「日本の借金1000兆円はやっぱりウソでした」って本当?財政破綻の「最後の決め手」から考える

「『日本の借金1000兆円』はやっぱりウソでした」という記事について、少し違和感があったのと、何人かの方から問い合わせがあったので少し何か書こうかと思います。

こんばんは、おときた駿@ブロガー都議会議員(北区選出)です。

今日で都庁も仕事納め。会派控室で残務処理と大掃除に勤しんでいましたが、ネット上ではこんな記事が大きく注目されていました。

「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした~それどころか...なんと2016年、財政再建は実質完了してしまう!

みんなの党の政治塾時代から薫陶を受けた高橋洋一先生のコラムで、彼から学ぶべき点は非常に多いのですが、こちらには少し違和感があったのと、何人かの方から問い合わせがあったので少し何か書こうかと思います。

「日本はいつ、財政破綻をするのか?」

「そもそも、本当にヤバイのか?」

これは政治家をやっていれば、必ず直面するテーマです。

まず大前提として私が重きを置くのは

「経済・財政は、『ヤバイ!』と感じた人が多数派になった瞬間に破綻する

という事実です。

本当にヤバイかどうかは関係なく、多くの人が破綻すると思った瞬間に、その国家財政は破綻へとまっしぐらに突き進みます。株式会社も同じですよね。

本当に潰れるかどうかはわからないけど、「あの会社、潰れるらしいから株を売っておいたほうがいいよ!」なんて評判が立って株主が一斉に売り始めると、健全に運営されていた会社でも本当に潰れてしまいます

「国債」という形で借金を重ねている国家も同様です。

その国家がヤバイと思われれば、一気に国債が売られて価値は暴落し、金利が上昇して財政破綻はあっという間に目前に迫ります。

誰がいつ、「ヤバイ!」と言い始めて、いつそれが周囲に伝播していくかは誰にもわかりません。

もちろん無借金経営している企業や国家は別ですが、「事実ではなく、感情によって破綻するか否かが決定する」ということだけは、敢然たる事実と言えます。

以上が前提です。

さて上記コラムの主張を簡単にまとめると、以下の2つです。

1.巨額の政府資産があるので、借金1000兆円というのは大ウソ

2.日銀と政府のバランスシートを連結すれば、国債(借金)は近い将来ゼロになる

というものです。

まず一番目の指摘については、正しい部分もあるとは思います。

これに対して財務省は、「資産と言っても、売れないものばかりなんです」という理論を展開しています。

参考(財務省HPより):

日本の政府は借金が多い一方で資産もあり、資産を売れば借金の返済は容易だという説もありますが、どのように考えていますか?

それでは高橋氏の言うように、資産は売却可能なものばかりであると仮定します。

それでも、オフィスや工場を売ろうと思えばそれは売れるだろうけど、すべてがなくなってしまったら普通は会社が立ち行かなくなるのと一緒で、それが本当の意味で「売っても大丈夫」なのかどうかは精査が必要です。

また物理的には売れる金融資産でも、高度に政治的な事情により絶対売ることができないものも存在します。

アメリカ国債とか、アメリカ国債とか...。

加えて国家財政の場合、前述の「ヤバイという感情」が見過ごせません。

仮に借金返済のために100兆円単位で資産の整理を始めれば、

「え、やっぱり日本の財政って、相当に悪いんじゃ...?」

と懸念する人たちを急増させ、それが財政破綻のトリガーを引くことにもなりかねません。

以上の観点から、一概に「資産があるから大丈夫!」と言い切るには懸念が残ります。

二点目の日銀の件は、少々話しが複雑です。

ものすごい簡単に言うと、日銀と政府を一体のものだとみなして、政府が発行する国債の日銀引き受けを実行し続ければ...国債を発行して借金をするのは政府でも、それを買い取って資産にするのは日銀なんだから、差し引きゼロ!

それどころか有利子の国債から無利子の日銀券に転換する際に差益(シニョリッジ)が発生するのだから、これを続けていれば国債の総額すら減らしていくことが可能になるのだっ!

...という夢の様な錬金術が可能になるという理論ですね。

すごい、中央銀行制度を持っている近代国家すごい!!

ところが勿論、このやり方には限界があります。

高橋氏も指摘するように、政府が国債を発行して日銀券(紙幣)が増えれば、貨幣供給量が増えて円の価値が下がる=インフレになる可能性があります。

高橋氏は、まだまだインフレになる気配はないのだから大丈夫!と断言しますが、この点に警鐘を鳴らす経済学者は数多く存在しているのが実情です。

インフレというのは(恐慌や財政破綻と同様に)国民の経済感情に左右され、いつ発生してどれだけの勢いで突き進むかわからず、一度発生してしまうとそれを「退治」することはデフレ以上に難しいと言われています。

だからこそこれまで日銀が、「インフレ」こそ最も恐るべき敵だと想定し、量的緩和に消極的な姿勢を貫いてきたのです。

で、日本でインフレが発生した瞬間に恐らく、ドミノ式に国際世論は「日本の財政ヤバイ!」論に傾いていくでしょう。

この感情の連鎖は非常に厄介かつ、極めて回避しづらいものと言えます。

また、日本が自国の都合で国際貨幣である円を乱発すると、行き場を失った金融投資が発展途上国に雪崩れ込み、バブルや恐慌を引き起こすリスクもあります。

上述の点から二点目の政策にも、極めて重大なリスクが存在すると言えるでしょう。

以上、基本的には日本の財政はそれなりの危機的状況にあると考える私の立場から、財政政策についてコメントさせていただきました。

ただ高橋氏も最終章で、

>いずれにしても、政府と日銀を連結したバランスシートというストック面、来年度の国債発行計画から見たフロー面で、ともに日本の財政は、財務省やそのポチになっているマスコミ・学者が言うほどには悪くないことがわかるだろう。

と触れているように、借金が200兆円であれ1000兆円であれ、単年度の収支がマイナスで返すアテのない状況はいかんともしがたいものですし、年金や社会保障などの積立不足による「隠れ借金」への懸念も指摘されています。

「経済・財政は、『ヤバイ!』と感じた人が多数派になった瞬間に破綻する

という観点からは、まだまだ大丈夫!と言い続けることも大切ですが、

本当にヤバくなる前に是正することが本質的な解決と言えます。

経済学者の主張も千差万別、残念ながら「正しい」答えなどは存在しません。

高橋洋一先生と反対の財政見解に触れたい方は、同じく財務省出身の経済学者、小黒一正先生の本をおすすめします。

財政危機の深層―増税・年金・赤字国債を問う

緊縮財政なのか、金融緩和なのか。

国際情勢や国内世論のバランスを見ながら、こうした政策決定を行っていくのが政治家の役割なのです。

何かのご参考になれば幸いです。

それでは、また明日。

(2015年12月28日 「おときた駿公式ブログ」より転載)

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