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崔順実の「江南スタイル」が物語る韓国社会の「欲望の構造」

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不動産、ブランド品、財閥・芸能界・スポーツ界との癒着、整形外科、私立高校、高級サウナーとホストクラブ......。

報道で出されるこれらの単語を追いかけていくと、崔順実を規定する一つのフレームにつながる。韓国のメディアやネット空間によく登場する「江南(カンナム)おばさん」というフレームである。

この「江南おばさん」という言葉は、確かに女性に対する軽蔑の意味を含んでいる。「たかが金持ちの一般女性が国を動かしていた」という嫌悪感が、そこにはある。刺激的な要素を集めたこの「女性フレーム」に対する批判は、だから妥当である。

しかし他方で、このフレームを「江南」という言葉から読み取ってみると、きわめて複雑な、韓国社会の「欲望の構造」がそこに潜んでいるのがわかる。

江南の不動産長者である崔順実が、「青瓦台」(大統領官邸)の朴槿恵大統領と共犯関係であったという「崔順実ゲート」は、韓国社会の権力構造を象徴的に映し出しているからだ。

ソウルの中央部を東西に流れる「漢江(ハンガン)」の南側を意味する「江南」がソウルの新たな中心として浮上したのは、1980年代後半のことである。高度成長が本格化した70年代からのさまざまな江南開発を通じて、旧都心(漢江の北側)に集中していた中心が急速に解体され、宗教・商業・文化・教育施設とともに次々と江南に移動・拡大したのである。

1988年にマクドナルドの第1号店がオープンしたのも、江南であった。

江南を新たな中心にさせた動力は、不動産であった。1963年に1坪あたり400ウォンだった江南中心部の土地価格は、1970年の京釜高速道路の開通を経て、1979年には40万ウォンまで上昇した。

人びとはそれを、高速道路の起点であり、不動産バブルの起点となった街の地名をつけ、「マルチュク通り(マルチュッコリ)の神話」と呼んだ。クォン・サンウ主演の映画『マルチュク青春通り』の、あの街である。

爆発的に上昇し続けた土地価格が3,400万ウォンになった1990年頃になると、「江北住民の被害意識と疎外意識」に関する記事が『東亜日報』に書かれるほど、漢江を境界とした江南と江北間のヒエラルキーは逆転した。数百年以上維持され続けたソウルの面積が2倍に膨らんだ2-30年のあいだ、国家の権力構造そのものが大きく変容したのである。

こうして誕生した江南は、不動産長者を量産し、韓国の富裕層の地図を描き直した。その新たな地図には、既存の政治権力と経済資本を利用して進出した階層もいれば、早期に買い占めた不動産を拠点に新たな経済資本を手に入れた階層もいた。

そのなかで、不動産を中心に階層意識が強化され、さまざまな資本があらゆる領域をまたがりながら集中した。そして1997年のアジア通貨危機を経て新自由主義体制に入ると、江南をめぐる態度とまなざしは、韓国社会全体を貫通する「欲望の構造」そのものとなっていった。

崔順実と父崔太敏(チェ・テミン)、つまり崔氏一家は、後者にあたる。崔氏一家は、70年代から朴槿恵に寄生しながら手に入れた富で、80年代から江南の不動産を買い占め、それをもとにさまざまなネットワークを築きながら、権力を膨らませた。

1979年に朴正煕元大統領が暗殺され、1987年に軍事政権が終焉を迎えた後も生き残り、1998年に朴槿恵を国会議員に当選させることで再度政界に浸透することができたのは、江南というキーワードなしでは理解できない。冒頭で並べたように、この事件に登場する多くのアクターとファクターが江南に集中しているのも、決して偶然ではない。

「崔順実ゲート」は、朴槿恵と崔順実のふたりの関係だけでは説明できない現象である。

その根底には、朴正煕の娘としての朴槿恵の権力と江南を拠点にした崔順実の権力があり、さらにはそれらの権力をめぐるさまざまな欲望の集中があるからだ。つまり「マルチュク通りの神話」以来、数十年間拡大してきた韓国社会の「欲望の構造」こそ、この事件の本質の一つなのである。