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40代のベテランより「20代新人アーティスト」の方が怪我が多い理由

2015年06月13日 00時38分 JST | 更新 2015年06月13日 00時38分 JST

サーカスの世界には怪我がつきもの。いくら注意していても、誰しも一度は怪我します。

自分の出演するラヌーバには、20代から40代まで幅広いアーティストが出演しています。日々のショーで怪我をするアーテイストは後を絶ちません。

しかしよく見てみると、怪我をしているのは殆どが若手。20代前半やデビューしたばかりのアーティストばかりです。かく言う自分も最初に怪我をしたのは27歳の時。半月板損傷で手術を受けました。

身体を使ったパフォーマンスを日々繰り返すシルクドソレイユ。しばしば知人が身体を心配して「40代になったら大変だよ!」と諭されます。確かに年齢を重ねる程に怪我が増そうなモノですが、実際にはその反対なのです。

ではなぜ、体力が低下すると考えられる40代よりも20代の方が怪我が多いのでしょうか。ココには大きく3つの理由があると思うのです。

1.40代は本番の経験が豊富である

40代を越えるベテランになると、ショー経験10年以上が殆ど。この経験値こそが怪我を防ぐ1つ目のポイントです。

アーティストの9割以上がショー中のアクシデント、もしくは蓄積された疲労から怪我を起こします。不思議とリハーサルや練習中に怪我をする人はほとんど居ません。

いくらリハーサルを重ねてもショー本番は全くの別物。大音量で流れる音楽、目が眩みそうな照明、客席からの歓声、本番でしか学べにない経験値がここにあります。

ベテランのアーティストは本番の怖さと危険性をよく知っています。大量のアドレナリンが放出され多少の痛みは感じません。普段より力が入り、驚くほどジャンプや宙返りは高くなります。

これが危険なんです。否応無しに、ステージでは普段自分が思っている以上の力を発揮してしまうモノ。この状態を冷静に捉えられないうちは、突発的な怪我や無意識のうちのダメージを蓄積させることになるのです。

2.25歳は身体の曲がり角である

膝の故障でリハビリをしている時、フィジオ*1から興味深い話を聞きました。

運動を続けている人にとって、25歳は身体の曲がり角なのだそうです。幼少から競技を続けている人は身体のケアや補強運動も心得ています。しかし25歳前後を境に、これらの心得だけでは不十分になります。

筋力の低下、回復の遅延、身体のあらゆる部位の痛み。曲がり角の前後では丸っきり身体への影響が変わってしまうのです。

大抵の人はこのタイミングで怪我をします。突発的なモノに限らず、体力の低下に伴う蓄積ダメージが怪我を引き起こすのです。とくに膝、肩、腰は多くのアーティストが故障します。

20代のアーティストにとって、デビュー直後はちょうど身体の曲がり角の時期。ゆえに必然的に怪我が増えてしまうのです。

3.40代は休むタイミングを熟知している

若さには勢いがあります。内部でもデビューしてから1ヶ月はハネムーンと呼ばれ、全てが新鮮かつ刺激的な毎日です。ところが1ヶ月を過ぎた頃にはショーに慣れ、ハネムーン気分も収束していきます。

すると次第に練習しなければという不安が襲ってきます。とくに競技出身のアーティストは練習量を減らそうとせず、現役選手のままの練習をやりがち。いくらショーに出ていても、心の何処かに競技力を落としたくないという思いがあるですよね。

ここに週10回のショーが重なり、怪我のリスクを増やしてしまうのです。

一方、40代のベテランアーティストはこの辺を熟知しています。必要以上の練習はしません。どのラインに行けば不安を拭えるかを知っています。

さらに身体の危険信号やサインにも敏感。ケアを続けても時に身体が痛むことがあります。その絶妙なタイミングを逃さずに休むことができるのです。

無理をして1ヶ月を棒に振るより、タイミングを見て1日休む方が良い。彼らにはこの当たり前な理屈が、痛いほど身に染みているのでうす。

まとめ

サーカスは極限まで身体を動かす仕事です。年齢と共に衰える体力との戦いでもあります。しかし若ければ全て良いというワケではありません。40代に入っても第一線で活躍するアーティストは、熟練の技術と知恵で20代の若者に負けないオーラを放ちます。

身体を動かす仕事とはいえ、一概に年齢で判断するは無意味なのかもしれません。

(2015年6月12日「なわとび1本で何でもできるのだ」より転載)