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ソマリア政治・外交ことはじめ――氏族、ディアスポラ、アル・シャバーブ 『恋するソマリア』著者、高野秀行氏インタビュー

2015年07月29日 01時41分 JST | 更新 2015年07月29日 01時58分 JST

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「アフリカの角」という言葉をご存知だろうか。アフリカ大陸の東に突き出た半島部分、ちょうど動物の角のような形をしたこの地域に、エチオピア・ジブチ・ケニアに隣接して海岸線を覆うような形で存在しているのがソマリア連邦共和国である。

1991年に独裁政権が倒れて以来、この国では内戦と無政府状態が続き、「崩壊国家」とも呼ばれている。事態の打開を図るために実行された、アメリカを中心とする多国籍軍の派遣が惨めな失敗に終わったさまは、映画『ブラックホーク・ダウン』にも描かれている。国連やアフリカ連合によるその後の度重なる国際介入も、未だこの国に真の安定をもたらすことはできていない。

しかし、内戦と海賊のイメージが先立つこのソマリアの北部に、平和を享受する謎の独立国家「ソマリランド共和国」があるという。国際社会では国として認められていないものの、混乱の続くソマリアの中でそこだけ十数年も平和を維持しているというのだ。この和平の実現には、「氏族」が大きく関係していたというが、この氏族については外国人には理解が難しい。

こうした国内政治の謎に加えて、ソマリ世界の外交も負けず劣らず複雑な様相を呈している。イタリアの植民地支配を受けていたソマリアに対し、ソマリランドはイギリスの旧植民地であるが、ソマリアとソマリランドの関係には、こうした旧宗主国や近隣諸国の利害も絡み、実像を捉えるのは困難だ。

2013年に刊行された『謎の独立国家ソマリランド』は、現地取材によってこうしたソマリランドの謎を解明する著作であったが、それから2年、ソマリアを題材とする2冊目の著作、『恋するソマリア』が刊行された。ソマリランドを超えて、ソマリ人が住むソマリ世界全体に射程を広げた本作に関連し、政治・外交・社会にまたがって著者の高野秀行氏にインタビューを行った。(聞き手・構成 / 向山直佑)

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どうしてソマリア?

――高野さんはこれまでもコンゴ、ミャンマー、ブータンなど、様々な国に関して執筆されてきました。そうしたなか、ソマリアに興味を持たれた理由からお聞かせいただけますか。

もともと「未知」とか「謎」といったものを求めて辺境に行くのが好きなんです。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」というのをモットーにしています。

「ソマリランド」という謎の独立国家がある、と聞いて、そんなものが実際に存在するのか、それはどういうものなのか、と思って見に行ったのが最初でした。旧ソマリア(ソマリランドと南部ソマリア)には2009年に初めて行ったのですが、以来、1、2年おきに今まで通算5回行きました。

――今回、2冊目のソマリア関連の書籍となります。まだ書きたいことが沢山あったということでしょうか?

最初はソマリランドだけで終わるつもりだったんですが、調べているうちにソマリ人自体が謎というか、面白くなってきたんですね。

というのもソマリ人は、今まで僕が付き合ってきた民族と、桁が違うんです。普通、伝統的な生活をしている民族というのは、あまり変化がなく、あるとしてもそれは近代化していく、という変化しかありません。それは同時に、民族らしさを失っていく過程でもあります。

でもソマリ人だけは、近代化とは全く別の次元で伝統を維持している、あるいは、伝統の中で近代化を取り込んでいく、という独特な動きをしているんです。そこに惹かれました。

――ソマリに関する情報収集は、どのようにされたのでしょうか?

そもそもソマリについては、日本語でも英語でもあまり資料がないのですが、その数少ない資料を読んでも、よくわかりませんでした。なぜかというと、1つには、ソマリというのは氏族社会なのですが、その氏族を表に出してはいけない、という暗黙のルールがあるからです。

どの氏族とどの氏族が対立しているといったことを書くことによって、対立や抗争を煽ってしまってはいけない、という良心的な意図で行われているのですが、これによってかえってソマリ人の実像が非常に見えにくくなっています。氏族ばっかりは、実際に行ってソマリ人に聞かないことにはわかりませんでした。

また、ソマリ語という言語の難しさも、ソマリ人を「秘境民族」にしている要因の1つですね。純粋な外国人で、ソマリ語をある程度話せるという人は、おそらく世界で20人もいないのではないでしょうか。というのも、ソマリ人は外国語が得意なので、別に外国人がソマリ語を話せなくても問題ないんです。

