電車・ショック―『スコットランド人夫の日本不思議発見記』(17)

私が家族と実家のある大阪に帰省した時の話です。

私が家族と実家のある大阪に帰省した時の話です。

当時、娘たちはまだ幼かったため、難波や梅田などの繁華街には行くことなく、最寄り駅の周辺で遊んでいました。

家族4人だけで隣駅にあるボーリング場に行こうということになり、ひと駅分の切符を4枚買って、みんなに渡し、自動改札口に向かいました。

何の迷いもなく切符を通し、改札を抜けた私は「は!」と我に返りました。

「やばい。あの3人、自動改札口を通った事ない」

振り向くと、やはり3人はモタモタと自動改札口と格闘中でした。

私はすぐさま長女であるチハナに、

「ほら、チハナ!切符をそこに入れて!扉がパタンと開いたら通る!あ、切符忘れないで取って!」

と言うと、チハナは改札口をグルグル回りながら、切符の行方を探っていました。その横を、妹のモモカは見よう見真似で見事に改札口を抜けて来ました。

そして、肝心の夫はというと、改札口に切符を入れるや否、「ぴよっ」と言うカワイイ音色を立てていました。

きっと3人が改札口でもたついている間に、3枚の切符がごっちゃになり、子供用の切符を通してしまったのでしょう(真顔

ホームに到着すると、夫はキレイに整列している日本人に感動し、「ドアが来る場所」にキチンと電車が停車することに歓声を上げました。

電車が来て乗車すると、

初めての「日本の電車」に、娘たちはもちろん、夫も大いにテンションを上げていました。

しかし、彼らの高鳴る胸も、ものの数分で強制終了。

夫は「モウ降りるノ?数分しか乗ってないヨ?」と、目をしばたかせていました。

私は「そうか、もっと電車に乗っていたかったのか......」と、思いましたが、実はそういう意味ではなかった事が、帰り道で発覚。

「落ち着け、夫よ。ここから家までは軽く3キロはある。ここから40~50分もかけて歩いて帰ると言うのかね?」

夫は私を見下ろしながら、鼻息荒く、捲し立てました。

「たかだか2分間、電車に乗るだけで、ひとり120円かかるんですヨ?高すぎマス!3キロくらい簡単に歩けマス!」

夫は頑として意見を曲げません。

「考えてみて下サイ!ワタシたちの町からひと駅といえば、イングランド(約45km)もしくはエジンバラ(約120km)まで行けマス!それくらい移動できるなら電車に乗ってもいいデス!」

スコットランドの自宅は、片田舎にも関わらず、なぜか特急電車が停車します。

田舎ゆえに、駅から駅への距離がハンパなく長く、それが当たり前の夫にとって、「一駅2分、120円」は許しがたかったのでしょう。

私たちは大阪のとある駅前で「電車!」「歩き!」と散々すったもんだを繰り広げました。

最終的に、私が両親からお金をもらっているということを夫に告げ、やっと電車で帰宅することが許されました。

夫が少しでもロンドンの地下鉄(チューブ)に慣れ親しんでいてくれたなら、こんな意味不明なケンカもせずに済んだのにな......と、元都会人の私は思ったものです。

その数日後、ひとり京都旅行に出掛けた夫。

一般的な「新快速」(新大阪から京都まで・運賃500円程度)には目もくれず、京都までのたった一駅を約1500円支払って憧れの新幹線に乗ったとのことです――

(終わり)

★コラム著者の4コマコミックエッセイ

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