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この冬もオオワシたちは苦しまなければならないの?

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HALIAEETUS PELAGICUS
鉛中毒にかかりもがくオオワシ=北海道釧路市、猛禽類医学研究所提供 | Institute for Raptor Biomedicine Japan
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冬が近づき、今年も北海道にオオワシなどの猛禽類がやってくる季節になった。ただそのなかには北海道で苦しみ、命を落とすオオワシやオジロワシが出るであろうことを思うと、冬の訪れが一層さみしさを増す。

冬の北海道でオオワシなどの猛禽類が、鉛中毒で死ぬ例が後を絶たない。原因は狩猟に使われる鉛弾だとわかったのは、もう15年以上も前のこと。少しずつ規制が強められているが、その被害は今もなくならない。

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猛禽類医学研究所提供

オオワシたちが鉛中毒になる原因は、狩猟に使われる鉛弾だ。オオワシが撃たれるわけではない。鉛の弾で撃たれて死んだエゾシカの肉を食べ、いっしょに鉛の弾を飲み込むことで鉛中毒になる。

北海道釧路市の環境省釧路湿原野生生物保護センターには昨シーズンも鉛中毒症状を起こしたオオワシなどの猛禽類が運び込まれていた。

2015年4月9日には札幌市内でオジロワシの鉛中毒が発生。呼吸困難を訴えながら同日死んだ。その前、2月9日に発見されたオオワシも必死の治療活動が行われたが、翌日死に至った。胃の中から見つかったのは鉛製の銃弾だった。

治療に当たる獣医師の齊藤慶輔さんは「またか」と、なくならない鉛中毒死に悩む。

急性鉛中毒で運ばれるオオワシやオジロワシの多くは、呼吸困難を起こし、くちばしを広げてもがく。時折奇声を発し、羽毛には緑色の下痢が付着していることも多い。高濃度鉛中毒と診断されると自然回復は見込めない。治療をしても死に至るケースも多いという。

昨シーズン(2014年―15年)同センターで確認された鉛中毒はオオワシで2羽、オジロワシが2羽だった。オオワシのうちの1羽が死体で収容され、残り3羽が収容後12時間以内に死んだ。このほかクマタカ1羽で高濃度鉛汚染が確認され、治療により野生復帰した。

野生の猛禽類は北海道の広大な森の中を広く行動している。鉛中毒にかかったとしても、人間に保護され治療につながることは奇跡的な確率だ。発見される例は「まさに氷山の一角と考えるべきでしょう」と齊藤さん。

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銅弾(左)と鉛弾(右) 撮影今井尚

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オオワシのレントゲン写真を見る齊藤獣医師 撮影今井尚

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飲み込まれた銃弾の影がレントゲンに写る 撮影今井尚

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雪に覆われた北海道釧路市の森 撮影今井尚

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野生復帰を目指し保護されるオジロワシ(上)とオオワシ(下)撮影今井尚

今年2月、私は北海道釧路市の地元猟友会の猟師とともに、森へ向かった。狙うのはエゾシカだ。

市街地から4輪駆動の軽トラックに乗って2時間ほどの山の中。数百メートル離れた川の対岸に1頭の雄ジカを見つけた。猟師は素早く藪の中に身を伏せ、十分狙いを定めると、すぐに発射した。

ダーン!という鋭く乾いた銃声が周囲の谷に響いた。その瞬間、シカは森の中で音も立てずに静かに倒れた。

近づいてみると、弾はシカの頭部に命中していた。

私はシカを撃つところを見たのは初めてだった。本能的に「かわいそう」そう思った。だが狙いが外れ、傷を負っただけで逃げてしまういわゆる「半矢」状態になり、森の中で苦しみながら死ぬよりは、殺すのであれば一瞬で仕留めることが猟師の責任だと彼はいう。

そのためには頭部の直径10センチにも満たない場所を狙うのだという。そこを確実に撃つには、高い技術と、道具の精度が必要となる。この猟師が使っていたのは、銅製の弾だ。

銅弾は「精度が低い」「威力が弱い」「銃を痛める」。さまざまなことが言われる。

だがこの猟師は「銅弾でまったく問題ありません。精度も今は十分に上がり、鉛弾にくらべてまったく遜色はありません。鉛の弾は使う必要がまったくないのだから、すぐに廃止すべきです」と話す。

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エゾシカ 撮影今井尚

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エゾシカを狙う猟師 撮影今井尚

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保護された鳥たちのようすを眺め、声をかける齊藤医師 撮影今井尚

「これは北海道だけの問題ではない。本州でも猛禽類に被害が出ていることは十分に考えられます。日本全国で鉛の弾を禁止にするしかない」齊藤さんはそう考えている。

北海道ではクマタカからも鉛中毒が複数確認されているが、この種は本州以南にも広く分布しているため、本州でも同様の問題が起きていることが推察される。

「狩猟における鉛弾(ライフル弾、散弾)の使用禁止をいますぐ、日本全国で。」

齊藤さんの訴えに共鳴した滝川クリステルさんは、代表理事を務める一般社団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルを通じ、インターネット上の署名サイト(change.org)で10万人を目標とした署名活動を続けている。12月21日現在、約4万人が「署名」した。

今年11月には銀座・三越で「生物多様性を考える1週間」が開かれ、齊藤さんと滝川さんは直接問題を訴えた。動物の保護と福祉に取り組む滝川さんは、本州以南で今も大量に使われ続ける鉛弾のリスクを指摘する。

10万人という高い目標を設定している背景には、キャンペーンを通じて人々にこの問題を知ってほしいという願いがある。昔から言われ続けてきた問題。でも変わらない問題。いつまでも目をそむけていてはいられないと思う。



この記事は、朝日小学生新聞に掲載された記事を元に大幅加筆修正しました。

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