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3年ぶりにできた国の温暖化対策計画/「大きな制度」なく、展望ない「80%削減」

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森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化、エネルギーなどの話題を幅広く発信しています。8月号の「環境ウォッチ」では、環境ジャーナリストの竹内敬二さんが、3年ぶりにできた国の温暖化対策計画について、その問題点を指摘しています。

     ◇

あまり知られていないが、最近の約3年間、日本には国の温暖化対策計画がなかった。

日本ではこれまで、京都議定書に基づく計画で動いてきた。日本全体で温室効果ガスの6%削減を目指すもので「目標達成計画」と呼ばれた。しかし、2008~12年の第1期が終わったところで、日本は議定書の削減義務から離脱してしまった。これで国内の削減計画があいまいになり、福島原発事故後の混乱もあって、しばらくは温暖化の国内対策がない状態が続いていた。

21世紀末には「排出ゼロ」

やっと今年5月、新しい「地球温暖化対策計画」が閣議決定された。昨年に成立した「パリ協定」に基づくもので、自治体などの計画作りの後押しにもなるだろう。

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●北海道苫前町の風車群。北海道に風車の適地は多いが、なかなか増やせない。電力会社の受け入れが少ないからだ=石井徹氏撮影

目指すのは「2030年度の排出は13年度に比べて26%削減」。これはなかなか大変な数字だが、長期的な目標の方がより厳しそうだ。「2050年までに80%削減」を明記した。

世界は地球温暖化による気温上昇を2度未満に抑えることを目指している。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書によると、今世紀末には2度を上回る可能性が高い。2度未満に抑えようとすれば、「2050年の世界の排出は今より40~70%の削減が必要」。そしてさらに進めて、「2100年には人間による排出はほぼゼロかそれ以下」にしなければならない。ゼロというのは、出した分を吸収させて計算上はゼロにすることだ。

つまり、世界が「2度未満」を目指すならば、日本も「2050年までに80%削減」くらいはしなければならないということだ。

これをどうやって実現するか。政府の計画は次のようなものだ。
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日本の温室効果ガス排出の9割強は「エネルギー起源の二酸化炭素(CO2)」による。その合計は12・35億t(2013年度)で、部門ごとに分けて分析されている。

① 【産業部門】4.29億t(2005年度より6.1%減)、2030年度の目標は4.01億t。
② 【業務その他部門】2.79億t(同16.7%増)、同1.68億t。
③ 【家庭部門】2.01億t(同11.7%増)、同1.22億t。
④ 【運輸部門】2.25億t(同6.3%減)、同1.63億t。
⑤ 【エネルギー転換部門】1.01億t(同2.9%減)、同0.73億t。

ハイブリッド効果で減少

部門ごとの傾向にも特徴がある。「産業部門」は石油危機後から省エネに取りくんできたので、これ以上は増えないといわれる。それだけでなく、排出量の大きかった重工業の比重が、下がる時代であるのでなおさらだ。これに対して、「業務その他部門」は商業ビルなどの分野を含む。ビルが建ち、第3次産業の比重が増す時代にあって、ますます増える傾向にある。

「家庭部門」の増加は少し複雑だ。家庭のCO2排出の半分は電力使用が占める。家庭での電力、エネルギーの使用量は減少しているのだが、発電におけるCO2排出が2011年の福島原発事故の後に急増しているため、家庭でのCO2排出が計算上は増えることになってしまった。電気の質が悪くなったことの、とばっちりだ。

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電気1kw時を発電する時に排出するCO2量(kg)をCO2排出係数と呼ぶが、09年度の0.41から12年度の0.57へと約4割も大きくなってしまった。これを2030年度には0.37へ改善するというのを前提に、今回の温暖化対策計画はつくられている。しかし、その改善は原発頼りだ。うまくいくのかどうかは疑問だ。

「運輸部門」の減少は、自動車の燃費改善の大きな成果といえる。ハイブリッド車が牽引する形で、個別の車の燃費がどんどん改善された。今は車の台数も、車による運輸量も頭打ちになっており、ついにこの部門のCO2排出がしっかりとした減少方向を示すようになった。

どの部門もまだ大幅な削減が必要だが、やり方は京都議定書の時とあまり変わっていない。産業界は業種ごとの「自主行動計画」に任せている。電気や燃料を使う機器は、トップランナー方式でどんどん新しいものに入れ替えようとしている。例えば、30年までに新車販売に占めるエコカーの割合を5~7割にする、電球や蛍光灯などの照明をすべてエネルギー効率の高いLEDに変える、中古住宅の省エネリフォーム件数を20年までに倍増する、といった具合だ。

役目を果たさない「環境税」

森林吸収にもフルに期待をかけている。吸収を算入できる上限は「全CO2排出の3.5%」。これを確保するには毎年52万haの森林で間伐などの森林整備をする必要がある。進められるかどうかは、補助金などとして支払うお金との相談になる。

日本の削減の特徴は、このような「自主的取り組み」「個別技術アップ」の積み上げだ。

しかし、京都議定書の時の方法が、「2050年までに80%削減」といった、長期かつ大幅な削減が求められる時代に対応できるとは思えない。社会全体のあらゆる活動がCO2削減の方向に動く「大きな仕組み」が必要だ。

それは第一に、市場メカニズムを使った削減の制度、つまり、環境税や排出量取引だ。CO2排出に価格をつけることで、じわりじわりとCO2を減らす社会にしていく。

日本にもすでに環境税はある。化石燃料にかかる「地球温暖化対策税」(温対税)である。化石燃料を輸入する事業者に課税され、燃料価格が上がった分はガソリン価格や電気料金に上乗せできる。

12年10月から導入されているが、いかんせん税額が小さすぎる。CO2排出1tあたり、289円でしかない。一般的に3000円以上でないと、価格による削減効果は出てこないと言われる。環境税という名前はあっても役目は果たさない。

エネルギー政策にも問題がある。発電でのCO2排出を少なくするのが、あまりに原発頼りである。福島原発事故を起こした日本で、これからそれほど多くの原発が再稼働できるのか。
日本の場合、もっともっと自然エネルギー、特に全く増えていない風力発電を増やす政策が必要だろう。

もう一つ、日本は石炭火力発電所を今から大量に建設しようとしている。これも先進国の中でみれば極めて特異だ。

「2050年に80%削減」という目標を見据えた、新たな大きな仕組みが必要だ。