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「もう一つの誕生日」 高校生で脊髄損傷、一生歩けなくなったあの日から

2014年05月09日 22時23分 JST | 更新 2014年07月08日 18時12分 JST

不幸な事故や事情で、障害を背負うことになってしまった人にとって、その原因となった日のことは思い出したくもない記憶かもしれない。

どうしようもない現実に打ちのめされ、自暴自棄になってしまうこともあるだろう。

しかし人はどんな状況でも、どんな境遇でも、生きてさえいれば、想像していなかったような出会い、心の変化が起こることがある。

高校生で脊髄損傷、一生車いす生活となった一人の男性の人生を、彼と出会い結婚した女性が綴った物語がある。

高校生で脊髄損傷になって、軌道修正した夫の人生

「何を弱音吐いてるの、この先もう歩けないんだから......」

高校2年生の夏休み、工事現場から出てきたトラックに運悪く轢かれてしまった男性。

病院で目が覚めて、それ以来リハビリも順調にこなしていたが、もう歩けないかもしれないということは薄々気づいていた。

ある日、その予感は看護婦の口から現実として突きつけられた。

"「何を弱音吐いてるの、この先もう歩けないんだから......」"

その晩、涙で枕を濡らした。

しかし彼は、現実を受け入れ翌日にはもう前を向いていた。

この男性は、中学高校時代はかなりやんちゃしていたという。事故に合わなかったらホストになることがきまっていたという彼の人生は、車いすになってから変わっていく。

社会復帰への苦労、バリアフリーの行き届いていない日本での生活、留学、就職。

根強く残る障害に対する世間の目、様々な困難を切り開いていく彼のバイタリティ溢れる姿は、体が不自由でも、心が自由でやる気に満たされていれば、困難を乗り越えられることを訴えてくる。

彼は就職と同時に、車いすテニスを始めた。眺めることくらいしか出来ないと思っていたスポーツも、やれば出来ると知った。

すっかり車いすテニスにのめり込み、大きな大会にも出場するようになっていたある日、彼は初めてその女性と出会った。後に彼が結婚することとなる女性(筆者)である。

車いすの男性と出会って結婚するに至るまでの5年間の話

初めて会って、少し話をして、そして確信した。この人と、結婚するんだろうな、と。

" 話し方が穏やかで、懐が深く、しっかりした企業に正社員として勤めていて、ただ留学経験があるだけじゃなく、アメリカの大学を卒業していた。そしてスポーツ、私と共通にできるテニスをしていた。自分が思い描いていた結婚相手の理想像に最も近かった。

たったひとつ、車いすに乗っているということを除いて。"

スポーツに特化したライターを目指していた筆者は、ふとした思いつきから「車いすテニス」を取材することを決める。

そこでの出会いが彼女のこれからを大きく変える。

わずか数時間でふくらむ想い。しかし、あくまで取材対象。そんな二人の付き合いが始まった。

すれ違い。正式な交際。両親の強烈な反対。

両親からも、彼からも、自分が一番望む結婚という形からも逃げ続け月日が流れていく。

彼女に覚悟をくれたのは、背中に感じた人の重みだった。

普段はいわゆる"介護"のようなことは全く必要のない彼だけれど、体調を崩したときなどには手伝いも必要になる。

ある日、彼が体調を崩して下の世話をしなければいけないことがあった。

そのときに、確信した。私はこの人と結婚してもやっていける、と。

そして、歩けない彼と一緒にいて、もし地震などの災害があったら、死を共にしようと思っていた時期もあったのだけれど、あるとき彼をおんぶしてみたら、背中に背負って立つことができた。

それからは、何かあっても「私が彼を背負って生き延びてみせる」と思うようになった。

出会いから5年。新郎の挨拶

ついに二人は結婚した。

式当日、新郎がマイクを手にして、最初に言った言葉はこうだった。

"「高校2年のときに、事故で車いすになったときは高校に復学できるとは思いませんでした」"

そのまま、一つ一つ言葉を紡いでいく男性。

"

「高校に復学できたときは、卒業できるとは思いませんでした。」

「高校を卒業したときは、アメリカの大学に行くとは思いませんでした。」

「大学を卒業できるとは思いませんでした。」

「大学を卒業したときは、○○(会社名)に就職できるとは、思いませんでした。」

「そして、結婚する日がくるとは思いませんでした」 "

出会いから5年。少し言葉に詰まりながら話す彼の誓いの言葉と会場の涙を背に、一つの夫婦が生まれた。

今二人の子どもを持ち、胸をはって幸せだと言う男性。

もしあの時事故に合わなかったら、今の人生はなかった。

だから彼は、高校生にして一生歩けなくなったあの日を、「もうひとつの誕生日」と言う。

高校生で脊髄損傷になって、軌道修正した夫の人生

車いすの男性と出会って結婚するに至るまでの5年間の話

(文=STORYS.JP編集部・川延幸紀)