"グローバル視点"では、モノは売れない。世界の自動車マーケットを見てきた商社マンのローカル仕事術

2017年02月04日 02時30分 JST | 更新 2017年02月04日 02時30分 JST
The Huffington Post

物流や通信の発達により、グローバルにビジネスを展開するのが当たり前になった現代。しかし、市場がどれだけグローバルになろうとも、モノを買う人々は、どこかの国や地域に属している。「消費者の嗜好は、国によって全く異なる。グローバル戦略に沿うだけでは売れない」そう語るのは、住友商事に勤め、欧州各国で累計10年以上に渡り自動車ディストリビューター(流通代理店)の経営に携わってきた相原堂秀だ。“グローバル人材”である相原が語る、ローカルな感性を知り尽くすことの重要性とは?


グローバル商材「自動車」のローカルマーケティング


自動車は、グローバル商材の代表ともいえる存在だ。日本国内で「外車」を見かけることは珍しくなく、逆に海外の多くの国で、日本車が走る姿を見ることができる。こうした国際市場を支えている立役者の1人が、現地事情に精通した自動車ディストリビューターだ。自動車メーカーが海外進出する際、現地でのマーケティング活動が必要になる。メーカーが独力で行うこともあるが、自動車ディストリビューターとパートナーシップを組むことも多い。

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「国ごとに異なる法律や商慣習を、新しい国に進出するたびに調査・学習するのは、メーカーにとって大きな負担。政治、経済、金融等ビジネス環境が変動しやすい国もありますし、社員を現地に派遣したり、現地の人材を直接雇用したりすることも、リスクになります。ディストリビューターと組むことで、そうした負担を軽減できます」

さらに、ディストリビューターの重要な役割が、現地でのブランディング活動だ。広告やキャンペーン、ディーラーの教育など、様々な施策を通してブランドの価値を高めていく。

「プロダクトごとの品質差が大きかった時代は、スペックが高ければ売れていました。しかし、今は各社にそれほど大きな差がないなかで競り合っています。消費者もそれを知っているので、スペックを細かく比較するよりは、イメージで選ぶ傾向が強まっている。だから、ブランディングが重要なんです」


トルコ人はテレビがお好き? 消費者行動が変われば広告も変わる


かつて、ある日本のメーカーのディストリビューターとしてトルコに赴任した相原は、当時一部の層に限られていたSUV市場を開拓した。

「出生率が高いトルコでは、ファミリーカーといえばセダン。全車種販売数の多くをセダンが占めます。ですが、そのメーカーのセダン車は価格戦略上競争力が乏しく、他に花形車種を用意する必要がありました。そこで目を付けたのが、先進国で売れ始めていたSUVでした」

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セダンに比べ、高額であることが多かったSUVのなかで、スペックなどを工夫し比較的手が届きやすい価格に設定したこともあり、勝算はあった。しかし、そうはいってもまだ売れていない車種だけに、消費者との接点がない。認知度と好感度を上げるために実施した広告施策は、住友商事本社では不評だった。

「費用をテレビCMに一点集中したからですかね。広告媒体が多様化している時代に、もっと工夫できないのかという意見もありました。堅実な社風の住友商事からすると、効果測定がしづらいCMへの抵抗が少なからずありました」

「でも、トルコ人はテレビが大好きで、CMへの信頼も厚いことが分かっていたんです。成人のテレビ視聴時間が1日平均6時間(※日本人平均は3時間強)という調査データもあったので、これがベストだと押し切りました。並行して現場の販売状況はきめ細かくフォローしていましたが、顧客のショールーム訪問の伸びやソーシャルメディアでの口コミ内容で、手応えを感じましたね。また、その後の市場調査等も見ながら、CM内容の洗練を重ねました」


現地の価値観・嗜好を捉えなければ世界市場は拓けない


消費者の細かな嗜好に答えるために、グレードやスペックの組み合わせを20パターン以上用意するなどの施策も併せて行った。グレード数増による在庫リスクへの対応や発注精度管理など苦労も多かったが、商社で培ったノウハウをフル活用した取り組みは見事成功。SUVセグメント内のシェアは、トルコ国内No.1にまで成長し、市場を牽引した。

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「シェアを伸ばすこと自体が、高いブランディング効果を発揮します。知り合いが乗っている、街で見かける機会が増えた......。そんな経験を通して、ブランドへの好感度が高まります」

SUV以外の車種の売り上げにも好影響があり、自動車市場全体でのシェアの伸びにもつながった。ただし、相原自身はこの成功体験を引きずっていない。国が変われば、消費者の行動や意識、文化、社会情勢も異なるということを、身をもって知っているからだ。

「メーカーは、自社や自社製品をどんなブランドとして規定するか、グローバルな指針を決めています。そうした指針は、ブランド価値を築くうえで必要ではありますし、ローカル市場でもその指針に沿うことは必要です。ただ、それをどんな方法で消費者に伝えていくかは、現地事情をよく知る人が考えた方がいい」


グローバルという言葉に踊らされていては、本当のグローバル人材になれない


現地をよく知ることの重要性と、自動車という資産価値の高い商材の特性上、ディストリビューターのオーナーは、現地の有力者であることも多い。各国の財政界の大物とのパイプも非常に強い。

「地元で長くビジネスを営む彼らの方が、商社ネットワークよりも強い人脈を持っていると思うこともあります。その分、我々は別の強みが必要です。私自身は、いろんな国でトライ&エラーしてきた経験が強みだと思っています」

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国を変え、時を変え、いくつも重ねた試行錯誤が、プランに幅を持たせてくれる。

「世界のどこでもうまくいく手法なんてない。一方で、逆に現地で当たり前とされているやり方だってベストとは限りません。グローバルとか、ローカルという言葉に踊らされず、自分たちが提供できる価値をフラットに考えることが、世界を舞台に働くために必要なことだと思います」

世界を舞台に働くことが当たり前になった現代、“グローバル”を特別視した仕事は、時代遅れなのかもしれない。

※NHK放送文化研究所「2015年国民生活時間調査報告書」参照