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日本人の知らないシリコンバレー:「D2C」というリテールの新潮流

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本日は、久しぶりに「日本人の知らないシリコンバレー」シリーズを書きたいと思います。

シリコンバレーでは常識だけど、日本にはまだ来ていないトレンドについて不定期で書いているシリーズです。過去にはこんなポストを書いています。 先日、「急成長の「子供服の定期購入」サービス 創業半年で23億円を調達」という記事がNewspicksでピックされていました。 スクリーンショット 2017-01-22 4.52.01 この記事で取り上げられているRockets Of Awesomeは、メガネECで急成長しているWarby Parkerの創業者兼CEOのNeil Blumenthalの奥さんであり起業家のRachel Blumenthalが立ち上げた新しい子供服のスタートアップです。

NewsPicksでのコメントを見ると、サブスクリプション、レンタルというビジネスモデルのアングルからやや悲観的なものが多かったのですが、私はチームの経歴や彼らのD2Cを核とした事業モデルには大いに可能性があると考えています。

Scrumでも、ファンド立ち上げの2013年から注目し投資をして来ている「D2C」というリテールビジネスの大きな潮流について、その代表例、注目すべき理由についてまとめたいと思います

大きく伸びる「D2C」スタートアップ


Eコマースは、90年代にインターネットが普及をしてくる中で、店舗や店員を必要とする従来型の小売店と比較して、それらを必要としない圧倒的に安価な新しい流通チャネルとして注目を集めました。

この頃のEコマーススタートアップは、製品を作るメーカーがいて、その商品をオンラインで販売することで手数料などで儲けるというモデルが主流でした。初期のAmazonなどがこの代表例です。

その後ご存知の通りEコマースは人々の生活に急速に浸透し、今や米国全体の小売の約10%を占めるまでになりました。2020年までには、約15%まで成長するという予測もあります。

そして、2000年代後半になり、新たに勃興して来たのが「D2C」スタートアップです。

D2Cは、Direct To Consumerの略で、自らがメーカーであり、自社で企画、製造した商品を自社のECサイトで販売するモデルです。最近では何もないところから起業したスタートアップが、いきなり自社製品を開発し、販売するケースが非常に増えています。

「D2C」スタートアップの有名な例としては、Bonobos(男性衣料 / 2007年創業)、Warby Parker(メガネ / 2010年創業)、Dollar Shave Club(ヒゲソリ / 2011年創業)、 Casper(ベッド / 2013年創業)などがあります。

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左上から時計回りで、Bonobos、Warby Parker、Dollar Shave Club、Casper。

それぞれオリジナルの洋服、メガネ、ヒゲソリ、マットレスを企画、製造し、自社で立ち上げたECサイトで販売しています。いずれも創業5年足らずですが、売上規模は$100Mを超えるほどに成長しています。

ちなみにヒゲソリのD2CスタートアップであるDollar Shave Clubは、昨年生活用品大手のUnileverに$1Bという規模で買収されています。

「D2C」が成長する背景


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Scrumでも、女性ファッションのLeTote、女性下着のThirdLove、香水のScentBirdなど、立ち上げ早々から自社の製品を持つD2Cスタートアップに数多く投資をしています。

最近では、先述のRockets Of Awesomeに限らず、初年度から垂直立ち上げに成功し、$10M単位の年商を実現するD2Cスタートアップをよく耳にします。

このように米国でD2Cスタートアップが続々と生まれ、急成長している背景には以下の3つの要因があると考えています。
  1. [顧客]  ソーシャルメディアによる効率的な顧客の獲得
  2. [製品]  小ロットから安価で発注できる製造業の存在
  3. [ブランド]  新しいブランドを欲しているミレニアル世代
一つ目は「顧客」の獲得に関する変化です。

従来のEコマースのビジネスと比べて、D2Cのモデルは自社製品を持つということで、従来のメーカーなどと同様の在庫のリスクを負うことになります。資金が豊富ではないスタートアップですから、早くターゲットとなる顧客を見つけ、販売につなげる必要があります。

全くブランドのないスタートアップが一気に顧客を獲得することを可能にしているのが、ソーシャルメディアの存在です。ミレニアル世代が長い時間滞在するFacebook、Instagram、YouTubeなどを縦横無尽に活用することで、ユーザを獲得しています。

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これはメガネのWarby Parkerの例ですが、Facebookで61万件のLikeInstagramでは30万人以上のフォローがいます。実際のユーザ獲得はターゲティングされた広告によるものが大半ですが、店舗ネットワークもブランドもないスタートアップにとって、こうしたコンテンツマーケティングは非常に大きな役割を果たしています。

そして、最もパワフルなのは動画、YouTubeです。

D2Cスタートアップにとって非常に重要なのが「Unboxing」と呼ばれる動画です。

Eコマースで届いた商品を、箱を開け、一つ一つ商品を取り出しその感想などを紹介する動画で、Warby Parkerでは4万件以上も存在します。FamebitのようなYouTuberネットワークで有名なYouTuberに有料で依頼するケースもありますし、紹介者に特典があるクーポンコードなどを活用して一般の消費者が自発的にUnboxingをするケースもあります。このUnboxingというカテゴリーはすでに巨大になっており、Unboxing動画で月商$1M以上という5歳!のYouTuberもいます。

