創業180年超老舗石材屋から生まれた新商品が、産業機械の現場で大活躍

振動を吸収し、地震による倒壊を防ぐという免震ゲル、現在全国160社(309店舗)が代理店として取り扱いを行い、石材地震対策業界ではトップシェアとなっている。

日本の企業の99%は中小企業、と言われる一方、ここ最近は年間10万社のペースで中小企業が急速に減少している。日本の地域経済の足腰である地場産業や伝統産業がいかに、新たな展開を通じた活性化を実現していくのか。一見衰退産業とも思われる、石材加工業。創業180年を越え老舗石材店から生まれた新たな事業展開に注目してみる。

愛知県岡崎市は、伝統なものづくり産業が盛んな街。八丁味噌や和ろうそくや三河花火など、創業100年を越える企業は200社前後を数える、人口あたりの老舗事業者数も指折り。

そんな中、石材業は茨城・真壁、香川県・庵治と共に、日本三大産地の一つとして栄えてきた地場産業だ。良質な石材が取れる中で盛んになってきた。現在もブランド石の産地として、地盤産業として根付いている。

岡崎石工品の始まりは室町時代後期に遡り、その後、安土桃山時代には、当時の岡崎城主が、城下町の整備のため河内、和泉の石工を招き、石垣や堀を造らせた際、この優れた技術を持った石工たちがそのまま住み移り、その技術技法に磨きをかけ春日型灯籠、六角雪見型等岡崎石工品の原型を作ったとされています。石材加工に適する優れた花崗石が近くで採取できたこともあり、19世紀の初めに29軒だった石屋は、市の中心部にあたる位置に「石屋町」を形成するなどして、19世紀の終わりには約50軒に増え、戦前、最盛期には350軒を数える程の隆盛をきわめました。(岡崎市役所ホーム・ページより

一方、景気の交代やライフスタイルの変化により、石材の販売状況は降下の一途だ。墓石や寺社関連に主に用いられる花崗岩の減少幅は大きい。

そんな中、杉田石材店(創業187年)は、石灯籠を中心とした地域でも有数の石材店だ。杉田規久男氏が注目したのは、石灯籠や墓石といった商品の、地震への弱さ。

そこで、新会社・株式会社安震 を立上げ独立後、石灯籠や墓石が地震時に倒壊のおそれがある、ということでウレタン製造会社など連携し免震ゲルを開発。本業のことだけを考えれば、倒壊などの結果破損し、新たな受注などにつながれば良いのかもしれないが、顧客や祀られるご先祖のことを思えばこそ、と一念発起されたとのこと。

振動を吸収し、地震による倒壊を防ぐというこのゲル、現在全国160社(309店舗)が代理店として取り扱いを行い、石材地震対策業界ではトップシェアとなっている。同社によると、全国12万基以上の墓石・石灯籠で利用されており、清水寺や比叡山延暦寺などにも導入されているとのこと。

そして、安震にとって大きな転機が訪れたのは、2011年の東日本大震災。こうした中で、免震ゲルの導入実績を紹介するメディア記事をみた飲料メーカーの問い合わせをうけ、墓石・石灯籠の免震技術を応用し、産業用機械の免震装置としての商品開発が始まったんだそう。

免震ゲルをベースにした、固定器具の開発に1年以上の時間を投入。そうして生まれた「安震アジャスター」は、大学や公的機関での振動実証実験を繰り返して、高い免震効果が確認された上で2013年に市場投入された。

必ずしも産業用機械の震災対策は進んでおらず、東日本大震災では多くの工場が被災し、多額の損失を産んでいる。

これまでの産業機械の固定は、地面にアンカーボルトを打ち込み、固定するという方法が一般的だった。一方、機械の入れ替え時などに打ち替え工事が発生し、工場床に穴を開けねばならず、粉塵の発生などが食品工場や精密機器を扱う現場では、敬遠されている中で、同社商品は産業機械の下に設置・固定するのみという手軽さが評価されているとのこと。

自身など非常時に事業継続を目指すために策定する、BCP(事業継続計画)の広がりも背景に実際に、大手企業を中心に次々とこの「安震アジャスター」の問い合わせや採用決定が進んでいるという。

同社の試算によると、従業員120名/年商20億円程度の飲料工場の生産設備への「安震アジャスター」設置コストは約100万。一方、東日本大震災と同様の大規模地震発生時の被害想定額は約16億円(機械修理・買い換え、操業・取引停止損害など)となるという。

墓石製造から、墓石の倒壊予防ゲル剤への応用、そして底から産業用機械への展開。

墓石という重いものを倒壊から守る吸振性を、異業種異分野に展開することで大きな市場に進出したというこの取組み。江戸時代から続く老舗石材店から生まれた「気付き」の応用が、いまでは大手メーカーなどに多数採用される新規事業として注目を集め、地震大国・日本で求められるなくてはならぬ商材となっている。

顧客の細かなニーズに応える商品づくり。

そして真のセールスポイントを活かした、柔軟な新分野進出がこの取組みからよみ解ける。

ではでは。

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