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言葉にできない想い、伝えます。僕の仕事は、ラブレター代筆屋。

2016年01月20日 22時54分 JST | 更新 2017年01月18日 19時12分 JST

文字を書く機会がめっきり減った。

そう感じている人は多いのではないだろうか。

仕事や大学のレポート等はほとんどパソコン。

友人とのやりとりはスマートフォンでSNSを使用。

そういうわけで、たまに文字を書く機会ができると

漢字が書けない、字もうまく書けないという弊害がでてきてしまう。

文字だけならまだしも、紙を前にペンを握ると、何を書いていいのか分からなくなることも少なくない。

検索エンジンで「代筆サービス」と入力すれば、たくさんの検索結果が表示される。履歴書から祝辞まで、ありとあらゆる文章や文字は、お金を出せば誰かが書いてくれる世の中だ。

ただ、代筆サービスの主な内容は、ある程度形式的なものが多い。

ビジネス文書や論文など、客観的に書く必要があるものが主である。

そんな中、ラブレターの代筆を仕事にしている人が居る。

人生の物語を投稿するサイト【STORYS.JP】に投稿された、

"ラブレター代筆屋"として日々を過ごす、ある男性のストーリーを紹介しよう。

ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。

■ラブレター代筆はじめました

「仕事」は楽しいものではない。

苦しくて大変で、時にちょっとだけ楽しいのが「仕事」というもの。

ちょうど1年ほど前、10年以上特に疑いを持たずにいたこの考え方に、ふと疑問を抱くようになった。

つらいことを歯を食いしばってやり続けることは尊く、楽しいこと・楽なことだけやるのは怠慢。

物心ついた時からそのような価値観で育ってきた35歳の男が、「あれ?誰がそう言ってたんだっけ?」とふと立ち止まることになる。

小学生の頃は、放課後に何をして遊ぶかということだけを考えて日々を過ごし、中学生になると女の子のことと高校受験のことを考えて日々を過ごす。高校生になると女の子のことと部活動のことを考える日々に変わり、大学生になるともはや何も考えない日々を過ごしていた。就職してからは仕事のことを考えて過ごし、20代の後半も仕事のこと。30歳の前半になると仕事のことと結婚のことを考えるようになった。

そして、30代中盤。

今まで見えなかったものが急に見えるようになった。

何だか蜃気楼のようにぼんやりとしているけれど、先の方に少し見えるの、あれ、「終着点」なんじゃない?

35歳になった途端、人生の終わりが視界に入るようになった。

70歳で亡くなると想定すると、ちょうど折り返し地点に来たことになる。でも、50歳中盤くらいになったら体力も衰えてくるだろうから、気力・体力が充実した状態で働けるのはあと20年か・・・。

20年!?

初日の出を20回見て、さくらを20回愛でて、海に20回飛び込んで、紅葉を20回眺め、紅白歌合戦を20回観たら終わりってこと・・・!?

歯をくいしばって我慢をしている場合なのだろうか?

"楽しい"ことをもっと追求しなくてはいけないのでは?

自分が好きなこと、やりたいことをやっちゃいけないんだっけ?

常識に従って生きると何がいいんだっけ?

悔いの残る人生を生きたとして、誰か謝ってくれるの?

ふと立ち止まった。

そして、始めた。

「話す」こと「書く」ことが好きなので、とにかくそれだけを仕事とすることにした。

本業は本業として続けつつ、パラレルキャリアという形で「デンシンワークス」という屋号で個人事業主として活動を開始。

経営資源である「ヒト・モノ・カネ」は何もない。見切り発車のお手本のような行動。

ちなみに、見切り発車を辞書で調べると<電車やバスが満員になったり発車時刻が来たりしたために、乗客の全部が乗りきらないうちに発車すること>とある。

見切り発車という言葉すらあてはまらないかもしれない。なぜなら、満員になどなっていないどころか一人もヒトは乗っていないし、発車時刻も来ていない。誰も発車をしてくれとも言っていない。

