カメの調査で知る外来種の脅威 ヤスデを探して見える自分とのつながり

自分の目で、手で、生きものを知ると、普段生きものに接する機会がない市民でも、生きものと自分とのつながりが自然と見えてくる。

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。2017年1~3月号の「nature守り人」欄では、世界でそして日本で動いている、市民が研究者の環境調査を手伝うプログラムについて、これに取り組むアースウォッチ・ジャパンの伊藤雪穂さんに紹介してもらっています。今回は2月号掲載の(中)をお届けします。

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2月の小川では、まだ眠そうなカメたちが土手の穴に身をひそめている。手で探ってみるが、どこにいるか分からない。後から来た研究者は、次々と捕獲する。悔しい。そのうちにコツをつかみ、私もカメを捕らえることができた。しかし、捕まるのは外来種ばかり。やっと見つけた日本固有のカメは、肢に食いちぎられた跡がある。近くに生息するアライグマやハクビシンの手にかかったことを、土手に残された足跡から知る。

●捕獲したカメを計測する小菅康弘さん=写真はいずれもアースウォッチ・ジャパン提供

固有種ニホンイシガメの保全調査では、カメの研究者の小菅康弘さん(NPO法人カメネットワークジャパン)からの要請に応じて、アースウォッチ・ジャパンがサイエンスボランティアを募り、カメを捕獲し記録する調査に協力している。この調査により、日本固有のカメが外来種のカメやアライグマなどに脅かされ、数が減少していることが分かってきている。

ニュースで聞く外来種の脅威や絶滅危惧種、地球温暖化などの環境問題は、私たちの身近でもひっそりと起きている。このような自然環境の変化を私たちはどう捉えて、何をしていけばいいのか。

私たちは、1月号で紹介したグローバルな環境調査に市民を派遣するだけでなく、そうした日本で起きている問題にも目を向ける活動を行っている。島国である特徴を生かして、森林と海洋、そしてそれをつなぐ水辺環境の生態系や、人間と野生動物の棲み分け、日本固有の生きものに起きている問題などに焦点をあて、研究者からの要請に応じて市民が参加できる調査プログラムを運営している。今までに、津波で被災した沿岸域の自然環境や、サンゴ、ウミガメなど50以上の調査を運営し、延べ1500人もの市民が生きものの世界から日本の環境変化を学んでいる。

こうした野外調査において、実感できるのは、環境問題の現状だけではない。

2015年から始めた調査に、「森の掃除人・八ヶ岳のヤスデ」がある。これは、山梨県八ヶ岳山麓で8年に一度、周期的に発生するキシャヤスデの規模と温暖化の関係を調べるものである。ムカデに似たこの生きものは、1984年に小海線野辺山駅近くで、線路内に大群で入り込み、列車をスリップさせた事故で有名である。2016年には、その4世代後が大発生の時期を迎え、その前後3年間を調査するためにボランティアを派遣している。

●ヤスデを捕まえて満足顔のサイエンスボランティアと橋本みのりさん(左)

ボランティアは、はじめはヤスデとムカデの違いさえ分からない。しかし、ヤスデ研究者の橋本みのりさん(大東文化大学)から指導を受け、森に分け入り、ひたすら穴を掘ってヤスデを探すなかで、ふと気づく。肉食のムカデと違い、ヤスデは落ち葉を常食としていることを。この妙なにおいのする生きものが、実に健気に土壌の栄養を循環させ、八ヶ岳の森林生態系を支えていることを。

アースウォッチの調査に参加し、自分の目で、手で、生きものを知ると、普段生きものに接する機会がない市民でも、生きものと自分とのつながりが自然と見えてくる。それが、たとえヤスデのような生きものであっても、愛着を持つようになる。そこがアースウォッチの面白いところだと私は思っている。

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