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男性がターゲット 表面化しにくい痴漢被害の実態

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取材・執筆・撮影 : 靍原なつみ  イラスト : 角野雅美

 「実はこの前、電車で痴漢に遭ったんだ。男なのに痴漢に遭うなんて、どっか変なのかな......」。
 2012年の春、友人は重い口を開いた。彼は女性と間違われるような髪型も服装もしていない。今も時々、満員電車に乗るとあのときの怖さを思い出す、と言う。男性が痴漢被害に遭い、誰にも話せずトラウマを抱えるケースがある。「赤ん坊から成人男性まで、どんなタイプの人も性暴力にさらされうる」と、男性サバイバー(性被害者)自助グループの男性は警戒を呼び掛ける。

2度被害に遭った男性

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 都内で働くショウさん(仮名・23)は2度痴漢に遭った。
 1度目は6,7年前、田園都市線の車内で起きた。午後5時頃、渋谷駅で乗車したショウさんは、座席の端に背を付け、ドアと垂直に立った。耳にイヤホンを付け、音楽を聞く。彼の前には40代くらいの女性が立っていた。
 電車が動くと、女性が買い物袋を何度か交互に持ち替えるのが見えた。数分後、駅に到着する揺れに合わせて、買い物袋を持つ女性の手がショウさんの股間に当たるようになる。初めは「ぶつかっただけ」と思っていたが、2、3度続くにつれ不信感を持つ。女性との距離もずいぶん縮まっていた。気味が悪くなったが、あからさまに横を向くのも気がひけ、さりげなく腕を立てて防備した。目的地につくまでに、4度触れられた。
 「キモチワルと思ったけど、ほんとに痴漢なのか確信を持てなかった」。
 ショウさんは、気味の悪さをひきずったまま帰路についた。

 2度目は大学4年生の4月、就職活動のため面接会場へ向かう車内で起きた。午前8時台の新宿行き小田急線は満員で、ドアとドアの間で身動きが取れなかった。
 新宿に近付いたとき、40代くらいの男性が向かい合ってきた。スーツを着ていて、ワイシャツは薄ピンク。通勤鞄を持った男性の手がショウさんの太ももに押し付けられた状態だった。何度か体を引くが、気付けばまた手が当たっている。「満員だからしかたがない」。ショウさんは自分に言い聞かせた。
 しかし、揺れに合わせて手が股間に触れるようになると「もしかして」と悪寒が走った。2,3度軽く当たった後、寄りかかってきて何秒か触られた。ショウさんは男性をにらみつけようと顔を上げたが、顔を背けられてしまった。男性はその後すぐに代々木上原駅で降りた。

 この出来事は1年以上前のことだが、「ショックだったから今でも覚えている」とショウさんは語る。「男の人にモテるのかなあって自分が残念な感じ」。身体的な不快感だけでなく、性的存在として男性に扱われたことが精神的にこたえた。

男性によって対処法は様々

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 神奈川県で働くユウヤさん(仮名・23)は、痴漢に遭ったことを不快に思いながらも「ネタ」として笑い飛ばす。
 ユウヤさんは180cm近くの高身長で細身。彼が被害に遭ったのは高校生のときだ。京王井の頭線で渋谷駅から乗車した。吉祥寺へライブを見に行くところだった。ドアから入ってすぐ左側の座席端を背もたれに、アイポッドで音楽を聞いていた。ユウヤさんと垂直になる位置に、40代くらいの女性がドアの方を向いて立っていた。
 ドアが閉まってすぐ、女性はユウヤさんの股間に右掌を置いた。「ポンって置かれた感じだった」。わざわざ腕を回さなければ掌が当たることはない。ユウヤさんは痴漢だと確信した。「え、きも」と思うも、渋谷から下北沢までの約6分間、特に振り払うこともなくそのままの状態でいた。体を引いた気もするが、すぐ後ろが座席なので限度があった。嫌悪感はあったが、ユウヤさんはその間「面白いからネタにしよう」と考えていた。女性は下北沢駅で降りた。