何はともあれ、僕は始めた。

事業内容としては、企業で人事をしていることもあり、学生さんの就職相談や、転職を検討されている方にアドバイスをする「就職・転職対策」と、プレゼンテーションの際の伝え方や振る舞いについて指導をする「プレゼンテーション指導」の2つを軸にすることにした。

ただ、これだけだと何だかつまらないのと、僕よりも優れた人など吐いて捨てるほどいるので、勝負にならない。それで、突発的に「ラブレター代筆」を加えた。依頼主に代わり、想いを寄せる人へ向けたラブレターの文面を考えるというものだ。

正直なところ、「ラブレター代筆」を選んだ明確な理由はない。

ラブレター代筆を仕事として掲げたらネタになりそうだな、というくらいの動機。

実際にラブレター代筆の仕事が来るなどと思っておらず、「就職・転職対策」と「プレゼンテーション指導」へ誘導するための客寄せパンダのような効果を期待していたに過ぎない。

何はともあれ、ホームページ創世記のような手作り感満載の自社サイトと、エクセルで作った稚拙な宣伝チラシのみを武器に、僕は個人としての活動を始めた。

『何かを始めるときの自分が、一番臆病で、そして一番勇敢だ』

吉田修一の小説に出てくる言葉を思い出していた。

■ラブレター代筆、初受注

活動を始めてから一ヶ月。何も仕事は来なかった。迷惑メールすら来なかった。

街中に立ってチラシを配ったり、笑われることを覚悟で友人・知人に宣伝をしたり(予想通り、もれなく嘲笑をされたけれど・・・)、PRツールとしてブログを開設してちょこちょと更新をしたりしてみたものの、どこからも誰からも仕事は来なかった。世の中から人が消えてしまったのではないかと思った。

価格が高いのかな?という安易な発想で、各サービスの価格をコロコロ変えたりもした。

「ラブレター代筆」ひとつをとっても、2,000円になったり、3,000円になったり、7,000円になったり、8,000円になったり、10,000円になったり、目まぐるしく変化をした。

個人としての活動を始める前、仕事をしながら大学院に通い、マーケティングの講義で価格戦略などというものを教わったりしたが、そんなものを意識している余裕はなかった。戦略は「戦い」を「省略」すると意味で戦略というらしいけれど、僕はとにかく戦いたかったので省略などしたくなかった。とにかく仕事がしたかった。

僕が生きている世界は実は空想で、目に見えている人たちは実際は存在しないのでは??

安いSF映画のような設定を本気で信じ始めていた時、とうとう仕事が舞い込んだ。

しかも、実際に仕事が来ることなど想像していなかったラブレター代筆の依頼だった。

待ち焦がれた初めての依頼メールを前に胸を高鳴らせていたのも束の間、僕は首をひねった。

メールに書かれている内容を理解することができなかったからだ。

文面はこちらで考えるので、文字だけ書いて頂きたいです。

このような内容だった。

文字だけ書く?

サイト上にそのような表現が記載をされていたのかなと思い見直してみたが、そのような記載は見当たらない。

そもそも、僕に文字の代筆をお願いする人がこの世の中に存在するなどと思っていなかった。

友人なら誰しもが知っていることだが、僕はひどいクセ字だ。いや、クセ字という言葉に逃げるのはよそう。単純に、とても字が汚い。

何かの手続きをした際に、書類に自分の名前を記載する必要があり、"小林"と自分の苗字を書いたところ、「山本さんですか?」と問われるくらい汚い。

道端に落ちていた携帯電話を警察に届けた際、拾い主として書類に署名を求められ、"小林"と書いたところ、「ゆっくりでいいからもっと丁寧に書いて」と言われたくらい汚い。

それよりも何よりも、5,000円も払って(結局、ラブレター代筆は5,000円に落ち着いた)文字の代筆だけ依頼をする意味がわからなかった。

書道家などに依頼をするのならまだしも、どこの馬の骨とも青二才ともひょうろく玉ともわからない僕にお願いをしてくる意味がわからなかった。

ご依頼頂きまして誠にありがとうございます。

ご確認なのですが、内容は○○様に考案頂き、私は頂戴した内容を手紙に書き写すだけでよろしいのでしょうか?