ソマリ人と日本人

――文中でご自身をソマリのディアスポラ(海外在住者)になぞらえていらっしゃいますね。

私は帰国後も、ソマリのテレビ局の仕事を日本でしようとしたり、ソマリ語を習ったり、ソマリ人の知り合いに日本から送金したりと、とにかくソマリ人から忘れられてしまうことを本気で恐れて、できるだけソマリとの関わりを維持しようと必死でした。

忘れ去られないために必死で送金する、こういう行動は、ソマリ人ディアスポラとほとんど同じなんですね。ソマリ人にとっては世界というのはソマリ世界のことで、たとえニューヨークやロンドンで成功しようが、「本場」であるソマリ世界で認められなければ、何の意味もありません。だから彼らは「本場」で忘れられてしまわないように、頼まれなくても故郷にお金を送り続けるわけです。

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半砂漠を横断する“世界最悪の夜行便”で魂が抜けかかっている著者・高野秀行氏

――ソマリ世界で認められなければ、何の意味もない、ですか。

こういうところは、日本人にとてもよく似ていると思います。日本でも、「国際人になる」とか「国際的に活躍している」とかいうことが賞賛されますが、多くの人は所詮日本で認められないと、全然意味がないと思っている。「世界で認められた人」がすごいというのは、「世界で認められた人だと日本で紹介された」からすごいのであって、世界で認められたこと自体がすごいわけではないんです。そのニュースが日本で評価されないと、意味を持たない。

日本人とソマリ人は対極にあるように見えて、実は内向きなところが非常に似ているように私には思えますね。

――ソマリ人は外国語にも秀でているし、海外に移住することも多いのに、内向きだと。

むしろ、内向きだからこそ、どこにでも行けるのではないでしょうか。どこに行っても必ずソマリ人がいるところ、より正確に言えば自分の氏族がいるところに行く。そこには、ソマリ人の経営するレストランがあり、カフェがあり、商店があって、しかもたいてい氏族ごとに分かれています。つまり外国にいても、ソマリアやソマリランドにいるのとほとんど変わりません。だからどこに行っても構わないわけです。

――周辺の他の社会と比べても、ソマリ人社会は閉じていると思われますか?

そう思います。ソマリ世界では氏族社会が非常に大きな力を持っているので、社会も氏族単位に分かれています。外国にいても、まずソマリ人というだけでは、仲良くなりません。日本にも在日ソマリ人は数人いますが、全然みんなで集まったりはしていませんね。もし日本人が数人しかいなければ、何かしら集まって食事をしたりすると思うのですが、ソマリ人は氏族が違うとそういうことは基本的にしません。

氏族同士の仲が悪いというだけで、個人同士も仲が悪くなることさえあります。

ソマリを統べる氏族の謎

――近代化論のような考え方で言えば、伝統的な氏族社会は近代化に従って希薄化していく、と考えられそうですが、ソマリアではそのようになっていないのですね。

そうですね、教育を受けたインテリでさえも、依然として氏族を自分のアイデンティティとしている面があります。

もっとも、日本人でも外国にいれば「日本人」、関西出身で東京にいれば「関西人」、関西にいれば「大阪府民」や「奈良県民」といった形でアイデンティティを持つのと同じように、どのような環境にいるか、誰との関係において自己を規定するかによって、氏族のどのレベルにアイデンティティを持つのかは変わってきます。氏族というのは一種の「住所」のようなものですね。

――そうした氏族社会にも良い面と悪い面がある、という記述がありました。

良い面としては、まず氏族の中で「助け合い」が行われているところでしょうね。「ソマリ人に乞食はいない」と言われていて、ソマリアやソマリランドにたくさんいる物乞いの人たちは、大抵がエチオピア人など、他の民族であることが多いそうです。

それはなぜかというと、1つにはソマリ人は物乞いをするくらいなら盗む、ということもありますが(笑)、より大きな理由としては、氏族内での相互扶助の仕組みが発達していることがあります。氏族の人間の生活には氏族が責任を持つ、そうしなければ氏族の名が落ちるから、という理屈ですね。

ソマリランドやプントランドでは、喧嘩や交通事故などで人を死なせてしまった場合、加害者の氏族が賠償金を被害者側に支払う、という仕組みもあります。紛争解決手段としての氏族、という面です。

また、興味深いことにソマリランドでは、DV(家庭内暴力)がとても少ないと言われています。というのも、ソマリランドでは違う氏族から妻を迎えることが多いのですが、妻が違う氏族だと、もしDVをしようものなら、妻の氏族が介入してくることになるわけです。「うちの氏族を侮辱している」ということになるので。そうすると危なくって夫も手を出せませんよね。それは良い面ではありますが、そこから氏族抗争が始まってしまうこともあり、そうなると困りモノです。

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戦争を終わらせるための話し合いを行う氏族の長老たち

――氏族間の通婚は普通に行われているのですか?

