熊本地震/益城町の被害から見えてくる木造住宅の課題

住宅を建てる際に心がけることは、とにかく建物の耐震性は高くして、余裕を持った性能にしておくことが望ましいということである。

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。4月14日の午後9時26分、熊本県を中心とした最大震度7の地震が発生し、この地震の後、余震活動が活発に続いている中で、4月16日午前1時25分には、一連の地震の本震とされる大地震が再び熊本県とその周辺を襲いました。

日本建築学会から、この地震の被害調査に加わった東京大学大学院農学生命科学研究科講師の青木謙治さんから、木造住宅をめぐる被害の様相と見えてきた防災上の課題について、同誌7月号の「NEWS」欄で速報してもらいました。

日本は地震国だということに対して、異論を唱える方はいないと思う。だが、プレート境界型地震が起きる太平洋側地域の地震防災に対する意識の高さとは裏腹に、日本海側や内陸部に関しては活断層の危険性は唱えられているものの、その発生確率からみていつどこで地震が起きるかの予想がつかず、その危険性を認識している方は非常に少ないのが現状だろう。

今回熊本県の被災地で調査を行った際にも、住民の方々は「熊本でこんな大きな地震が起きるとは思わなかった」と話していた。阿蘇山の噴火や毎年来る台風に対する備えはあっても、地震に対する意識はかなり低いと言わざるを得ないものだったのだ。

●1981年以前の旧耐震基準で建てられた古い住宅の倒壊=写真はいずれも、青木謙治さん提供

建築年代で異なる耐震性

新聞やテレビなどで報道されている通り、建築物や土木構造物も甚大な被害を受けた。木造住宅を対象にした場合、特に被害が大きかったのは熊本市の東側に位置する益城町で、その中でも益城町役場の南側に当たる秋津川流域の被害は甚大であった。

筆者は、日本建築学会九州支部が益城町で行った悉皆調査(全ての建物を調査すること)に協力する中で、この最も被害が大きい秋津川流域の木山地区を担当することとなった。この辺りは建物全体の8割以上が倒壊あるいは全壊相当の甚大な被害を受けている印象で、局所的ではあるが、1995年の阪神大震災以降に国内で発生した大地震の被害と比べてみても、最も被害が大きい部類に入ると考えられた。

被害を受けた住宅は、その建築年代によって耐震性が大きく異なる。まず、1981年以前に建てられた古い住宅は、建築基準法の耐震基準が改正・強化される前に建てられているため、そもそもその耐震性が低く、震度6強や7といった大地震には耐えられない。そのため、国や自治体は建物の強度を増すための補強(耐震補強)を積極的に勧めているのだが、地震に対する意識がもともと低い熊本地方ではあまり進んでいなかったようだ。今回の地震では、このような古い基準で建てられた住宅は壊滅的な被害を受けていた。

新基準の住宅でも大破・倒壊

次に、1981年以降の基準で建てられていた住宅であるが、1回目の"前震"には何とか持ちこたえた住宅が多かったようだが、2回目の"本震"で大破・倒壊した家が多かったそうだ。住宅の耐震性に有効とされる"耐力壁"には、"筋かい"という斜材を入れるか"面材"を釘打ちするかのいずれかを使うのが一般的だ。

被害を受けた住宅はほぼ全て筋かいを使った住宅であり、前震時にその筋かいが座屈して折れてしまったり、筋かい端部の金物が外れてしまったりして、本震時にはその機能を果たせなくなっていた住宅が多かったのではないかと推測している。

●座屈破壊した筋かい耐力壁。1981年以降に建てられた住宅でも、"本震"で耐力壁が機能を果たさなかった例が見られた

そして最後が、2000年の建築基準法改正でさらに規制が強化された後に建てられた住宅であるにもかかわらず、大破や倒壊してしまった住宅である。この法改正では耐震性自体(住宅に配置すべき耐力壁の量)には変更がなかったが、接合金物の選定方法や耐力壁の配置方法等が明確化され、より建物の安全性が高められている。にもかかわらず、築年数の浅い住宅が大きな被害を受けているのはなぜなのか、研究者としては非常に興味があり、詳細な調査を今後行うべきものと考えている。

今回の熊本地震は、震度7が短期間に2回も記録されるという前例のない地震であり、前震には耐えたが本震で倒壊したという事例が非常に多かった。そのため、倒壊原因などを調査しようにも、どちらの地震でどの程度の被害を受けたのかがよく分からなくなってしまい、原因究明がしづらくなっているのは事実である。

また、河川流域であるため地盤は弱く、さらに盛り土によって土地を造成した宅地も多いため、これらが木造住宅に被害を及ぼす地震動スペクトル(特定の周波数を持つ波)を増幅させた可能性も指摘されている。こういった要因に加え、住宅そのものの耐震性がどの程度であったのか(建築基準法をきちんと遵守して建てられていたのか、建築基準法の要求性能に対しどの程度の余裕を持って建てられていたのかなど)を精査し、それらを総合的に判断しないと今回の地震被害についての結論的なことは言うことができない。

●築年数が浅いにもかかわらず倒壊した住宅もある。詳細な原因調査が必要だ

要求性能の1.5倍以上を目標に

筆者は限られた範囲の調査しかしていないので、周辺の研究者から聞いた情報も含めて判断すると、現在の木造住宅を建てる際の基準をきちんと守っていることが大前提として、その基準法の要求性能ギリギリで住宅を建てた場合には、今回の地震に対して倒壊はしないまでも大破してしまうのは致し方ないところである。

建築基準法の目的は人命を守ることであって、資産(住宅)を無傷で守ることは考慮していない。そして基準法の要求性能に対し、1.5倍とかそれ以上の耐震性を持たせた住宅は、軽微な被害かほぼ無傷な状態で残っている。

従って、住宅を建てる際に心がけることは、とにかく建物の耐震性は高くして、余裕を持った性能にしておくことが望ましいということである。「品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」の適用や「長期優良住宅(長期優良住宅の普及の促進に関する法律)」の認定を取得するなど、一段階上のレベルの住宅を建てることを旨とするのが、木造住宅を今後来るかもしれない大地震から守る最も有効な手段ではないだろうか。

また、既存の住宅に関しても耐震補強をこれまで以上に積極的に進め、建築基準法レベルの1.5倍以上の性能を確保するように補修、補強を行うことを目標とするべきであろう。

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