発車メロディの著作権に関する真相

デジタルの時代になり、音楽との接し方、課金の方法も多種多様に変化を続ける中、作った人に使われた分が完全に支払われることは困難なことだとは思う。それでも…

2017年の2月のことだが、私は以下のようなつぶやきをツイッターにした。

〈JASRACてホントに酷くてさ、電車の発車メロディ作った時も僕らは著作権者に確認取ってJASRACに使用料払うのに、そこから作曲者には払ってないんだ。理由は「一小節なら支払わない」。でも取る分は取るらしい。権利者を守るというよりも、自分らの懐を肥やす団体になり下がっていまいか〉

〈僕は譜面読めないので小節の数は適当に書きましたが(四かな)、後日ミュージシャンに会った時に

「僅かでしょうけどおカネ入りましたか?」

「いや、それがね...」

という話だったので、そうなんでしょう〉

少し解説すると、発車メロディに起用する楽曲で、著作権使用料が発生するものに関しては、使用者(この場合電鉄会社)がJASRACに使用料を支払う。

ちなみに、発車メロディを企画した広告会社と音楽制作会社は、JASRACの他に、作曲者にも許可をもらう。著作権上、音楽の使用が認められているとしても、作曲者が「イヤだ」と言えば、著作人格権にかかわるため、それを使うわけにはいかないからだ。

もっと言えば、作詞作曲をしていなかったとしても、その歌を歌った歌手の方にも確認をするのが通例だ。

発車メロディに歌詞はなく、原盤(つまりCDや音声データで販売されている楽曲のオリジナル版)を使用するわけでもないので、歌い手には権利上は無関係なのだが、その曲は、その人の歌唱によって認知されているので、「そんな場所で使われるのは、私のイメージに合わない」とでも言われたならもう仕方ないのだ。

音楽教室は著作権使用料をJASRACに支払うべきなのか、という議論が喧しい頃で、私は私が直接聞いたことを基に、疑問に思ったことを書き込んだのであった。

すると、2万を越えるリツイートがされ、先般、ヤマハ音楽教室がJASRACを提訴したことで再び話題となり、リツイートは現在2.7万に達している。

そんな中、毎回あるように匿名のツイッター利用者からクソリプがやって来た。

曰く、「ツイート内容が間違っていると判明しても削除しない人ってどういうポリシーなんだろう。間違いを認めていないのか、間違いをあえて残すことが責任を取ることだと思っているのか、バズッたから消すのがもったいないのか。もしくは間違いと判明したことを知らないだけなのか」。

検索してみると「ねとらぼ」というサイトに「発車メロディの著作権料は著作権者に分配されない? Twitterで広がるウワサ、真偽をJASRACに聞いた」という記事があった。

〈JASRACの担当によると「分配は間違いなくある」と明言〉と記事にはある。さらに〈この場合の著作権者への料金分配は年に1度となっているため、場合によっては"著作権料が分配されていない"と勘違いする可能性があるそうです〉ということだ。

私は私で、音楽家に確認してみた。すると、私が全面的に間違っているわけでもないことがわかったので、ツイートも消さないのだ(自分への返信として加筆をした)。

「1年以上すぎてもなにも支払いはない」が、彼らサイドからの答えだ。

「実に不条理です」と彼は言う。

音楽家の所属事務所からJASRACに問い合わせたところ、「契約上、発車メロディは駅という施設でのBGMという扱いになっていて、その地域での割合に応じて分配される」というのが回答だそうだ。

つまり、サンプリング調査から得られた統計によって分配率が決められるため、BGMとして今多く流れているであろう、売れているアーティストには多く支払われるが、その発車メロディとなった曲の作曲家には必ずしも支払われない、というおかしなことになっているのだ。

だから、JASRAC担当者の「分配は間違いなくある」というのは、「しかし、作曲者本人に支払われているとは限らない」ということだ。そして、事実、支払われていないのである。

ウソはついていないが、本当のことは答えていないという詭弁である。

私は数年前に立ち話で、使用部分が短いから支払われないらしいと聞き、それを何気なくツイッターに書いたのだが、理由の部分は間違っていたようだ。図らずも私が広めたかたちになり申し訳ない。

それでも、本人に支払われていないという、私にとっての衝撃の事実は変わらない。

その点に関しては今でも「JASRACって酷い」と思っているし、〈JASRACに使用料払うのに、そこから作曲者には払ってない〉は彼については事実だ。

私個人としては、BGMのような扱いではなく、その特定可能な作曲家に印税が入る仕組みの方が健全だと考える。

そして、ここを強調したいが、私は「JASRACはいらない。潰れてしまえ」などとは思っていない。電通もそう、東芝もそう、森友学園もそうだったが、何か過ちや不正が露見した組織が、丸ごと「潰れてしまえばいい」などとは思わない。

音楽や映画や文章など、無形のものの制作者=権利者を守る仕組みは欠かせないものだ。音楽とは違うが、著作から印税を得ることは、私自身の生活にとっては大切なのでそれは痛切に思う。

「お前なんかいらない」に関しては、どちらかと言えば、私は「音楽の違法ダウンロードとかするやつら」に対してそのように思う。

私が指摘したいのはただ一点。「JASRACは徴収したおカネを、ちゃんと権利者に届けてくれ」だ。

デジタルの時代になり、音楽との接し方、課金の方法も多種多様に変化を続ける中、作った人に使われた分が完全にキッチリと支払われることは困難なことだとは思う。不可能と言っていいかもしれない。

それでも、JASRACには徴収と同じくらい熱心に、それこそデジタル技術を駆使するなどして、確かな分配の確立にも力を注いでほしいと望む。その点のアンバランスさが批判を生んでいる一因だろう。

少なくとも、電車の発車メロディに関しては、なんら難しいことはない。駅のプラットフォームの面積を基に算出してJASRACが請求した使用料から、手数料を差っ引いて作曲家にまっすぐ支払うだけだ。

音楽家自身は最後にこのように話した。

「(JASRACの収入に)大きく貢献しているヒットメイカーにばかりおカネが流れて、もっと小さな人たち、夢を持ってミュージシャンを目指す人や売れない人たちには正当な見返りがない。これでは富める者がますます富むだけではないか」

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