僕は返信をした。

やはりどうしても理解ができないので、あらためて確認をした。

すぐに返信が来た。

病気の影響で上手に字を書けないため、代わりに字を書いて欲しいのです。

そう綴られていた。

それ以上問うのは止め、僕は引き受けることにした。

しかしながら、文字を書くだけ、しかも僕の字で5,000円ではあまりにも法外な値段のため、1,000円で引き受けることにした。正直なところ、1,000円でも罪悪感があった。僕が1,000円を払って書かせてもらうくらいでちょうどよい気がしたが、とにもかくにも対価として1,000円を頂くことになった。

また、依頼者の想定を僕の悪筆が大きく超えている可能性も否めなかったため、手紙に書き写した文字を見てもらい、駄目なようなら率直にそう言ってもらい、この依頼はなかったことにする、という約束も取り付けた。

そして仕事を引き受けた翌日、依頼者から文面が送られてきた。

細かい内容は伏せるが、そこには、以前会った時の出来事を詫びる言葉が書かれていた。文章量としては、LINEで完結するようなごく短い文章だった。

この短い文章を書くのに、僕に代筆を依頼しなくてはならない依頼者に思いを馳せた。

字が汚いとか何とか言ってられない。

とにかくやるしかない。

レターセットを購入し、マクドナルドの2階席の隅で、僕は清書に没頭した。

当たり前のことではあるけれど、書いても書いても書いても、残念ながら字が上手にならない。

レターがなくなったため、新たに買い直し、再び書き始める。

おっ、なかなか上手く書けたな、と思ったら字を間違えて、すべてが台無しになる。

おっ→台無し、おっ→台無し、おっ→台無しを何回か繰り返し、2時間ほど経った頃、ようやく納得のいく文字を書くことができた。

書いた手紙を写真にとり、問題がないか依頼者に送る。

達成感と、ごく短い文章にここまで時間をかけなくてはならない自身の筆力に対する敗北感とに苛まされていると、依頼者からメールが送られてきた。

手紙の作成ありがとうございました。問題ありません。

肩の力がどっと抜けた。

そして、今までに感じたことのない感覚が身を包んだ。

「会社でもなければ、他の誰でもない。これは、100%小林慎太郎個人でやり遂げた仕事だ」

人が考えた文面を文字にしただけれど、誇らしかった。

■「離婚をなかったことにしてほしい」

はじめての仕事から2週間ほどが経過をした頃、今度は「就職・転職対策」のお仕事が舞い込んできた。

さては、口コミで広がりつつあるな、と安易な空想に鼻息を荒くした。

「就職・転職対策」の依頼は初めてのことで、特に場所など想定をしていなかったのだが、とりあえず渋谷にある喫茶店で就職活動を控えた学生さんと話をした。

就職活動の進め方、面接対策、緊張をしないための心構えなど、色々と話をした。

そしてお会計。2人で1,400円。

さすがに、学生さんにお金を出させるわけにはいかないと思い、僕が会計をする。

「就職・転職対策」は1,500円なので、収支としては100円。電車賃を入れたらマイナス。

帰りの電車に揺られながら、お金のためにやっているのではない、お金のためにやっているのではない、と念じるように自分に言い聞かせていると、メールが届いた。自社サイトからの依頼。

急いでメールを開くと、ラブレター代筆の依頼だった。

渋谷のモヤイ像の前で、僕はそわそわと周りを見回していた。

初受注の依頼者に関しては遠方であったためメールでのやり取りで完結をしたが、ラブレターを書くにあたっては、直接お会いして詳しい話を聞きたいと思っていた。そして、今回の依頼者は東京在住であったため、直接お話を聞くことになったのだ。

