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生まれてくる我が子には「脳」がないと知らされた。その日からの、夫婦の日記。

2014年10月25日 23時54分 JST | 更新 2014年12月23日 19時12分 JST
Lisa Stirling via Getty Images

「無脳症」を、ご存じですか?

 母親の子宮の中で胎児の脳が育たず、脳の一部または大部分が欠如してしまう原因不明の病気です。日本では1000人に1人が発症すると言われ、現段階で治療法はありません。発症した時点で、その胎児を待つ運命は死。母親のお腹から出た後、生き続けることはできません。

STORYS.JPに、無脳症の子をお腹に宿した夫婦のストーリーが投稿されました。彼らの下にやってきたその子は、これから泣くことも、喋ることも、立つこともない。そのあまりにも悲しい現実を知らされた日から、2人は何を想い、何を決断したのか。妻と夫2つの視点から紡がれた記録です。

今日はその冒頭部分を、紹介させてください。

「お腹の子は、無脳児でした。」~葛藤と感動に包まれた5日間の記録~

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「大事な話があるから、

電話に出られるようにしておいてね。」と、

妻のはなちゃんからLINEが入った。

昼休み。丁度、店内でチキンクリスプの包み紙を開けるところだった。

「そうかあ、本当にだめだったのか。」と心の中で深くため息をついた。

確かに、はなちゃんは病院に行く前から気にしていた。

「もうちょっとお腹大きくなってもいいころなのに。

ちゃんと育っているか心配。」

1か月くらい前から、何度かそう話していた。

でも、不安になるのは

心配性のはなちゃんにはよくあること。

正直あまり気にしてなかった。

正確には、気にしないようにしていた。

妻の7月7日

脳がないから、産まれても生きられない。

妊娠14週。いつも通り10:30に産婦人科へ。

血圧正常、体重900g増加。

よし。まだプラス1kgもいっていない。

「次からUSB持って来たら

赤ちゃんの映像とってあげられるからね。」

よし。次回は絶対持っていかなきゃ。

エコー始まる。

お。ピコピコ心臓動いてる!

一安心。

無言。

無言。

無言。

あれ?

一人目のそうたろうの時には、

「これが足で、これが手だよ。」

「これが顔ね。」

「今は○○cmだね。」と会話が普通にあったのに。

「あ、これ心臓ですよね?」

無視。

え?無視?

しかも首をかしげながら映像を見ている。

何か異常があったのかな。

だからこんなに無言なのかな。

そうしたら、

「ど、どう?最近はつわりはおさまってきたかなー?」

ギコチナイ棒読みで。

「全然まだなんですよ!先週末も吐いて、けっこう辛かったです。」

「そ、そうなんだー?風邪とかひいてない?」

「風邪?たぶんひいてないです。」

無言。

無言。

「家族はどう?風邪ひいてる人いない?」

「はい。誰もひいてないですよ。」

無言。

無言。

「上の子は、えーっとー、5歳になったのかな?」

「はい。」

「どう?上の子は風邪ひいてない?」

「?はい。別にひいてないです。」

無言。

どうしてこんなに、

周りに風邪をひいてる人がいないか聞くんだろう?

そこ重要なのかな?