特にソマリランドではそうです。これは面白くて、南部ソマリアではあまり通婚はしません。というのも、南部ではまだ戦乱が続いていて、このような不安定な社会では、他の氏族と姻戚関係を結ぶというのは不安なんですね。戦乱が続いていると、「あの氏族の◯◯は、何年前にうちの氏族の△△を殺した」というような嫌な記憶が残っていたりするので、そこで反対する人が出てくるわけです。結果的に、自分の氏族で固まることになります。

ソマリランドの場合は、違う氏族の人と結婚して、人脈を広げたほうがよい、という考え方が主流なようです。

――氏族の悪い面についてはいかがでしょうか。

悪い面としては、まず「自分の氏族さえ良ければいい」という考え方ですね。地域とか、国とか、そういった全体のことを考えなくなるわけです。ただ、それは氏族内の相互扶助と表裏一体、という面はあるので、一概に悪いとは言えないかもしれません。

もっと問題なのは、不平等や差別です。強い氏族は威張っていますが、弱い氏族は低く見られて、良い仕事につけない、意見を聞いてもらえない、などということがあります。私の知り合いでも在外ソマリ人でそうしたひじょうに弱い氏族の出身の人がいますが、彼なんかは「もうソマリアには帰りたくない」と言っているくらいです。

――そうした不平等や差別はどこから来ているのでしょうか?

色々ありますが、まず氏族の人数が少ないこと。戦力が低いと弱くなります。それから他の国での例と同じように、屠畜などの特定の職業を担ってきた人たちがおり、他にはバンツー系の血が入っている人たちも力が弱いですね。あとは、ソマリ社会は遊牧民社会なので、農民・漁民も軽く見られています。

ソマリランド国際承認の謎

――ソマリランドは独立を目指しているということですが、他国に対して何か働きかけは行っているのでしょうか。

やっていますけど、目に見える成果はあがってないですね。ただ例えばエチオピアはソマリランドと良い関係を築いていて、陰で色々と支援をしています。ソマリランドが紛争を解決して和平を達成できた要因としても、エチオピアのサポートは大きかったと思います。

先進国では、やはりイギリスが好意的なようですね。ソマリランドの紙幣も、イギリスで発行して、空輸していますから。これは未調査ですが、紙幣を印刷して輸出する、などということが民間レベルだけでできることとは思えないので、もしかすると政府のレベルでの黙認や協力があるのかもしれません。イギリスは実際、2012年、2013年に行われたソマリアについてのロンドン会議においても、ソマリランドをソマリア政府のカウンターパート、つまり対等な和平の交渉相手として認める、という立場を取っています。

――エチオピアがソマリランドをサポートするのには、何か理由があるのですか?

エチオピアとソマリアは、歴史的に「宿敵」のような関係にあります。なので、エチオピアとしては、ソマリ世界は分裂してくれていた方がありがたい、さらに、分裂している片方、つまりソマリランドは、自分たちと仲が良い方がありがたい、という利害関心があるわけです。

だからこそ、南部ソマリアの人たちは、ソマリランドが独立を自称しているのは、エチオピアなどの外国勢力の陰謀だ、と主張しているわけですが。エチオピアは、同じような理由から、ソマリランドだけではなくプントランドも支援しています。

――作中にも出てくるこのプントランドというのは、どういった場所なのでしょうか。ソマリランドのように、国家の体裁を整えているのでしょうか。

プントランドというのは、ソマリアの北東部、ソマリランドの東にある地域ですが、独立を宣言しているソマリランドと違って、「自治政府」という形で存立しています。このプントランドも、一応形式を整えているとは思います。ただそこは曖昧なところで、何というか、現代の国民国家の枠組みで捉えている限り、正確に把握することはできないと思います。

