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小笠原諸島で侵略的外来植物のアカギに立ち向かう

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森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。

世界自然遺産に登録されて、今年で5年を迎えた小笠原諸島。独自の進化を遂げた動植物の宝庫ですが、それだけに、登録時にはユネスコから「侵略的外来種対策の継続」を強く要請されました。

特に大きな問題になっているのが高木のアカギです。現地で駆除に取り組む一般社団法人・小笠原環境計画研究所の葉山佳代さんに、現状を報告してもらいました。

    ◇

アカギは、わが国の南西諸島のほか、中国南部、東南アジア、オーストラリアなどに分布する高木性の常緑広葉樹である。名のとおり、樹皮はやや赤みを帯び、材は大木では濃い赤褐色を呈する。小笠原諸島(父島)へは沖縄から明治時代(1905年以前)に移入され、母島には父島経由で昭和初期(1930年頃)に持ち込まれた。

当時、小笠原では薪が不足しており、沖縄から試験的に複数の樹種が導入され、その一つがアカギであった。しかし、実際にアカギが薪炭材として利用された記録はない。利用されることがないまま、今では母島の生態系を破壊する脅威となっている。

台風の被害地に侵入して繁茂


外来種は、定着初期には数も少なく目立たないが、定着が進むにつれて爆発的に数を増やして分布を広げ、これに伴い被害が甚大化していくというパターンを取る。この様子は燃え広がる火事にも例えられる。

アカギも同様で移入後すぐには増えなかった。外来種としての侵略性があると認識されたのは1970年代で、爆発的に増えたのは1983年11月に小笠原を襲った台風17号以降である。この台風17号による被害は激甚災害に指定されたほどであり、山では多くの木々が倒伏した。その跡にアカギが侵入繁茂し、急激に広がった。

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●アカギが生い茂る母島の「桑ノ木山」=写真・図はいずれも葉山佳代さん提供

小笠原固有種のオガサワラグワの見事な林があったことから「桑ノ木山」という地名がついた場所が母島にあるが、現在の桑ノ木山は、高さ10m、直径50cmを優に超すアカギの大木がひしめく林と化している。

そして、2003年の空中写真に基づくアカギの分布図によると、アカギは母島の296ha(島の面積の約15%)に分布している。空中写真では、森林の上層部にある木々しか写らないため、これはどちらかというと控えめな数字である。

アカギは小笠原本来の植生を破壊し、自らが優占する林を広げつつある。植物が形成する植生は生態系の基盤となるため、生態系全体が影響を受けることとなる。小笠原にはここだけに生息、生育する固有種が多いが、それらは種の絶滅に直面することとなる。アカギは母島の森を占拠しつつあり、母島における最も侵略的な外来植物となっている。

伐っても枯れず、駆除は除草剤で


アカギは伐倒しても枯れることはない。伐り倒しても、切り株からすぐに芽吹いて再生する。根ごと倒れても、枯れることなく枝葉を伸ばして立ち上がってくる。また、アカギはブドウのようにたわわに実をつけ、母樹の根元にはカイワレ大根のようにびっしりと実生が見られる。

さらに、アレロパシーにより他の植物の生育を阻害したりもする。こうした旺盛なアカギの生命力の前に、アカギの防除対策は立ち遅れた。その原因としては、伐っただけでは枯れなかったことが大きい。

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●びっしりと生えるアカギの実生

2002年から始まった駆除事業は、当初は伐倒や環状剥皮(巻き枯らし、樹皮を剥いで枯らす方法)などが採られた。しかし、枯れずに芽吹いてくるため、継続して毎年、芽吹いてきた枝を刈り取る作業が必要となった。これらの方法では、母島に数百ha規模で成立するアカギ林には太刀打ちできなかった。

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●アカギの樹幹に除草剤を注入する作業のイメージ図

そのため、現在では除草剤を樹幹に注入して枯らしている。

これは、アカギの幹に地面に近い高さでぐるりと一周ドリルで穴を開けていき、そこに1mlずつ除草剤を入れ、木栓で蓋をするという方法である。この方法であればアカギを枯らすことができる。除草剤で枯らす方法が開発されたことで、やっとアカギの駆除を現実的に実施する目途がついた。こうしてアカギの駆除が本格化した。

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●地面近くのアカギの幹に除草剤を注入する作業

除草剤を使用することに、懸念を持たれる方がおられると思う。

小笠原の自然環境を守るために除草剤を使うのは奇異に感じられるだろう。アカギへの使用においては、農薬取締法に基づきアカギを対象とした用法用量を定めており、これに従って適正な使用を図っている。また、環境中への流出状況についてモニタリングなどもしている。母島にある何十万本というアカギに立ち向かうために除草剤は不可欠であり、使用に当たっては十分に配慮していることを理解して頂けたらと思う。

生態系被害は年を追って深刻化


母島でのアカギの駆除は現在も進められている。アカギの駆除は、1回の作業では完了しない。地面に落ちていたタネが芽吹いたり、処理し切れなかった小さな木や見落とした木が大きくなってきたりするためである。

しかし、一度でもアカギを駆除した林では、小笠原在来の木々が待っていましたとばかりに元気を取り戻し、枝葉を広げだす。亜熱帯という恵まれた気候での植物の旺盛な成長力は本当に目覚ましく、その姿に作業の苦労が報われる。

また、小笠原固有の希少な昆虫であるハナダカトンボやオガサワラシジミなどにも、姿が戻ってきたり、数が増えたりという保全効果が得られている。このように、アカギの駆除をやればやっただけ、小笠原の自然は再生する。

とは言え、まだ手が付けられていないアカギ林も多く、そうした場所でのアカギの繁茂ぶりには恐ろしいものを感じる。母島全体を俯瞰すると、駆除する量よりもアカギが日々増える量の方が多いのではないだろうか。

まだまだ、アカギ駆除はアカギの勢力をマイナスに転じるところまで達してはいない。これは、アカギの増殖が甚だしいことだけが理由ではない。小笠原が抱える外来種問題がアカギだけではないためである。

小笠原では、たくさんの種類の外来種によって生態系被害が生じており、年を追うごとに問題は深刻化している。外部から新しい外来種が侵入したり、今まではいなかった島に新たに侵入したり、すでに侵入している外来種がさらに増えたりと、いろいろである。

小笠原の自然環境が有する価値を未来永劫にわたって守り続けるのは容易ではない。小笠原の現状を多くの人に知ってもらえたらと思う。