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『お腹の子は、無脳児でした。』- 身が裂かれるような現実に直面した夫婦に「ありがとう」が増えた時

2015年07月20日 01時28分 JST | 更新 2016年07月17日 18時12分 JST

「命は尊いもの」

私たちはそう口にはするが、日々の日常でそれを意識することは少ない。

にわかには信じられない、想像を越えた悲惨なニュースが

連日画面映し出される現代社会。

そんな中でも、私たちの身の回りでは、日々新しい命が生まれ、育っていく。

誰にとっても、かけがえのない瞬間。

ここで紹介するある夫婦にとっても、そのはずだった。

無脳症を知っているだろうか?

母親の子宮の中で胎児の脳が育たず、脳の一部または大部分が欠如してしまう原因不明の病気である。日本では1000人に1人が発症すると言われ、現段階で治療法はない。発症した時点で、その胎児を待つ運命は死。母親のお腹から出た後、生き続けることはできない。

STORYS.JPに、以前、無脳症の子をお腹に宿した夫婦のストーリーが投稿された。彼らの下にやってきたその子は、これから泣くことも、喋ることも、立つこともない。そのあまりにも悲しい現実を知らされた日から、2人は何を想い、何を決断したのか。妻と夫2つの視点から紡がれた記録がここにある。

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「大事な話があるから、

電話に出られるようにしておいてね。」と、

妻のはなちゃんからLINEが入った。

昼休み。丁度、店内でチキンクリスプの包み紙を開けるところだった。

「そうかあ、本当にだめだったのか。」と心の中で深くため息をついた。

確かに、はなちゃんは病院に行く前から気にしていた。

「もうちょっとお腹大きくなってもいいころなのに。

ちゃんと育っているか心配。」

1か月くらい前から、何度かそう話していた。

でも、不安になるのは

心配性のはなちゃんにはよくあること。

正直あまり気にしてなかった。

正確には、気にしないようにしていた。

妻の7月7日 脳がないから、産まれても生きられない。

妊娠14週。いつも通り10:30に産婦人科へ。

血圧正常、体重900g増加。

よし。まだプラス1kgもいっていない。

「次からUSB持って来たら

赤ちゃんの映像とってあげられるからね。」

よし。次回は絶対持っていかなきゃ。

エコー始まる。

お。ピコピコ心臓動いてる!

一安心。

無言。

無言。

無言。

あれ?

一人目のそうたろうの時には、

「これが足で、これが手だよ。」

「これが顔ね。」

「今は○○cmだね。」と会話が普通にあったのに。

「あ、これ心臓ですよね?」

無視。

え?無視?

しかも首をかしげながら映像を見ている。

何か異常があったのかな。

だからこんなに無言なのかな。

そうしたら、

「ど、どう?最近はつわりはおさまってきたかなー?」

ギコチナイ棒読みで。

「全然まだなんですよ!先週末も吐いて、けっこう辛かったです。」

「そ、そうなんだー?風邪とかひいてない?」

「風邪?たぶんひいてないです。」

無言。

無言。

「家族はどう?風邪ひいてる人いない?」

「はい。誰もひいてないですよ。」

無言。

無言。

「上の子は、えーっとー、5歳になったのかな?」

「はい。」

「どう?上の子は風邪ひいてない?」

「?はい。別にひいてないです。」

無言。

どうしてこんなに、

周りに風邪をひいてる人がいないか聞くんだろう?

そこ重要なのかな?

かなり不安。

長すぎる。

エコーが長すぎる。

「はい。じゃーー......えーっと......。ね。

あとでね、先生の方からお話がありますので、

待合室の方でお待ちください。」

この意味深な言い方に、

「何かあったんですか?」

と、すごく聞きたかったけど、

聞いたら後悔する気がして、怖くて聞けなかった。

結局、いつもなら渡される

エコー写真をもらえないまま待合室へ。

待つこと1時間以上。

後から来た人たちがどんどん帰っていく。

もしかして、

わざと最後になるように回されてるのかな?と気がついた。

「半田さーん。」

やっと呼ばれて診察室へ行こうとしたら、

看護師さんが「今日は一人で来たのかな?」と聞いてきた。

絶対おかしい。この質問絶対におかしい。

心臓がバクバクしながら、診察室のドアを開けた。

室内は、たくさんのエコー写真が並んでいて、

先生と5人の看護師さんが小声で、

何か深刻そうに話し合っている。

何?この光景。

頭の中は真っ白。

心臓バクバクどころじゃない。

イスに座っても、誰も何も話してくれない。

やっと話してくれたと思ったら、

「今日は一人で来てる?誰か一緒に来てない?」

とまた確認される。

そうとう内容が深刻なのはよくわかった。

やっと先生がしゃべったと思ったら、

「ちょっと中から見たいから、

内診台の方あがってもらおうかな。」

「何かあるんですか?」

すごく震えた声で、やっと聞けた。

「うーん。ちょっとね。うん。

胎盤の位置を確認させてね。」

なんとなく怖くてエコー画面が見れない。

それよりも、

先生たちのヒソヒソ声が気になって仕方がなかった。

うーん。やっぱりどうのこうの。

ここがあーのこーの。

だからあーのこーの。

全然聞き取れないけど、かなり深刻気味。

内診が終わっても、

足がガクガク震えてパンツがうまくはけない。

また先生の前に座る。

「これね、今日のエコーなんだけど。」

心臓が痛い。

今から何か言われると思うだけで、

過呼吸になりそう。

「ここわかる?下が黒くなってるでしょ?

