本来の争点たりうる社会保障改革

国民生活に密接に関わる社会保障については、政権与党と野党が次期参院選に向けて具体像を示し、国民の判断を仰ぐ必要があり、まさに本来の争点だと考える。

参院選の争点として憲法改正がことのほか取りざたされているが、ここ10年来の国民生活に密着した課題である社会保障制度抜本改革が置き去りにされそうな気配だ。

昨夏に成立した社会保障制度改革推進法に基づき、11月に「社会保障制度改革国民会議」(以下、「国民会議」)が設置された。15名の有識者から成る国民会議の設置は一年限り、今年の8月21日までだ。それまでに医療・介護・年金・少子化対策の4分野について提言を取りまとめなければならない。超高齢化社会に向かう中、消費増税分の使い道である社会保障の具体を検討する国民会議の役割は重い。しかし、昨年11月30日の第1回会合以来、関係団体ヒアリングなどが続き、個別テーマについては3月末、委員間集中討議は先週19日になってやっと始まったところだ。そもそも社会保障制度に関する有識者会議は、歴代政権下で繰り返し設けられてきており、改革メニューは既に出尽している。大病院と中・小規模病院の役割分担、ジェネリック医薬品の普及、在宅医療・介護の充実、国民健康保険の運営主体の広域化等、急増する費用の抑制と質の確保について一刻も早く結論を導かなければならない。

一方、国民会議と並行して、昨年6月の民自公三党確認書で、公的年金制度と高齢者医療制度改革はあらかじめ協議することになっており、週一回程度のペースで実務者協議が行われてきた。しかし、後期高齢者医療制度廃止や最低保障年金と所得比例年金の一元化等の抜本改革を主張する民主と、現行制度の微修正を主張する自公とは未だ平行線だ。抜本改革実施には時間を要するため、当面の措置として現行制度の改善は必要だが、国民会議で現行制度改善の議論が行われているのだから、政治による実務者協議では速やかにあるべき社会保障の将来像を提示し、国民会議の議論に早期に反映すべきだ。

社会保障制度改革推進法では、8月21日までに「必要な法制上の措置」を講ずることになっている。安倍首相は議論の先送りを否定しているものの、所管の甘利一体改革担当大臣は、「法制上の措置」の解釈について、「法案要綱や骨子などの閣議決定も含む」と述べ、既に先送り示唆の答弁をし出した。

年金問題は第一次安倍政権で選挙の敗因となったため自民党内では参院選前の議論には抵抗感が根強くある。これが三党実務者協議の停滞や甘利大臣の発言の背景になっている。しかし、国民生活に密接に関わる社会保障については、政権与党と野党が次期参院選に向けて具体像を示し、国民の判断を仰ぐ必要があり、まさに本来の争点だと考える。

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