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ブルーカーボン/地球温暖化の抑制に海の力を

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森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化に関わる様々な話題を発信しています。5月号の「NEWS」欄では、地球温暖化に関する議論の中でしばしば耳にするようになってきた「ブルーカーボン」の重要性を、その研究の第一人者である港湾空港技術研究所の桑江朝比呂・沿岸環境研究グループ長に解説してもらいました。

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海洋生物によって大気中の二酸化炭素(CO2)が取り込まれ、海に貯留された炭素のことを、2009年に国連環境計画(UNEP)は「ブルーカーボン」と名付けた(※1)。

陸や海は、地球における炭素の主要な貯蔵庫となっているが、とりわけ亜熱帯の陸と海の境界に発達するマングローブ林では、単位面積当たりの炭素貯留量が多く貯留速度も高い。実際にマングローブ林の土壌を調べると、濃密に発達した根や堆積した有機物の層が確認でき、土壌中に炭素が高濃度に蓄積されていることがわかる。

また、アマモなどの海草が生育する砂泥性の海草藻場や塩性湿地も、年間の炭素貯留速度は高い。しかしながら、ブルーカーボンの総量やブルーカーボンの貯留速度、あるいは浅海と大気との間のCO2ガスの出入りについては、まだ知見が限られているため、現在世界中で調査研究が精力的に進められている。

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●沖縄県西表島のマングローブ林(右)とその土壌=写真はいずれも桑江朝比呂さん提供

重要な浅海域


森林など陸上でCO2が取り込まれて貯留された炭素は「グリーンカーボン」と呼ばれている。森と海は川を通じて水域としてつながっているため、陸域から流れ出たグリーンカーボンの一部は、河口付近の浅い海域に捕らえられ貯留される。つまり、森―川―海の健全な連環により、浅海域の海草藻場やマングローブ林では、ブルーカーボンやグリーンカーボンが貯留され気候変動の緩和に役立っていることがわかる。

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●東京湾の浅海域に広がる海草藻場

陸と比較して浅海域が炭素貯蔵庫として重要なのは、海由来のブルーカーボンそして陸由来のグリーンカーボンが、どちらも海底堆積物中に長期間(数千年程度)貯留される点である。これは海底堆積物が基本的に無酸素状態にあり、バクテリアによる有機炭素の分解が抑制されるためである。

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また、浅海域を活用した気候変動対策は、現場での適用に際して、社会的な受け入れや倫理面の障壁が小さく、かつ低コストで持続可能な技術であるといった長所がある。さらに浅海域の活用により、気候変動の緩和だけでなく、他の生態系サービス(食料供給、水質浄化、観光レクリエーション、防災減災など)との両得(コベネフィット)も期待できる。

例えば、マングローブや海草藻類の植物体そのものが波や流れの作用を弱めるため、気候変動によって将来風波の規模や頻度が高まる場においては、これらの植生により海岸侵食が抑制される。波や流れの作用が弱まると、生態系内に浮遊懸濁物質が捕らえられ堆積することになる。そうして自然に海底がかさ上げされることで、気候変動による海面上昇への対策にもなる。

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「パリ協定」で言及の国も


高度成長期にコンクリートで造られた海岸施設は次々と老朽化し、更新が必要となっている。海岸施設の維持管理を持続可能とするためには、施設の長寿命化やコスト縮減などの対策が必要となる。

このような背景から、近年、人工構造物(グレーインフラ)だけでなく自然(グリーンインフラ)も活用した海岸防御といった考え方が着目され始めた。自然生態系を活用した防災減災はEco -DRR(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)とも呼ばれ、気候変動への適応策としても注目されている。

2020年以降の新たな法的拘束力を持つ枠組みとして、2015年に開かれた気候変動枠組み条約の第21回締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」では、各国が温室効果ガスの排出削減に関して約束草案(NDC、Nationally Determined Contributions)を掲げ、相互に検証し合う仕組み(プレッジ&レビュー方式)が基本方針となっている。

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実際にNDCで、ブルーカーボンあるいは浅海域生態系の活用について具体的に言及している国はどのくらいあるのか、2016年に調査が実施された。その結果、浅海域あるいはブルーカーボンの活用に言及している国は、緩和効果に対して151カ国中28カ国(19%)、適応効果に対して151カ国中59カ国(39%)であった。残念なことに、日本はいずれにも言及していなかった。

諸外国が予想外に早く、浅海域やブルーカーボンを活用した気候変動の緩和や適応に取り組んでいることがおわかりいただけたと思う。日本も世界第6位の海岸線の長さを活かし、浅海域やブルーカーボンの活用を一刻も早く気候変動対策の手段としてNDCに明記すべきだと考える。

研究会を設立


これまで海辺の自然再生事業の主たる手立てとして、浚渫土砂等の有効活用や、干潟あるいは海草藻場の再生(修復や創出)がなされてきた。パリ協定の発効などを踏まえ、海洋国家である我が国においては、これらの取り組みを通じたブルーカーボンの活用がより一層重要となる。

このような背景のもと、ブルーカーボンによるCO2削減効果に着目し、海草藻場の分布等の現状把握や海草藻場の拡大に向けた社会的な枠組みの構築を目的として、学識経験者および関係団体等で構成される「ブルーカーボン研究会」が今年2月、国土交通省と水産庁の連携により設立された。

ブルーカーボンの活用により、これまで知られていなかった気候変動の緩和という価値に加え、食料供給、水質浄化、観光レクリエーションなど、様々な浅海域の価値が高まる。そうなれば、税金の投入により公共事業として進められてきた海辺の自然再生が、今後は民間資金により進められていくことも期待できる。

※1) Nellemann, C., et al.: UNEP, GRID-Arendal (2009)