土曜日の昼間。渋谷。モヤイ像。彼氏・彼女を待つ若者たちに紛れ、僕は48歳のおじ様の到着を待っていた。自分の目の前を人が通過するたびに、この人か??とドキリとする。相手は男性のはずなのに、見知らぬ女性がこちらに向かってくると、もしやこの人か??とやはりドキリとする。

ドキリとし過ぎて疲労感を覚えた頃、「小林さんですか?」と横から声をかけられた。

声の方に顔を向けると、まさしく48歳くらいの恰幅のよい男性が立っていた。深い緑のセーターにチノパン。遅刻をしまいと走ってきたのか、少し額に汗をかいている。

「このたびはご依頼を頂きありがとうございます」

内心は緊張をしながらも、わりと落ち着いた声で僕は挨拶をすると、近くの喫茶店へと男性をうながした。

「お住まいはどちらですか?」

「渋谷まではどのくらいかかりました?」

「お仕事はどういったことをされてるんですか?」

「どうやって弊社のことをお知りになられたのですか?」

「ラブレター代筆って怪しくなかったですか?」

緊張を隠すように色々と質問を投げかける僕に、男性は丁寧に返答をしてくれた。

ひとつひとつ、かみ締めるようにゆっくりと言葉を紡ぐのが印象的だった。

10分ほど他愛もないやり取りをし、注文をしたコーヒーが届いた頃、僕は本題を切り出した。

「ご依頼の詳細を聞かせて頂けますか?」

メールでのやり取りの中では「詳細は直接会ってから話します」としか聞いていなかった。だから、僕は男性がラブレターを送りたい相手、相手への想いなど、この時点では何も把握をしていなかった。

「お恥ずかしい話、3ヶ月ほど前に離婚をしたんです」

そうつぶやくと、男性はコーヒーへと口をつける。

ん?・・・。僕は胸騒ぎがした。何だか嫌な予感がする。

「僕が甲斐性がなかったんでしょうね・・・。それ以来、メールをしてもLINEをしても電話をしてもまったくつながらないんです。まあ、離婚をしたのだから当たり前かもしれませんけど」

僕の言葉を待つことなく、男性は話し続ける。

「でもね、離婚をしたからといって想いが断ち切れるかというと、そんな単純なものではないんですよ。自分から別れを切り出したのならまだしも、別れを告げられた側だからなおさらです。僕は絶対に離婚はしたくなかったんです」

男性は顔を上げ僕の目をまっすぐに見ると、

「メールもLINEも駄目なら、手紙しかないと思って、デンシンワークスさん、小林さんに依頼をすることにしたんです!離婚をなかったことにしてほしいんです」

あぁ、やはりそう来たか。そう来ますよね。

僕は男性の視線を避けるように、コーヒーに口をつけた。

僕の経験上、ラブレターが効果的に機能するのは、ラブレターを受け取る側から送り主への想いが30%~40%くらいはあること、が前提だと思っている。つまり、今回の場合、離婚をした奥様から依頼主への想いが30%~40%くらいはないと成立しない。

そのくらいの割合以上想いがあれば、「ラブレターなんて素敵!」となるのだが、それよりも割合が下だと「ラブレターって・・・重い!」と受け取られてしまうと思う。

そして、今回お話を聞く限りだと、お相手から依頼主への想いは30%は絶対にない、と感じた。

別に、上手くいきそうな依頼だけを受けるつもりは毛頭ないが、「重い!本当にイヤ」と思われてしまうと、お子さんに会うことを禁止されたりしてしまうのでは・・・と、それが心配だった。

そして、これもまた僕の経験上の話だが、一度心が離れてしまった女性の心が再び戻ることはないと思っている。一度離れた男性の心が戻る可能性はあるが、女性はない。絶対ない。