私はむしろ、近代以前の王朝のイメージが合うような気がしています。近代以前は国境の概念が曖昧で、世界の多くの地域では、大きな王朝の支配領域の中に小さな王朝があり、後者が前者に「朝貢」する、という形で統治が行われていたわけですよね。プントランドというのは、半独立王朝でありながら、全体としてのソマリア王朝の下にある、と考えるとわかりやすいと思います。国民国家の枠組みで考えると、「なぜ国の中に国があるんだ」という矛盾が解決されませんからね。

ソマリ世界というのは、近代国民国家とは違う概念で動いているわけで、それを近代国民国家に無理に合わせようとすると、どうしても齟齬が生じます。今は「ソマリア連邦」の一員としてプントランドがある、という形で折り合いをつけようとしていますが、それもなかなか上手くいきません。

何が上手くいかないかというと、軍事と経済なんですね。もし連邦になれば、1つはお金をどう配分するかという問題が生じます。例えば外国から援助が来るときは、プントランドではなく、ソマリアの首都のモガディショに来るわけです。それを分配しろ、という話になるわけですが、プントランドが納得できる額を中央政府が与えるとは思えません。逆に、プントランドが輸出入で得ている関税収入を、中央政府に還元しなければいけないわけですが、この分配も問題になります。

――ソマリランド、プントランド、南部ソマリア、これらの地域の人たちは、お互いの地域についてどれだけ理解しているものなのでしょうか。

お互い知らない部分がやはり多いですね。氏族構成はこれらの地域の間でけっこう違っていて、例えばソマリランドにいる氏族は、南部ソマリアにはあまりいません。お互いが相手をきちんと理解しないまま、イメージで語っている面は大きいと思いますね。

情報は入ってきてはいるのですが、だから相手のことをわかっているかというと、そうではありません。

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ソマリランド・ハルゲイサ中心部の町並み

アル・シャバーブと野党の謎

――ソマリアでは、アフリカ連合(AU)の部隊が展開し、治安の維持などにあたっていますが、彼らはソマリア社会にどのような影響を与えているのでしょうか。

まず、AU軍がいないと、現在のソマリア政府は到底存続しえないでしょうね。アル・シャバーブという反政府イスラーム過激派勢力にすぐ席巻されてしまうでしょう。今は南部ソマリアでも、アル・シャバーブを支持しない人の方が多いのでAU軍がソマリアにいるということは、国民の要望には応えていると思います。

ただ、他方では、ソマリ人にとって、外国の軍隊がいるということは、それだけで屈辱だという面もあります。これは別にソマリ人に限ったことではないのですが、外国の軍隊というのは、何か悪いことをするから嫌われるのではなくて、存在だけで嫌われるものです。アフガニスタンでの米軍もそうですが、武力を持った外国の勢力が自分たちの国に居座っているということは、地元の人たちにとっては、それだけでものすごく不快で屈辱的なことなんです。

――アンビバレントな気持ちがあるわけですね。

アンビバレントならまだ良いですが、明確にアル・シャバーブの側を支持する人もいます。南部ソマリアを脅かしているアル・シャバーブですが、それを「イスラーム過激派」という言葉で全てくくれるかというと、全然そういうことはないんですね。

この間、防衛省でも話してきましたが、アル・シャバーブは、ソマリアでは一種「野党」的な役割を果たしています。ソマリア政府の中では、はっきりとした与党と野党の区別はなく、政府は非常に非民主的で、腐敗しています。

すると、例えばジャーナリストでも、アル・シャバーブに行ってしまう人も結構いるわけです。なぜそんな言論の自由も許さないようなところに行くのかというと、逆に政府に弾圧されて命の危険を感じているからなんです。政府と対立すると、アル・シャバーブに近づかざるを得ない。そういう状況がソマリアの全土で起きているわけです。

例えばA氏とB氏という氏族が対立しているところに政府が介入してくると、政府は中立的な立場で仲裁するのではなくて、A氏に味方するということがあります。政府の中ではA氏が強いから、といった理由で。そうすると、B氏の方は政府の言うことなんて聞けませんから、アル・シャバーブに助けを求めることになります。そこはもう、宗教や思想の世界ではなくて、どちらにつくか、という純粋に政治的な世界になります。

だから、今の状況を解決する一番現実的な道というのは、政府内にはっきりとした対立が生まれることだと思います。野党ができるということですね。与党と野党の議会の中での激しい対立が起きることで、これを武力闘争にせずに済むわけです。軍事ではなく政治で、対立・交渉を行わせる必要があると思います。

――その点、ソマリランドではこうした与党と野党の対立が、あるわけですね。

はい、ソマリランドでは与野党対立が機能しています。こちらもギリギリの「激しい」対立ではありますが。

――ソマリランドの政党は、氏族の影響をなるべく排除した形で構成されているとのことですが、これはなぜ可能だったのでしょう?