 王さん(仮名・24)は都内の日本語学校に通う中国からの留学生だ。183cmの高身長で、がっちりした体形をしている。
 被害に遭ったのは昨年の12月頃。山手線で有楽町から日暮里に向かっていた。バイト帰りで、時間は夜12時と遅い。乗車したときは空いていたが、徐々に混み合ってきた。王さんは入ったドアの向かい側にある座席脇にもたれ、アイフォンで音楽を聞いていた。40歳くらいの男性が隣に立っていた。
 混雑するにつれ、男性の手が股間に触れるようになる。初めは混んでいるからだと思った。だが、10秒以上そのままだったので、右手で男性の手をはたいて払った。目を見ようとしたが合わせようとせず、男性はポーカーフェイスを保ったまま離れていった。
 「中国では女性もそこまで痴漢被害に遭わない。気が強いから痴漢をしようと思わないんじゃないかな」。ましてや、男がターゲットになるとは思わなかった。その場では気持ち悪かったが、警察に届ける気はまったくなかった。

 3人の風貌は異なるが、被害場所は入口付近の座席脇、被害状況はイヤホンで音楽を聞いているとき、と共通点が見られる。

誰でもターゲットになりうる痴漢被害

 「性被害に遭うのは男性も女性もLGBT(レズ、ゲイ、バイ・セクシャル、トランスジェンダーの総称)も関係ありません。被害の実態も回復プログラムもおおむね皆同じです」

 男性サバイバーの自助グループRANKAの世話役・玄野武人(くろのたけと)さんは強調した。「サバイバー」とは性被害者を意味する。森田ゆり『子どもへの性的虐待』(岩波書店、2008年)によると、フェミニズム運動が広がった1960年代中頃から、女性たちは自らの性暴力被害体験を語り始めた。体験を告白した被害者の勇気に敬意をこめて、「生存者」が語源の「サバイバー」という言葉が使われるようになった。男性サバイバーとは、男性の性被害者を指す。

 玄野さんは自身が3度性被害を受けている。2001年、男性サバイバーのためのHPを立ち上げた。集まった仲間とともに男性サバイバーのための自助グループを始め、現在にいたるまで10年以上続けている。当時、日本には男性サバイバーに対する相談機関や社会的支援がなく、本格的に立ち上げたのは恐らく玄野さんたちが最初だ。

 玄野さんはHPやメールマガジン、講演会、ミーティングを通じてさまざまな男性サバイバーに出会った。2000年から2005年の間に、10件ほど痴漢被害の相談を受けた。その中で、小学生のときに痴漢被害に遭った男性のケースを挙げる。「男も被害に遭うって教えてもらっていないから、固まってしまって何もできない。駅員や家族も誰も助けてくれなくて、トラウマになってしまった。女性の場合と変わりません」。

 シュンさん、ユウヤさん、王さんはそれぞれ体格も雰囲気も違う。「どのような男性が痴漢被害に遭うかは加害者の嗜好性によって決まりますから、被害者に特定の特徴はありません。赤ん坊から成人男性まで、どんなタイプの人も性暴力にさらされ得る」と玄野さんは警戒を呼び掛ける。「筋肉隆々の男性でも、被害に遭って怖くて声を出せなかったというケースもあります」。

基本は『No・Go・Tell』

 被害に遭ったときはどうすればいいのか。基本的には『No・Go・Tell』だという。

 「No」はやめるように言うなど拒絶すること、「Go」は車両を移動するなど逃げること、「Tell」は助けを求めることだ。「男性は女性以上に助けを求めにくいことがある。そういう意味で男性サバイバーが支援を求めることは、女性以上に勇気が必要になることがあります」と玄野さんは分析する。「男なのに声を出せなかった」「男なのに怯えてしまった」と、自分自身を責めてしまう被害者が多いそうだ。

 その場で助けを求められなくても、駅員や周囲の友人に話すことができて、しかも周囲の人々も被害を理解できることが望まれる。玄野さんは「話すと、男性の被害を認知する人が増える。被害実態を訴えることで、社会の制度も変わっていく。合意のない性的接触は、男女やLGBT問わず性暴力なのです」と指摘する。

※この記事は2013年秋学期の実習授業「調査報道の方法」において作成しました。

(2014年3月28日「Spork!」に掲載した記事の転載です)

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