ただ、それをそのまま伝えるわけにもいかず、「なるほどなるほど」と、とりあえず相槌を僕は打った。

「10歳以上も年下の方にみっともない姿を見せてしまっていますが、恥も外聞もないんです。手紙だけが頼りなんです」

自分より10歳以上も年上の男性に頭を下げられ、無下に断ることもできなかった僕は、

「なるほど。お気持ちはよくわかりました。うんうん・・・、そうですね、まあ、うん、そうですね。結果は保証しかねますが、結果はどうなるかはわかりませんが、結果は何ともですが・・・、是非書かせてください」

と歯切れ悪く承諾をした。

深々と頭を下げる男性と別れると、「どうしよう・・・」と僕は頭を悩ませた。

何をどう書いていいか、まったくわからなかった。

とりあえず、想いを100%の直球でぶつけるのはよそう。絶対にひかれてしまい、復縁の可能性が0になる。かといって、想いを伝えなければ状況は発展しないしな・・・。あえて何も書かずに白紙の手紙を送るとか?いや、それは絶対にやめた方がいい。無言電話より性質が悪い。ちょっと濁す感じで詩を送る?いやいや、それこそひかれるな。

最初のラブレター案件と同じく、僕はマクドナルドの2階で頭を悩ませていた。ラブレターの方向性が定まらない。コーヒーを何杯飲んでも定まらない。ポテトを何本食べても定まらない。

2時間ほど考えたり、たまに本を読んだり、音楽を聴いたりしながら過ごした後、僕は一つの結論へとたどり着いた。

想いを伝えるのはやめよう。

その代わりに、奥様と過ごした時間のことを色々と書き連ねることにした。

休みの日はいつも近くのスーパーへと買い物に行くのが習慣だったこと、2人でバラエティ番組を観ては大声で笑っていたこと、4回目の告白でやっと奥様と付き合えることになったこと、奥様への初めてのプレゼントは指輪だったが、サイズが合わず奥様が怒って帰ってしまったこと。とにかく、依頼主から聞いた思い出を綴った。

昔の音楽を聴くと、その頃の出来事や思いが甦るように、昔の思い出を書くことで、愛し合っていた当時の想いが甦ることを期待したのだ。

即効性はないかもしれないが、じわじわと効果があるのではないかと思った。

僕は、祈るようにして文面を依頼主にメールで送った。数時間後、返信が来た。

ちょっと物足りないです。僕の気持ちはこんなものではありません。

依頼主の奥様への想いの強さは感じていたので、こういう反応が来ることは想像できた。

しかしながら、僕としては強く想いを伝えたら逆効果だという確信があったため、その旨を角が立たないように、やんわりと、丁寧に返信をした。

依頼主の要望通りに書くことは容易いが、それをそのまま受け入れるのは無責任だと思った。

ラブレターの目的は書くことではなく、想いを成就させることだと思っている。

先ほどは依頼主からすぐ返信が来たが、僕の返信に対しては1時間経っても2時間経っても来なかった。

結局、1週間経っても、1ヶ月経っても、返信は来なかった。

僕の返信に気を悪くされてしまったのか、もしくは、「こいつは駄目だ」と見限られたのかもしれない。

ここまで2件のラブレター代筆の依頼を受け、自分が想定していたのとはまったく異なるな、と痛感していた。そもそも依頼が来るとは思っていなかったし、来たとしても、高校生や大学生が軽いノリで依頼をしてくる程度だと思っていた。

でも、違った。2件とも本気だった。真剣だった。

これは生半可な気持ちではできないな、と思った。

■「結婚をする彼女へサプライズを」

2件目のラブレター代筆を依頼を受けた後、ぱらぱらとそれ以外の「就職・転職対策」や「プレゼンテーション指導」のお仕事を受けながら、本業とあわせてそれなりに忙しい日々を過ごしていた。

そんなある日、3件目のラブレター代筆の依頼が舞い込んだ。

今度結婚をすることになっています。それを機に、今までの彼女との時間を振り返ってみると、僕は彼女に特別なことを何もしていないことに気づきました。どこか特別な場所に連れて行ったこともなければ、特別なプレゼントをしたこともありません。でも、彼女は僕に色々としてくれます。