ソマリランドでは、長老も含めて、人々が「氏族には良いことと悪いことがある」とはっきり理解しているからでしょうね。氏族は社会的な紐帯としての機能は果たせても、政治や外交には対応できない、ということが言われています。争いを解決したりすることは氏族がやっても、ソマリランド全体にどれだけ学校を建てて、どれだけの予算を道路や病院の建設に割り当てて、といったことは、氏族ではなく政治がやるべきことだと。

――すると、ある氏族の人がどの政党に参加するか、ということはどのようにして決まるのでしょうか。

基本は、政策的な主張で決まっています。あとは、歴史的な経緯ですね。例えば、今のソマリランドの与党というのは、かつての独裁政権時代にゲリラ活動をしていた人たちが中心となっています。一方野党の方は、インテリが中心です。いわば「元ゲリラ対インテリ」というのが対立の核になっているわけです。

彼らは互いに到底相容れませんが、それが良いんです。このような氏族を超えた対立軸があるおかげで、氏族争いにならずに済むわけですから。

ソマリアの学歴インフレ?

――ソマリアのインテリの人たちは、どこで教育を受けるのですか?

独裁政権が倒れた1991年までは、首都のモガディショで高等教育が受けられました。面白いことに、この独裁時代には、若手の人たちがどんどん登用されて、大臣なんかにしていました。若手は言うことを聞くから、という理由ですが、そのせいで30代で大臣、などという人も多くいました。そういう人たちが今でも元気に活動しているわけです。行政の経験があるのは強いですからね。

――独裁政権が倒れた後は、どうなったのでしょう?

その後は外国ですね。かなり多くの人が難民で海外に流出しましたので。今、ソマリ世界は学歴インフレになっていて、ソマリア中央政府もソマリランド政府も、大臣になるには学士号だけではダメで、最低限先進国の修士号を持っていなければいけないと言われるほどです。

今後の予定

――今後、ソマリア関連で3冊目をお書きになる可能性はありますか?

それはわかりませんね…。そこが研究者との違いかと思いますが、研究者というのは深めていく仕事ですよね、自分のテーマをどんどん探求していくという。私は物書きなので、読者は素人です。つまり、私がソマリ研究をどんどん深めていったとしても、読者はついてこられなくなるわけです。私は色んなことをやりたいタイプなので、これはこれで良いと思いますが。

なので、ソマリについては、一般に伝わる面白いテーマがあれば、という感じですかね。ただ、それは一生懸命探すようなものではなくて、出てくる時に自ずと出てくるものだと思います。

――どういうことですか?

私はいつも10個くらい頭の中にやりたいことがあって、それを同時並行しています。例えばソマリアにいても、まったく別件の取材のメールを送ったりしているわけです。私は取材というのは、ある程度の期間をかけなければいけないものだと思っているんです。100%の力で1年やるより、50%で2年、それよりも30%で3年やる方が、ずっとうまくいくと思っています。

時間を長くかけると、自然と入ってくる情報がありますよね。1年では入手できなかった情報が、2年かけていると何かの機会に自然と伝わってきたりすることがある。だから、それを待つという意味でも、同時並行することにしています。

最近はアジア大陸の納豆についていろいろ調べて書いています。ほとんど知られていませんが、東南アジアからヒマラヤにかけて、納豆を食べている民族がたくさんいます。これがまた未知の世界で、ものすごく面白いんですよ。これからも地域としては、日本に近いアジアの国々と、イスラーム圏の二本柱で、やっていきたいですね。

恋するソマリア

作者: 高野秀行

出版社/メーカー:集英社

発売日: 2015-01-26

メディア: 単行本






高野秀行
ノンフィクション作家

1966年東京都生まれ。早稲田大学探検部時代に書いた『幻獣ムベンベを追え』でデビュー。タイ国立チェンマイ大学日本語講師を経て、ノンフィクション作家となる。2006年『ワセダ三畳青春記』で第1回酒飲み書店員大賞、2013年『謎の独立国家ソマリランドそして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』で第35回講談社ノンフィクション賞、2014年同作で第3回梅棹忠夫・山と探検文学賞を受賞。8月下旬に日本中世史専攻の清水克行・明治大学教授との対談『世界の辺境と ハードボイルド室町時代』を刊行予定。

(2015年7月27日「SYNODOS」より転載)

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