雨と親しむ治水と利水/小規模分散システムの可能性

梅雨の季節、雨についてじっくりと考えてみましょう。

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。6月号の「時評」欄では、雨に親しみながら治水と利水を図る工夫について、京都学園大学教授・京都大学名誉教授の森本幸裕さんが論じています。梅雨の季節、雨についてじっくりと考えてみましょう。

この2月に「あめにわ憩いセンター」なるものが、福岡市の住宅地の一角にオープンした。公共施設ではない。女性一級建築士第1号の角銅久美子さんのご自宅が、このほど市民みんなで取り組む流域治水の拠点として生まれ変わったのである。頻発する集中豪雨と水害にたまりかねて立ち上がった研究者と地域住民などからなる、樋井川流域治水市民会議の活動の成果でもある。

●タンクを仕込んだ「あめにわ憩いセンター」のデッキで水の出方を確かめる角銅さん。利水容量10m3、雨庭全体で洪水調節量は40m3を超える。

大雨を受け止め、貯留し、利用し、ゆっくり浸透させるだけでなく、地域の文化も反映した焼酎かめ壺や酒樽を使った雨庭(あめにわ)など、随所に工夫されたデザインが楽しい。100mmの雨が降った時、249m2敷地には24.9tの雨が降り、屋根からは16.14tの雨が下りてくる。そのうち、10.54tをかめやデッキ下に仕込まれた雨水タンクに導き、利用する。残り5.6tは雨庭での貯留・浸透で治水するという構造だ。雨水が地中に浸透する速度の実測結果も踏まえると、樋井川が氾濫した2009年の豪雨(近くの観測所の最大時間雨量106mm、総雨量197mm)が再来しても、貯留してゆっくり浸透させることができる計算だ。

もう一つ、新築の時から本格的に雨水を利用し、健全な水循環を目指した画期的な事例がこの近くにある。市民会議に参加する専門家でもある渡辺亮一教授(福岡大学)のご自宅は、2012年に完成した雨水利用実験住宅だ。合計41.8tも貯留できるタンクを備える。雨樋から流下した雨水は、汚れた初期雨水の除去装置とろ過機を経て、家の基礎を兼ねた、地下のコンクリート製水槽に入る。いくつかの水槽を経るうちに汚泥も除去される。毎月の検査によると、水道水に適用される水質基準はほぼ合格だ。屋根材が原因なのか、アルミニウムだけがぎりぎりの水準だという。雨水は洗濯、風呂、トイレ、庭園、ビオトープなどに利用される。私は雨水コーヒーをご馳走になった。実績などから、渇水期でも4人家族の水需要をほぼ賄えることが確かめられつつある。

大雨の時、各槽からのオーバーフロー水は、庭の緑化駐車場の下に埋め込まれた別のタンクに導かれ、ゆっくり地下浸透する。

こうした小規模分散、市民参加型のシステムは貯留単位水量当たりの低コストも魅力だ。福岡市の天神で行われている水害対策レインボープランは6万m3で357億円だから1m3当たり59万円なのに対し、本格的な渡辺邸では9.3万円。中庭地下で108m3を貯留した集合住宅の例では3.1万円と大幅に安くなる。そして、何より強調したいのは、単なる雨水タンクだけではなく、貯留・浸透に資する雨庭を組み込むことで絶滅の危機にあることも多い水辺の生物の避難場所となり、都市にまさに潤いをもたらす小道具にもなることだ。

一石で何鳥にもなる小規模分散雨庭群は、地球環境危機への賢い適応といえる。この普及啓発に、「あめにわ憩いセンター」が活用されることを祈りたい。

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