2040年予測、「電気と言えば太陽光と風力」/それでも日本は「石炭火力の国」?

「OECD諸国の中では、日本と韓国のみが長期的に石炭火力への依存を高めている」日本だけが「福島前」に戻ってはならない。

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化、エネルギーなどの話題を幅広く発信しています。8月号の「環境ウォッチ」では、環境ジャーナリストの竹内敬二さんが、あと20年余りもすれば、電気と言えば太陽光と風力がつくり出すものになるという世界的なエネルギー調査会社の予測を紹介しています。

2040年までに世界の電力需要は現在より58%増えるが、経済はより大きく成長し、両者が切り離された「デカップリング」が起こる。その過程では太陽光や風力による発電の増加と発電コストの下落が続き、コスト競争によって石炭火力は減っていく。そして40年には、発電の34%が太陽光と風力で賄われる――。

エネルギー調査会社のブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンス(BNEF)が6月に、40年までの世界のエネルギー見通しを発表した。

太陽光が石炭を駆逐する

BNEFによれば、今後世界全体で発電部門に10兆2000億$が投資されるが、うち60%が太陽光と風力に投じられる。40年には、世界の発電設備(出力)のうち48%がこの二つになり、発電量も合計で34%(現在は5%)になる。「電気と言えば太陽光と風力」の時代に入るわけだ。

40年の国別の「太陽光+風力」の電力割合を見ると、ドイツ61%、英国50%、フランス46%、そして日本も30%と予想されている。今のフランスは原子力発電が75%を占めるし、日本では太陽光発電量が4.4%、風力は0.8%くらいと小さい。この両国がそこまで変わるのか、とも思えるほどの高い数字だ。

世界で太陽光が伸びる理由は発電コストの下落だ。現在の平準化コスト(建設から発電終了までの平均コスト)は09年の4分の1だが、40年までにさらに現在の3分の1になる。

太陽光の発電コストは、すでにドイツ、オーストラリア、米国、スペイン、イタリアで石炭火力と同等となっており、今後もどんどん安くなる。これによって先進国では石炭火力が駆逐されていく。欧州では40年までに石炭使用量は87%も減る。世界の発電分野からの二酸化炭素(CO2)排出量も26年にピークを迎え、その後は微減状態になるという。

米国でもCO2を大幅削減?

社会も大きく変わる。天候で変動する太陽光や風力による発電が増えると、発電と需要とのズレが問題になる。しかし、40年には世界で販売される車の53%が電気自動車(EV)になる。社会が巨大な蓄電池を持つことを意味し、電気が余る時間帯に充電すれば、需要と供給のアンバランスが緩和される。40年には欧州や米国では12~13%の電気をEVが使うようになる。

そして米国では23年頃に、陸上風力と太陽光の発電が、新設される天然ガス発電所に対しても、コスト競争力を持つようになる。

6月1日、米国のドナルド・トランプ大統領がパリ協定からの離脱を発表した。大統領の大きな狙いは「石炭産業を守ること」だという。しかし、米国でも石炭火力の退潮は変わらないだろう。BNEFは「別に連邦政府の追加削減策がなくても、30年時点での米国の発電部門からのCO2排出量は、05年比で約30%減になる」とみている。

これは、バラク・オバマ前大統領がつくったクリーンパワー計画の削減量( 30 年で32%減)や、パリ協定での自主削減量(25年までに26~28%減)に匹敵するレベルだ。クリーンパワー計画は、トランプ大統領が廃止を指示しているが、廃止されたとしても計画が存続したのと同程度に排出が減るという見通しになっている。「パリ協定離脱を心配する必要はない」とは言えないが、石炭の将来は米国でも決して明るくないということだ。

さて、日本の将来像はどうだろう。BNEFは市場性やコストをより重視し、政府の過大な原発政策にもあまり引きずられないので、リアルで大胆な将来図を描く。2年前には「30年の日本では、太陽光による発電が原発による発電より多い」と予測して、政府を驚かせた。

BNEFは今後かなりの数の原発が再稼働するとみる。23年には原子力による発電はピークの14%になるが、新規の建設もできないので、30年には10%(政府目標は20~22%)に減り、40年には1%とほぼ消える。

日本の将来像での最大の特徴は、石炭火力発電の多さである。現状(16年)でも30%と多いが、BNEFの予測では、26年には41%に跳ね上がり、30年にも38%(政府目標は26%)、40年でも30%超を保つとみている。

「福島前」と同じ日本の政策

「石炭火力の国」をつくるのは、これから建設される石炭火力発電所だ。環境NGOの調査では、日本国内に12年以降、49基(2300万kW)の石炭火力の新増設の計画がある。3基ほど中止になったが、温暖化対策の時代にこんな大規模な計画を持つ先進国はない。

問われているのは、福島原発事故以降のエネルギー政策だ。地震と原発事故で多くの発電所が壊れたり、止まったりした。その時期を、老朽化した石油火力を動かし、天然ガス火力の稼働を上げ、節電で電力需要を減らして乗り切った。事故以降、ほぼ原発なしで日本社会は動いてきている。

政府は今後、できるだけ多くの原発を再稼働させ、大量の石炭火力を新設しようとしている。それは「石炭で発電コストを下げ、原発でCO2排出を抑える」ことを目指した「福島前」の戦略と同じだ。その戦略は原発事故で失敗し、CO2排出は抑えられなかった。

石炭火力が増える今の政策のままでは、日本がパリ協定で申告している30年の削減目標達成は遅れると、BNEFは指摘している。日本がとるべき道は、石炭火力の建設を減らし、自然エネルギー導入への過剰なブレーキを外して、太陽光以外も増やすこと、そして日本が世界に表明している「50年に80%削減」をまじめに考えることだ。今は「80%削減なんてどうせ無理」という雰囲気が漂い、政府内では誰も本気で考えていない。

BNEFは「OECD諸国の中では、日本と韓国のみが長期的に石炭火力への依存を高めている」とも言っている。しかし、韓国では、新しく就任した文在寅(ムンジェイン)大統領が「脱原発、石炭火力の削減」を言い始め、エネルギー政策大転換の兆しがみえる。台湾も脱原発を決めた。いずれも福島事故の影響を強く受けた転換だ。日本だけが「福島前」に戻ってはならない。

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