結婚をする前に、彼女に感謝の言葉を記したラブレターを送ってあげたいと思います。言葉でもあまり気持ちを伝えたことがないので、きっと彼女は喜んでくれると思います。結婚をする彼女へサプライズをしてあげたいのです。

そんなような内容のメールだった。僕は思わず笑顔になった。読んでいるだけで幸せになる内容だったし、前回のラブレター代筆は不完全な終わり方をしてしまったが、今度は確実に大丈夫だと思った。

結婚。サプライズ。この2つの要素が揃っていれば、それこそ空白の手紙でも大丈夫だと思う。

前回に続き、今回の依頼主も東京在住だっため、直接お会いして話を聞くことになった。

20代後半。メールの文面から感じていた通り、礼儀正しく、爽やかな男性だった。質問を投げかける僕に、彼女との思い出や今後の人生設計を嬉しそうに語り続ける。小学校の同級生で、社会人になってからたまたま再会をする機会があり、それをきっかけに付き合い始めたこと。依頼主は犬、彼女は猫が好きなので、結婚したら犬と猫を飼おうと思っていること。三軒茶屋に住みたいと思っていること。子供は3人欲しいと思っていること。とにかく色々と喋る。

今回の依頼者に限らず、ラブレターを送る相手のことを話している時、誰しもが嬉しそうな表情を浮かべ、嬉々として話をしてくれる。会社の中で働いている時には見ることができないような人の表情を目にすることができる。それは、この仕事をしていたよかったことの一つだと思う。

依頼主と別れると、僕は家へと帰り、早速手紙を書き始めた。

2時間ほどで書き終え、依頼主に送った。

すごい!感動しました。想像以上の内容です!

1時間後くらいに依頼主から返信が来た。

ただ、若干の修正依頼があり、修正に関するやり取りを2,3回した後、文面が確定をした。

2週間後が彼女の誕生日なので、その時にこの手紙を渡そうと思います^^

反応、メールで連絡しますね!

やり取りの最後に、そう書かれていた。2週間後が待ち遠しかった。

お手紙を渡された結果、いかがでしたでしょうか??

お相手の方の反応などを聞かせて頂けると嬉しいです!

3週間後、つまり、お相手の方の誕生日から1週間が経過した頃、僕は依頼主にメールを送った。

誕生日である2週間を経過しても、依頼主から連絡は特になかった。ついでに言うと、納品後の入金もその時点ではなかった。

もしかしたら手紙だけ受け取って未払いなのかな、と思ったが、その考えはすぐに打ち消した。直接会った印象やメールとのやり取りから、そういう人だとは到底思えなかった。

確認のメールを送ってから1週間後に口座を確認すると、入金がされていた。

でも、メールの返信はなかった。

意味がわからなかった。入金はするけれど、返信をしない理由がわからなかった。

返信が来たのは、ずっと後のことだった。

■「病気の彼女へ感謝とお詫びを」

入金はあれども返信はない状態にやきもきしながら日々を過ごしていると、再びラブレター代筆の依頼が来た。当初、ラブレター代筆は実際に依頼が来ることは想定をしていなかったが、いつの間にか件数としては最も依頼の多いサービスとなっていた。

今度、妻の誕生日と結婚記念日があり、手紙を送りたいと思っています。妻のことを一番に思っている気持ち、感謝の気持ち、色々と我慢をさせてしまっていることに対するお詫びの気持ちを伝えたいです。自分ではどう書いていいかわからないです。

確認したところ、依頼主が遠方にお住まいとのことなので、詳細はメールで確認をすることになった。

何回かメールでやり取りをおこない、依頼主と奥様、ともに30代であること。昨年に奥様が体調不良を訴え、病院で診断を受けたこと。結果、30代という生気に満ちた年齢とは裏腹に、深刻な病気を患っていることが判明したこと。それを機に、快活だった奥様の元気が日に日に失われていったことなどがわかった。