かなり不安。

長すぎる。

エコーが長すぎる。

「はい。じゃーー......えーっと......。ね。

あとでね、先生の方からお話がありますので、

待合室の方でお待ちください。」

この意味深な言い方に、

「何かあったんですか?」

と、すごく聞きたかったけど、

聞いたら後悔する気がして、怖くて聞けなかった。

結局、いつもなら渡される

エコー写真をもらえないまま待合室へ。

待つこと1時間以上。

後から来た人たちがどんどん帰っていく。

もしかして、

わざと最後になるように回されてるのかな?と気がついた。

「半田さーん。」

やっと呼ばれて診察室へ行こうとしたら、

看護師さんが「今日は一人で来たのかな?」と聞いてきた。

絶対おかしい。この質問絶対におかしい。

心臓がバクバクしながら、診察室のドアを開けた。

室内は、たくさんのエコー写真が並んでいて、

先生と5人の看護師さんが小声で、

何か深刻そうに話し合っている。

何?この光景。

頭の中は真っ白。

心臓バクバクどころじゃない。

イスに座っても、誰も何も話してくれない。

やっと話してくれたと思ったら、

「今日は一人で来てる?誰か一緒に来てない?」

とまた確認される。

そうとう内容が深刻なのはよくわかった。

やっと先生がしゃべったと思ったら、

「ちょっと中から見たいから、

内診台の方あがってもらおうかな。」

「何かあるんですか?」

すごく震えた声で、やっと聞けた。

「うーん。ちょっとね。うん。

胎盤の位置を確認させてね。」

なんとなく怖くてエコー画面が見れない。

それよりも、

先生たちのヒソヒソ声が気になって仕方がなかった。

うーん。やっぱりどうのこうの。

ここがあーのこーの。

だからあーのこーの。

全然聞き取れないけど、かなり深刻気味。

内診が終わっても、

足がガクガク震えてパンツがうまくはけない。

また先生の前に座る。

「これね、今日のエコーなんだけど。」

心臓が痛い。

今から何か言われると思うだけで、

過呼吸になりそう。

「ここわかる?下が黒くなってるでしょ?

頭の下と、ここ背中なんだけど、

背中の下も黒くなってるでしょ。」

「はい。」

「これね、赤ちゃんむくんでるんだよね。」

全く知識がないせいで、会話の先が読み取れない。

「でね、ここ、頭の後頭部なんだけど。

体の大きさに比べて、

頭の大きさがちょっと小さいんだよね。

ていうのは、後頭部が成長してないのよ。」

「はい?」

「前回のエコーではね、

そんなふうには見えなかったんだけどね。

んーーー。まー、要は脳がないんだよね。」

「え?!」

「無脳児って言うんだけどね。

こういう事、稀にあるんだよね。

お母さんのお腹の中では生きられるんだけど、

脳がないから、産まれても生きられない。

今の段階での治療法っていうのは、何もないんだよね。」

お腹の中では生きられる。

でも、脳がないから、産まれても生きられない。

全然わからない。

全然整理できない。

「え。どうしたらいいんですか?」

「今妊娠14週だよね。

そうすると、妊娠12週以降の場合は、

普通のお産と同じ形で、

赤ちゃんを出すしかないんだよね。

中絶という事になっちゃうんだけど。」

「中絶?!」

「うーーーん。無脳児ってね、

脳がないだけで、体はほんと普通に育つんだよね。

目もちゃんとあるしね。

心臓もちゃんと動いてるから、

どうしても中絶という言い方になってしまうんだよね。

母体のリスクを考えて、

母体保護法で中期の中絶をしてもらうことになってしまうんだよね。」

先生はすごく申し訳なさそうに言った。

のちのち、ネットで調べた記事には、

" 一般的に、医者から

中絶を勧めることはほとんどない。

ただ、無脳症の場合だけ、

唯一医者が中絶を勧める病気である。

それ程、無脳症というのは、

絶望的な病気である。 " と書いてあった。

頭の中で整理を全く出来ていないし、

現実に心が追い付いてないし、

そもそも全く現状を理解できていない。

「じゃあ、奥で入院する日を決めてね。」

と別の部屋に。

一人でボーッと考える。

でも、何を考えたらいいのかわからなさすぎて、

結局何も考えずに座っていた。

受付に戻ると誰もいない。

ボーッと待って、お金払って、車に戻って、

すぐ夫のはんちゃんに電話をした。

声を聞いた瞬間に、号泣。

話さなきゃと思っても、

とりあえず、溜まってた涙が全部流れた......

――――――――――――――――――――

この後、夫婦は様々な葛藤と、一つの決断を迫られます。

本文中にもありますが、この病気は医師が中絶を勧める非常に数少ないケースです。生きられないと分かって生まれてくる命の意味とは何でしょうか。

出生前診断の発達により、ダウン症など胎児が持つ病気の診断が可能になりました。中絶に関するモラルが議論されている昨今、この命から、彼ら、そして私たちは何を受け取ることができるでしょうか。

最後に、夫が妻に送った言葉を、本文中から。

″事実を受け入れて、前に進むしかない。

ごめんね、ごめんねじゃ本人も浮かばれないし、

赤ちゃんも、ごめんなさいって思っちゃうよ。

本人が聞きたいのは、ごめんねより、

ありがとうじゃないの?

俺は会ったらありがとうって言いたいし、

よく頑張ったな、またな、

って言ってあげたい。″

【ストーリー全文】「お腹の子は、無脳児でした。」~葛藤と感動に包まれた5日間の記録~

(ストーリー紹介=STORYS.JP編集部・本間祥生)