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縁もゆかりもない地方都市でのバーテンダー。たった三ヶ月がくれたもう一つの故郷

2014年04月13日 15時33分 JST | 更新 2014年06月11日 18時12分 JST

都心で生まれ、都心で育った者にとっては、故郷という感覚はあまりなじみがない。

普段都心で暮らしていると、地方で回る、小さな世界に触れる機会はほとんどないだろう。

しかし、私たちの知らない場所で、確かに回っている小さな経済・世界が日本中にある。

これは、横浜生まれ横浜育ちの地方というものに縁のなかった女子大学生が、縁もゆかりもない愛媛の地方都市でバーテンダーとして働く物語。

休学中の大学生が、縁もゆかりもない地方都市でバーテンダーをしてみた話

日本で一番カクテルが美味しいバー。そう称える人がいるほどのこだわり溢れる松山のバーでの仕事。

バーテンダー歴25年、格闘技とハードロックが好きな40代の独身男性。

バーテンダー歴10年、高血圧でナルシストな30代の独身男性。

色濃いベテランバーテンダーに囲まれながら、全くの素人大学生の新しい生活が始まった。

街の歯車をうまく回していく「社会の黒子」 -地方都市で回る小さな経済。-

" 継続。同じことを、毎日、少しずつ工夫しながら。 "

「生きることは働くこと」そう言えてしまうような、生活に密着した働き方。

会社員の愚痴を聞き、不倫を生暖かく見守り、学生の恋の相談に乗り。

お客さんたちそれぞれの夜を、素敵なひとときにかえていきます。

そうして迎える現実の朝が、少しでも良いものでありますように。

そこは大都市で生まれ、大都市で育った彼女の生きてきた世界とは、全く異なる場所だった。

お酒も人間も社会も、「自分は何もしらなかった」という経験。

-理想と現実のズレ- やってみて初めてわかるカウンターの垣根。手が届く距離なのに、高く厚い壁がそこにはあった。

たくさんの常連さん。彼らがどう考えて、街で生きているのか、とても興味があった。

だけど、どこまで行っても「お客さん」と「バーテンダー」という関係。

「カウンターを越えて、個人対個人になるのはやっぱり難しいんですね...」とこぼした問いに返って来た、

「僕らは商売だから。プライベートにまで引き寄せられないよね」

という答え。

バーテンダーは、会いに来てくれなければ、会いに行けない。

その距離感が心地良いと感じられるかどうか。

"やってみて初めてわかるカウンターの垣根。手が届く距離なのに、高く厚い壁のように思えました。"

少しずつ、理想と現実のズレを感じ始めた。

800km先にある遠い街の、ひとつのBARに出来たもう一つの故郷

「東京に帰ろうと思っています」

彼女の決断を暖かく見守ってくれた人たち。

" 「これだけは覚えててほしい。これは失敗や挫折じゃなくて、ひとつの経験だと。やってみて、違った。それだけのことやけん。よく頑張ったと思うし、とても楽しかった。雇ってよかったよ」 "

<最後の一週間>

クリスマスが過ぎてすぐ、1番仲の良かった転勤族の常連さん(以下:Kさん)がお店にやって来ました。

わたしは、なるべく素直に、松山を離れることを伝えます。

別れを告げると、Kさんの目からさあっと、熱が冷めていくのを感じました。

しきりに「残念だなあ」と言われ、かなしいけれど、自分の決断には変えられないなあと苦笑いをしていました。

翌日。

2週間に1度ほどの頻度で来店するKさんが、またやって来ました。

12月末の金曜日だったので、仕事納めがてらに来たのかな、としか思っていなかったのですが。

Kさんはおもむろに鞄から1冊の本を取り出し、わたしに手渡しました。

「楽しい時間をありがとう」と一言添えて。

「僕が人生で1番多く開いた本を贈ります。昔ね、やりたくもない営業をやらされて、しんどくて、その時この本に出会ったんだよ。」

この時ようやく、わたしは3ヶ月もの短い間に、縁もゆかりも無い街で、新しい社会を作って来れたことを実感しました。

わたしはしっかり、松山で20年続くBARの、社会に組み込めていたんです。

今ぱっと思い出すだけでこんなにも名前と顔が出てきたことが、

お喋りして一緒に笑っていたことが、

彼らがどんなお酒を好んでいたのかも思い出せることが、たまらなくうれしい。

東京に帰り、今までと変わらない生活が始まる。

「変わったことといえば、800km先にある遠い街の、あるひとつのBARにも、わたしの社会があるということ。」

見知らぬ土地での、たった三ヶ月の出来事。もう二度と会えない人たちがいるとしても、それは確かに彼女の心に残っていた。

休学中の大学生が、縁もゆかりもない地方都市でバーテンダーをしてみた話

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