ラブレター代筆をしていて思うのは、当たり前のことではあるけれど、誰しもがそれぞれの事情を抱えて生きているということ。そして、どのような状況に身を置かれようとも、誰かが誰かに想いを寄せるという行為は途切れることなく、世界のどこかで絶え間なく繰り返されているということ。

今回の依頼を受け、僕はあらためてラブレター代筆という仕事を考えてみた。

最初の方に記したように、ラブレター代筆をサービスに加えたことに明確な意思や必然性があったわけではない。では完全なる偶然かというと、それもまた違う気がする。「想いを伝える」という行為に、自分の中で引っかかるものがあった。

今でこそこういう仕事をしたりしているが、僕は元々、自分の気持ちや想いを相手に伝えるのが得意ではなかった。女性に「好きだよ」「愛してるよ」という言葉で表すのは格好悪いと思っていた。そんなものは口に出すものではないと思っていた。

でも、ある時から、それは違うと思うようになった。

僕も今36歳なので、それなりに想いを寄せる相手もいたし、想われる相手もいた。そんな中で、突然に、いくら自分の想いを伝えたくても、伝えられないようになることがあることも知った。「好きだよ」「愛してるよ」といくら発してみても、その人の耳に届くことはない。「好きだよ」「愛してるよ」と綴ったラブレターを送ってみても、その人の手元に届くことはない。どのような手段でも、僕の想いが相手に届くことはない。

想いを伝えたところで何も変わらなかったかもしれないけれど、想いを伝えることで何かが変わっていたかもしれない。運命が変わっていたかもしれない。当時はそう思ったし、今でもふと思うことがある。

それからは、とにかく想いを伝えるようにしている。その人の耳に届く距離にいる時に伝える。その人と時間を共有をできる間に伝える。その人がいなくなる前に伝える。伝える。

だから、ラブレター代筆という仕事は、偶然のような必然のような感じ。他人の想いに乗せて、自分の想いを消化しているようなところがあるのかもしれない。

依頼者からのメールを読み終えると、僕は依頼者の想いを伝えるべく、文面を考え始めた。

ありがとうございます。こちらで問題ありません。

考えた文面を送ると、依頼者から返信が来た。

確認の御礼を伝えるメールを送る際、お手紙を渡した結果を是非連絡してもらいたい旨も記載した。

4月になると思いますが、連絡致します。

4月。誰かが誰かに想いを伝えるのには、最適な季節だと思う。

今度は結果連絡が来ることを信じて、楽しみに待つことにしよう。

■返信

手紙を納品してから2ヶ月ほど経過した頃、結婚する彼女へのサプライズとして手紙を作成した依頼者から、メールの返信が来た。

せっかく手紙を書いて頂いたにも関わらず、渡すことができなくなりました。ごめんなさい。

それ以外は特に何も記されていなかった。

僕は何も返信をしなかった。

どのような状況に身を置かれようとも、誰かが誰かに想いを寄せるという行為は途切れることなく、世界のどこかで絶え間なく繰り返される。そして、世界の隅の隅の端っこで、僕は今日もその一端を担っている。

手紙を納品してから2ヶ月ほど経過した頃、結婚する彼女へのサプライズとして手紙を作成した依頼者から、メールの返信が来た。

■まとめ:ラブレターにはいろんな想いがある。

"愛の手紙"なのだから、ラブレターを書く人や貰う人は、幸せな気持ちばかりかと思っていたが、このストーリーを読むと、決してそれだけではないということが分かる。

プロポーズの緊張と不安と、けれどやっぱり明るい手紙。

別れた人へ贈る、悲しい手紙。

戻って来てほしい人へ伝える、寂しく思い詰めた手紙。

さまざまな想いが、さまざまな心に届けられる。

後日談だが、ラブレター代筆は、元々メイン事業の客寄せパンダ的な役割を期待していたという。

それが今では、各事業の中で1番需要があるのだとか。

「代筆」や「人の想い」には、まだまだいろんな可能性があるのかもしれない。

(文=STROYS.JP編集部・阿部仁美)