Unboxing動画は、YouTuberのフォロワーのネットワークを通して多くの人にリーチをできるだけでなく、実際にどんな商品が届くのかがわからないというEコマースの不安を解消する役割も果たしています。

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こうしたソーシャルメディア活用のノウハウはどんどんスタートアップ間で引き継がれています

Warby Parkerのソーシャルメディア担当だったJen Rubioとサプライチェーン担当だったSteph Koreyが立ち上げたスマートトランクのスタートアップ Awayは、まだ創業して約二年ですが、ソーシャルメディアをフル活用することで、自社製品のトランクを5万個も販売し、すでに$10Mもの売り上げを実現しているそうです。前述のRockets Of Awesomeの創業者は、Warby Parketの元アドバイザーです。個人的には、このWarby Parket ソーシャルメディアマフィアに注目しています。

二つ目は、「製品」に関する変化です。

ハードウェアの世界で、3Dプリンタ、CADなど「ツールの進化」、そして製造業が集積する深圳などの「サプライチェーンの進化」により、スタートアップでも比較的容易に自社のハードウェア製品が作れるようになっているのは周知の通りです。

化粧品や洋服などのカテゴリーでも同様のことが起きています。つまりスタートアップでも自社製品を作るハードルがぐっと下がっているということです。

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これは投資先の女性下着D2C ThirdLove24/7というラインの商品です。

彼らは2013年の創業ですが、創業当時から自社で製品を企画、製造して急成長しています。アパレルのバックグラウンドを持った人間は創業チームに複数いますが、実際の製造ラインは海外の縫製工場を利用しています。

スタートアップの製品だから安かろう悪かろうではなく、その形状記憶の素材を使った柔らかい下着は様々なメディアで高い評価を受けています。

中国、最近だとインドなど一部地域に限定されていますが、自分たちの企画とデザインがあれば、小さなロットであってもオリジナルの製品を作れる環境があるということは非常に大きな要素となっています。

またD2Cの最大の強みは、小売を介さずに、直接消費者と繋がるため、様々なデータ(嗜好、利用、ソーシャルなど)がたまり続けることです。

ビジネスが成長していけば、今度は実際の購買、利用状況のデータを活用して、データから予測される売れる商品を売れる数だけ作るということが可能になります。最近は、小ロットなだけでなく、オンデマンドに近い形で製造が委託できる工場も増えていると聞いています。

最後は、ブランドです。

D2Cスタートアップがターゲットとしているミレニアル世代は、デジタルネイティブな世代でもあり、ソーシャルメディアなどデジタルな媒体から様々な情報に接触しています。

こうした世代の彼らは、洋服、メガネ、ヒゲソリ、家具などもTV時代からあり従来の小売店で扱われている古いブランドではなく、今の時代にあったデジタルネイティブなブランドを求めているというのも大きな要因です。

TVなどの広告を駆使してブランドを作り上げた巨大企業が、今も大きなシェアを占めているカテゴリーはまだまだあります。こうしたカテゴリーでは、若い起業家が立ち上げたD2Cのスタートアップが、ソーシャルメディアを核にデジタル時代のブランドを築き急成長できる可能性が大いにあります。

オンラインからリアルへの逆展開


こうしてオンラインの新しいチャネルで躍進しているD2Cスタートアップですが、ここ数年さらに新しいトレンドも生まれています。

「リアルへの逆流」です。

Amazonによるリアル店舗 Amazon Goのニュースが記憶に新しいですが、Warby Parker、Bonobosなどもどんどんリアル店舗に進出しています。現時点で、Warby Parkerが48店舗、Bonobosが30店舗展開しています。

彼らが実際にどんな店舗を展開しているのかは、このBonobosの動画がわかりやすいです。

Bonobosでは、リアル店舗のことを「Guide Shop」と呼んでいます。

店舗に行く際は、まずサイトから予約をする必要があります。基本は30分、じっくり相談したい場合は60分、お店と時間を予約をしてからお店に行きます。AppleのGenious Barに似ています。

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そしてお店に行くと、「Bonobos Guide」という店員さんが出迎えてくれます。

当然のことながらサイトで登録した情報、過去にサイトで購入した洋服などのデータをタブレットで見ながらオススメの商品を一緒に探してくれます。

従来の小売ではその店で以前どんなものを買っているなどは関係なく商品を勧められますが、オンラインを主軸にしたD2Cのリアル店舗では、オンラインと同様の体験が得られます。

実際に、インターネットのトレンドをまとめたMary Meekerの昨年のレポートで、Warby Parkerは単位面積当たりの小売売上のランキングでAppleに続いて2位になっています。利用者にオンラインと同等のパーソナライズされた体験を提供することで、実際に売り上げにコンバージョンできているということです。

老舗のブランドが大きなシェアを占める巨大業界に、エッジの効いた自社製品で切り込み、ソーシャルメディアでブランドを築く。そして、そのデータとユーザをテコにして、リアルでも勝つ。Amazonのリアル店舗、Amazon Goはその無人化テクノロジーが注目されていますが、当然こうした発想は取り入れてくるはずです。

Eコマースとソーシャルメディアを大きく普及した今の時代に、こうしたD2Cスタートアップまだまだ増えると思います。

注目しておいて損はないトレンドです。

D2Cも含めたリテールの新しいトレンドに関してまとめたレポートを今月リリースします。ご興味ある方は是非こちらもご覧ください。