アベノミクス第三の矢、あるいはTINAについて

日本を強くていい国に、世界の公共財を進んで守り、平和と安定に誰より貢献することができる国とし続けていくために、いま、私たちは努力を始めようとしています。20年たったら、こんなに変わったと、もっと驚いてもらわなくてはなりません。

デフレと不況にただ漂流させておくには、日本は大きすぎる国です。その認識から、いつも私は出発します。どのくらい大きいかと言うと、ドイツと英国の名目GDPを足し合わせたよりも、日本の経済規模は大きいのです。

今年は第1四半期に、日本経済は年率に換算して4.1%伸びました。このまま1年、同程度の率で成長すると、イスラエルを上回る規模の経済が、世界に突然現れたのと同じ意味をもちます。

一方、20年間もデフレ不況を続けるうちに、日本の国民所得は5000億ドル近く減りました。これは、地上から、ノルウェー、ポーランド並みの国が、忽然と消えてしまったのと同じでした。

成長は日本の責任

得られる結論は明白です。日本は伸びてこそ、世界に貢献できる。縮むと迷惑をかける、それこそ、近隣窮乏化に加担していると、非難されなくてはならなくなるということです。日本の成長は、日本人のためだけではない、世界人類のため果たすべき責任でもある。ここが、私の原点です。

日本は海の安全、空や宇宙における移動の自由、それからサイバー空間のセキュリティーに、国益の多くを託す国です。そうした人類の公共財を、率先して守り、育てる国であり続ける責任が、日本にはあります。

アフリカにおけるインフラ構築や投資機会の造出、母子の健康や女性の地位向上に、知恵と資金を提供できる国であるべきですし、国際社会の平和と安定に、力を惜しまない国であるべきですが、そうしたことをなすためにも、日本は成長しないといけない。これは、「must」であって、顧慮選択の対象ではありません。

そこを私は先般ロンドンを訪れ、金融街シティ・オブ・ロンドンの真ん中にある古い建物ギルドホールで演説したとき、強調しました。故マーガレット・サッチャーの有名な言葉を引いて、「TINA」なのだと言いました。There is no alternativeという意味です。

まずは成長、そして財政健全化

財政健全化の努力また、しかりです。ノルウェー、あるいはポーランド並みの経済が日本からなくなってしまったのですから、課税ベースがそれだけ小さくなりました。中央と地方の政府債務残高は、いま日本経済の2倍を上回る規模になっています。これを減らすには、経済の成長による税収増を図るのが王道。

日本の信用を確保し、経済を持続的な成長の軌道に乗せながら、もう一方の課題である、日本の財政規律が堅牢であることを、世界に示さなければなりません。成長なくして、財政再建なし、です。

それが、私が言う第三の矢、成長戦略が必要な理由です。

ではこれを、どう図るのか。一言で言うと、さまざまな触媒を、時をおかずに投入し、日本に眠る成長力に火をつけるしかありません。

徹底的な対外開放と規制改革

つまり、徹底的な経済の開放がそのひとつ。貿易や投資における、内外の壁を可能な限り取り払うことです。日本の対内直接投資残高は、なんとか倍の規模に増やしたいと思っています。いままで輸出商品として考えられたことがなかった農産品も、世界の市場に売り込んでいくべきです。

内外の活発なひと、もの、カネの交流が、必ずいい触媒になって、日本経済を活性化させるはずです。TPPの交渉に、早く入らなくてはならないと考えたのは、そのためでした。

もうひとつは、同じく徹底的な規制の改革です。ここではふたつ、目玉を考えています。ひとつは、戦後数十年にわたって続いた寡占を破ることにした、電力市場における規制の改革です。発電と送電を分離する決断は、まさしく数十年固定してきた規制に加えた大きな改革なのです。

日本の太陽光パネル市場は、本年度、再び世界有数の規模を獲得する見込みです。新しい企業、新しい製品、新たなサービスが、電力の規制改革をひとつの有力な触媒として、大いに伸びて行くでしょう。そこに期待をしています。

都市を改革のショーケースに

もうひとつ、規制改革の目玉は、国家戦略特区という特別なエリアをいくつかつくり、そこで規制の改革をショーケースとして進めることです。

都市機能を思い切って便利なものとするため、ゾーニングの規制など改めなくてはなりません。マンハッタンのように、職住が近接し、昼間夜間の人口差があまりない都市にするのが目的です。

外国人が住んで働きやすい街にするのが、もうひとつの目的で、それには、サポーティング・インダストリーが栄える環境にしてやらなくてはなりません。外国人のためのメディカル・サービス、教育サービスが、容易に手に入るようすることなどです。

どこが本当に新しいのか

直接投資の呼び込みや規制の改革は、ちっとも新しい話ではないなどと決めつけないでいただきたいと思います。メニューは同じに見えても、実行者が違います。国家戦略特区は、私、すなわち首相の直轄事業です。私自身がもてる政治資本を進んで投下し、いわば、リスクを取ろうというのです。

ひたすら成長を図るうえで、女性の労働参加、経営参加が、ラグジュアリーでなくネセシティーであることは説明を要しません。日本は女性の力を使う面であまりにも遅れています。縮小していく労働力人口を補うため女性の活用は、シニア世代の再活用と並んでこれまたTINAです。

しかし女性が働きやすい職場環境を整えて行く中で、サービス産業やホワイトカラー職種の労働生産性を伸ばしたのが、例えば米国の経験でした。これに日本は急いで追い付かなければならないのです。

そうすることも、成長に欠かせない触媒を生むことになるでしょう。保育施設のウエイティングリストを、早急に無くしてしまうことから取り組みを始めようとしています。

とこんなふうに、何もかも、いっせいにやらなくてはならないのです。その切迫感こそは、第三の矢を支える私たちの覚悟です。

遅々とした歩みしか続けていないように見えて、何年か経つと驚くほど変わっている。それが日本だと、言われることがあります。デフレの不況にあえいだ20年間においてすら、東京のスカイラインは大きく変貌しました。東京駅に降り立った人は、20年前に比べ景色が一変していることに驚くでしょう。

日本を強くていい国に、世界の公共財を進んで守り、平和と安定に誰より貢献することができる国とし続けていくために、いま、私たちは努力を始めようとしています。20年たったら、こんなに変わったと、もっと驚いてもらわなくてはなりません。

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