知っていますか? 持続可能な開発目標(SDGs)/誰もが人間らしい生活を送れる地球をつくる

2016年は、国連が15年に採択した「持続可能な開発目標」について、各国が本格的な取り組みをスタートさせる年になる。

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。2月号の「環境ウォッチ」では、環境ジャーナリストの竹内敬二さんが、国連が昨年採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」を紹介しています。

2016年は、国連が15年に採択した「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals、SDGs)について、各国が本格的な取り組みをスタートさせる年になる。地球温暖化防止の「パリ協定」ほど有名ではなく、法的な拘束力もないが、誰もが人間らしい生活を送れる地球をつくるために必要な哲学と対策が書かれている。世界が長期的にまじめに考えるべきテーマである。

少し歴史をさかのぼると、国連は2000年、国連ミレニアム・サミットを開いた。そこでは貧困問題を集中的に議論し、極度の貧困と飢餓の撲滅など、人間生活の最低限のレベルを上げることを主テーマにした「ミレニアム開発目標」(Millennium Development Goals、M D G s )を採択した。

ミレニアム開発目標の後継

8項目の目標と21のターゲットを掲げたMDGsの達成期限は昨年(15年)だった。南アフリカでのエイズが抑制されたほか、最貧困層が中国やインドで大きく減って、1990年の19億人から2015年には8.3億人になるなど、一定の成果を挙げた。

一方で、全体的にアフリカでの改善が小さかったほか、中東では紛争が経済発展を阻害して生活環境を破壊するなど、地域による進展のばらつきも大きかった。

SDGsはMDGsの「後継ぎ」だ。やり残した課題に、時代が求める新たな課題が加わっている。そのSDGsは国連で15年9月に採択された。「グローバル・ゴールズ」とも呼ばれている。目標は17項目あり、目標年は2030年となった。

貧困撲滅+環境・持続可能性

MDGsとSDGsは、どこが違うのか。MDGsは貧困の撲滅が最重要テーマで、対象は途上国だった。その中で地球環境保全や持続的利用など環境に関わるテーマは、目標7に一まとめにされてしまい、目立たなかった。

新しいSDGsの狙いは、貧困を克服した上で、さらに世界の生活と生産、環境の場で持続可能なパターンをつくることだ。「貧困撲滅+環境・持続可能性」を追い求めることになった。

そして生物多様性保全、森林・海洋の保護、地球温暖化防止、再生可能エネルギーを含むエネルギーの効率的利用、持続可能な生産と消費のパターンづくりなど、地球環境に関するテーマが多く入った。

当然ながら先進国を含む全ての国が対象になった。日本も「うちには関係ない」という顔はとてもできない。

例えば目標8。「人間らしい雇用」を示す英語(decent)は「まともな」という意味だ。先進国とはいえ、「ブラック企業」や「ブラックバイト」の言葉があふれている日本社会こそ真しん摯しに受け止めなければならない。そして日本国内の所得格差は広がっている(目標10)。目標14の「海洋資源の持続可能な利用」も、水産資源を大量に獲得、消費してきた日本が世界で範を示すべき課題だ。

相乗的な便益が広がる協力を

SDGsには弱点もある。まず項目が多すぎることだ。MDGsは八つの目標だったが、SDGsは17目標もあり、具体的なターゲットとなると169もある。これでは関心が拡散する。誰もが自分に関係ある項目を入れようとする国連議論の悪い例だ。

「持続可能性」のあいまいさもある。この言葉と概念は、地球環境問題を解決するカギとして30年ほど前から使われているが、いまだに「抽象的すぎてピンとこない」と言われる。特に日本語ではその印象が強い。日本社会と日本人の意識の中にまだ十分に浸透していない。

どうするべきか。地球環境戦略研究機関(IGES)の吉田哲郎主任研究員は「広い分野の目標を実現するには政府主導、トップダウンでの対策ではうまくいかない」という。

「ビジネス、民間、一般市民の意識を高め、各分野を横断する協力でコベネフィット(相乗便益)を得ることが重要。再生可能エネルギーを増やせば温暖化対策になり、森林が守られ、生物多様性も守られる」

また日本では2010年に名古屋市で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開かれ、多様性の劣化、損失を食い止めるための「愛知ターゲット」が採択された。

SDGsの内容は愛知ターゲットとも整合性を持つように書かれている。日本はCOP10の議長国だった。その意味からも、SDGsには積極的に取り組むべきだろう。

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