頭の下と、ここ背中なんだけど、

背中の下も黒くなってるでしょ。」

「はい。」

「これね、赤ちゃんむくんでるんだよね。」

全く知識がないせいで、会話の先が読み取れない。

「でね、ここ、頭の後頭部なんだけど。

体の大きさに比べて、

頭の大きさがちょっと小さいんだよね。

ていうのは、後頭部が成長してないのよ。」

「はい?」

「前回のエコーではね、

そんなふうには見えなかったんだけどね。

んーーー。まー、要は脳がないんだよね。」

「え?!」

「無脳児って言うんだけどね。

こういう事、稀にあるんだよね。

お母さんのお腹の中では生きられるんだけど、

脳がないから、産まれても生きられない。

今の段階での治療法っていうのは、何もないんだよね。」

お腹の中では生きられる。

でも、脳がないから、産まれても生きられない。

全然わからない。

全然整理できない。

「え。どうしたらいいんですか?」

「今妊娠14週だよね。

そうすると、妊娠12週以降の場合は、

普通のお産と同じ形で、

赤ちゃんを出すしかないんだよね。

中絶という事になっちゃうんだけど。」

「中絶?!」

「うーーーん。無脳児ってね、

脳がないだけで、体はほんと普通に育つんだよね。

目もちゃんとあるしね。

心臓もちゃんと動いてるから、

どうしても中絶という言い方になってしまうんだよね。

母体のリスクを考えて、

母体保護法で中期の中絶をしてもらうことになってしまうんだよね。」

先生はすごく申し訳なさそうに言った。

のちのち、ネットで調べた記事には、

" 一般的に、医者から

中絶を勧めることはほとんどない。

ただ、無脳症の場合だけ、

唯一医者が中絶を勧める病気である。

それ程、無脳症というのは、

絶望的な病気である。 " と書いてあった。

頭の中で整理を全く出来ていないし、

現実に心が追い付いてないし、

そもそも全く現状を理解できていない。

「じゃあ、奥で入院する日を決めてね。」

と別の部屋に。

一人でボーッと考える。

でも、何を考えたらいいのかわからなさすぎて、

結局何も考えずに座っていた。

受付に戻ると誰もいない。

ボーッと待って、お金払って、車に戻って、

すぐ夫のはんちゃんに電話をした。

声を聞いた瞬間に、号泣。

話さなきゃと思っても、

とりあえず、溜まってた涙が全部流れた......

【全文】『お腹の子は、無脳児でした。〜葛藤と感動に包まれた5日間の記録〜』

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ストーリーを綴った筆者の方(夫)は、投稿当時は、不幸のどん底だったと語ってる。

しかし、「妻に前を向いてもらわなければいけない」「この出来事をどこかに残さなければいけない」と思い、勇気を出してストーリーを綴られたという。

ストーリーが多くの方に読まれ、反響が大きくなるにつれ、彼らの心に変化が生まれた。100件を越える、寄せられたコメント・応援・涙の言葉の数々が彼らを支え、勇気づけたのである。

"今生きていることを大切にしようって思えました。人生で無駄なことはないと思います。

あなた方の経験が誰かを救っています。私もその1人です。"

"娘の誕生日、16回迎えて 16回思った事

『生まれてきてくれて ありがとう』

今 目の前にしてくれる事は、決して当たり前ではない という事

日々忘れず、感謝する気持ちを忘れないように・・・"

"6年前に流産、4年前に長男を出産し、1ヶ月前に次男を出産しました。長男を出産し、「生まれてきてくれてありがとう」という言葉と、わが親に対して「産んでくれてありがとう」という言葉を沢山言いましたが、改めて二人の息子に「生まれてきてくれて、元気に育ってくれてありがとう」と言う気持ちでいっぱいです。毎日、怒り、笑い、泣いていますが、この日常に感謝です。"

"感動とかそうい言葉じゃ、うまく表現できないけど、ただ涙がこぼれた。"

"私には今、1歳4ヶ月になる娘がいます。その命の尊さ、掛け替えの無さに改めて気付かさせていただきました。

そしてその命を必死に守りながら育てている妻にも、改めて感謝の気持ちが湧き上がってきました。

この話に出会えたことを感謝します。"

1つのストーリーを通して、

筆者夫婦と、ストーリーを読んだ人々の間に、『ありがとう』が増えていった。

メディアでは取り上げられない私たち一人一人の物語が集まるSTORYS.JP。

ヒット作『ビリギャル』もここから生まれた物語である。

インターネットが普及し、私たちは、より気軽に世界中の誰とでもつながれるようになった。

しかし、気軽に誰とでもつながれるネット世界の裏側で、まだまだ私たちが知らないリアルな世界の"人生"がたくさんある。

こうした物語を、もっと多くの方、同じような悩みや境遇を抱えている人に届けていくことは出来ないだろうか。

STORYS.JPは、『家族・命のはじまり。』をテーマに、5つの知られざる実話が掲載されたオムニバス雑誌の創刊に取りかかっている。

上で取り上げた夫婦の物語、

『お腹の子は、無脳児でした。〜葛藤と感動に包まれた5日間の記録〜』

も掲載されている本雑誌。詳しくは下記リンクに記載されている。

STORYS.JPオムニバス雑誌創刊 - 『いのちの始まり。家族の始まり。』

誰もが、家族・命というものの意味について、今一度真剣に向き合う社会になってほしい。

(文:STORYS.JP編集部・川延幸紀)