。

自主防衛とか核保有などという荒唐無稽な議論に巻き込まれてはなりません。トランプ大統領誕生に右往左往することなく、問われているのはまさしく我が国そのものなのだという自覚が必要であり、私自身、心していかねばならないと思っています。

6日日曜日、学習院大学学園祭で、久々にテーマを安全保障に絞った講演を行ってまいりました。多くの方が熱心に聴いて下さり、女性もかなり居られたのが印象的でした。講演後の質疑も相当にレベルの高いもので、説明し、理解を求める我々はもっとこのような機会を増やし、努力を重ねなくてはならないことを痛感しました。

昨日より、「石破茂LINEスタンプ」が発売になりました(全40種類ワンセットで120円)。「面白い!」「こんな時に何を考えているのだ!」と反応は様々ですが、何でも新しいことを試みる時には賛否両論あるものでしょう。

「魔除けにどうぞ」というセールストークが有効だ、という意見もあり、「石破茂を演じる」のも楽ではありません。大変な努力をして下さった平将明代議士に心より感謝申し上げます。多くの方にお買い上げいただけるととても嬉しいのですが...。

週末は、12日土曜日が長野青年会議所11月公開例会で講演、討論会、懇親会(午後2時半・ホテル国際21・長野市県町)、「報道特集」出演(午後5時半・収録・TBS系列)。

13日日曜日は下根弘氏顕彰碑建立記念除幕式(午前11時・鳥取市佐治町古市)、若桜町ジビエ・フェスタでトークショー(午後1時・道の駅若桜)、という日程です。

秋らしい日々もないままに、季節は急速に冬に移りつつあるようです。

皆様お風邪など召しませんよう、お元気でお過ごしくださいませ。

(2016年11月11日「石破茂ブログ」より転載)

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