象牙求め密猟、アフリカゾウの減少止まらず/2000万頭から35万頭へ。問われる人類の智

生息数は18カ国で約35万頭。07年からの7年間で3割が減っていた。

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化、エネルギーなどの話題を幅広く発信しています。11月号の「環境ウォッチ」では、環境ジャーナリストの竹内敬二さんが、密猟による減少が止まらないアフリカゾウの現状について解説しています。

野生動物の保護や取引について話し合うワシントン条約(CITES)の会議が10月初めまで南アフリカで開かれた。最大の成果は、問題のある国の象牙市場の閉鎖を求める決議を採択したことだ。密猟ストップの決め手になるのだろうか。

決議は「密猟または違法取引の原因となる国内の象牙市場を持つ国は、国内市場を閉鎖するための措置を取るよう勧告する」。一つの前進だが、対象は悪い市場を持つ国というあいまいさがあるので、効果は不透明という声が強い。

欧州各国がアフリカを植民地にする前には、約2000万頭のアフリカゾウがいたとみられている。それが植民地化の過程で激減し、1970年頃には100万頭ほどになった。その後も大規模な密猟が続き、頭数を減らした。

一方、1975年にはCITES が発効した。絶滅が危ぶまれる生物や、そうした生物からつくった製品の「国際取引を規制」する条約だ。取引を止めることで間接的に野生生物の乱獲の防止を目指す。

中国やタイで市場が拡大

この条約で1989年、象牙の国際取引が原則禁止された。アフリカでゾウを殺して象牙を得ても原則的に輸出できなくなった。アフリカゾウの減少は止まり、2000年代半ばには約50万頭にまで回復した。

しかし、2005年頃から現在に至るまでは、再び激しい密猟時代に入っている。今年8月、上空から見つけやすい草原に暮らすゾウについての大規模調査結果が発表された。生息数は18カ国で約35万頭。07年からの7年間で3割が減っていた。

アフリカゾウは象牙のために殺される。日本では高級な印鑑や三味線のバチの材料だが、中国では繊細な工芸彫り物に、欧州や米国ではピアノの鍵盤、ビリヤードの球などに使われてきた。狩猟の成果として象牙を飾る風潮は世界中に見られる。

1980年代までは、欧州が世界の象牙取引、加工産業の中心だった。米国の市場も大きかった。アジアでは、日本、香港、タイ、台湾に大市場があった。こうした市場は1989年の取引規制によって軒並み縮小したが、90年代半ばからアジアの市場が再び拡大に転じ、それが密猟の広がりを生んでいる。

市場が大きく拡大したのは中国とタイだ。両国では経済成長によって購買力のある中間層、富裕層が広がり、象牙製品の需要が一気に増えたとされている。

「密猟者」という「生活者」

銃を使えば簡単にゾウを殺すことができる。最近の密猟者はヘリコプターからゾウの群れを見つけ、地上の仲間に教えるシステムをとっている。地上でゾウを撃った後は、死後硬直が起きる前にチェーンソーで顔面を切断し、象牙を抜き取るという。写真で見る殺戮後の光景は凄惨極まりない。

アフリカで続く紛争も状況を悪くしている。コンゴの戦争では1990年代からの約20年間で500万~600万人の死者が出た。地域には銃が蔓延し、ゾウは紛争の資金源としても狙われる。

象牙の値段は重さ1kgで1.2万~1.5万円とも言われる。1本100kgもの巨大な象牙なら、100万円以上になる計算だ。アフリカではものすごい価値を持つと言える。

私たちも含め、外部の人間は、ゾウを殺す人たちをしばしば「密猟者」という言い方で切り捨てる。しかし、現地で見れば、密猟者も「生活者」の面を持つ。ゾウを殺して牙を売るのは、手っ取り早く、かつ数少ない金儲けの手段でもある。警察や軍隊も、しばしば賄賂をもらって密猟を見逃す。それもまた生活のための行為と言える。ゾウの保護が生活の安定につながる制度をどうつくるか。難しい問題だ。

決議の実効性は?

今年のCITESの決議は前進ではあるものの、閉鎖の対象は「問題のある市場を持つ国」だ。多くの国が「うちは問題ありません」となれば、実効性は期待できない。密猟に悩むアフリカ諸国や環境保護団体は「全ての国内市場の閉鎖が必要」と主張する。当然だろう。

日本はどうするのか。政府は「日本の市場はきちんと管理されているので、閉鎖の対象ではない」としている。 しかし、最近では日本の中でもずさんな規制の運用が指摘されていることなどから、「日本も閉鎖すべきだ」との主張も強い。

一方、インドなどに生息するアジアゾウはアフリカゾウと少し異なる状況にある。「野生の生息数は3.9万~4.3万頭。他に13万頭が農耕用などに飼育されている」という報告がある。家畜化が進んでいるのだ。

それにしても普通に考えれば、ゾウを絶滅の危機に追い込むことは愚かなことだ。

これから人類が何万年生存し続けるか分からないが、続く限りはアフリカゾウやシロナガスクジラといった巨大な生命体と、地球上で共存していたいものだ。なのに、人類が銃を持った途端、わずか数百年でアフリカゾウが消えようとしている。シロナガスクジラも危ないところだった。

アフリカでは大量の人が死ぬ戦争が続いている。私たちは人もアフリカゾウも守れていない。人類の智が問われている。

注目記事