ベトナムで広がる参加型環境教育/カント市の中学・高校で活動

ベトナムのメコンデルタは地球温暖化の影響に対して最も脆弱な地域でもある。

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を発信しています。1月号の「時評」では、日本の支援で参加型の環境教育が広がっているベトナム・カント市の状況を、松下和夫・京都大学名誉教授から報告していただきました。

モダンなベトナムのカント市の空港で出迎えてくれたのは、カント医科大学のトアイ教授と東京労働安全衛生センターの仲尾豊樹さんだった。カント市はホーチミン市の南西約160kmに位置するメコンデルタの中心都市だ。筆者はこれまで何度もベトナムを訪れる機会があったが、自然を徹底的に破壊されたベトナム戦争の惨禍から立ち直り、水田や畑などでかいがいしく働くベトナムの人たちの姿を見るたびに、かつての日本の田園風景を思い起こすようで、とても懐かしい気持ちになる。

昨年(2017年)10月、私たちは地球環境基金が支援するカント市での参加型環境教育プログラムの成果を確認するためにベトナムを訪れた。あいにくカント市街へ向かう道路は一面冠水して水浸しだった。気候変動の影響か、50年に一度の大雨が降った影響だという。

ベトナムのメコンデルタは豊かな自然環境に恵まれた穀倉地帯だが、地球温暖化の影響に対して最も脆弱な地域でもある。また、近年のドイモイ(刷新)政策による急速な経済成長の下で、化学物質汚染・水の汚染・廃棄物などの課題が顕在化している。他方、経済成長とグローバル化の下で失われつつある「環境と共生するベトナムの伝統的生活文化」を見直そうという動きもある。

●廃品を活用して作った作品の前に集合したカント市レブン中学の生徒たち
●廃品を活用して作った作品の前に集合したカント市レブン中学の生徒たち
松下和夫

こうした背景からカント医科大学の教職員を中心としたボランティア団体「GREEN」は、メコンデルタの環境問題を中高生が学び、彼らの環境保護活動の活性化を支援するプロジェクトを数年前から開始している。その効果的な方法として、東京労働安全衛生センターが開発した「参加型学習による中高生向け環境保護教育」プログラムを活用し、中高の教員を対象に「環境教育トレーナー」を養成し、学校や地域で参加型環境保護教育を実施し、青少年への環境教育を広めている。青少年による環境改善活動は成果発表会やWEBにより広く情報発信されている。

GREENの活動は現在では市の教育部からの認可を受け、学校の正式な事業として認められている。そのため、中高の教員も授業時間中の活動として展開できるようになった。教員のトレーニングを戦略的に行い、トレーニングを受けた教員が生徒を教え、生徒が実践活動(廃品を活用したリサイクル作品の製作や学校や家庭の美化など)を行っている。また、訓練を受けた10教科にわたる教員は、それぞれの授業の中に環境教育を入れたカリキュラムを作りあげた。中核となる教員・生徒が他の教員・生徒や両親に伝えるなど波及効果が明確に確認されている。市内5中学、5高校で展開した事業を、現在は市の全ての学校(100校)に広げる活動を続けている。

私たちは参加型環境保護教育を実施しているレブン中学やローフーフック高校を訪れ、さらには生徒たちの自宅を訪問するなど、現地の生徒や関係者と交流する貴重な機会にも恵まれた。

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